焦れる貪欲の爪先
店の外に置いてあるロッキングチェアーに、どっかりと座り込んでいたリクは、先ほどから延々、飲み続けているホットウィスキーのグラスを傾ける。
琥珀色に歪んだ景色が写り、少しだけ視界を曇らせるが、生憎、既に現実を目にしてしまったのだ。だから、何の慰めにもならない。慰める為に酒を飲むだなんて愚の骨頂だと分かってはいるが、どうにも身のやりようがないのだ。
ココロとコウが仲良く、腕なんて組みながら歩いている様を目撃してしまった。あの二人が事実上付き合っていると知ってはいたが、そのものずばりの光景を目の当たりにした事は今までなく、ついにその日が訪れたのかと見当違いな苛立ちを覚えたまでだ。
俺に抱かれた次の日に、よくもまぁ、あんなにのうのうと、楽しそうな面ァして遊べるモンだぜ。
何て呆れ返ったところで同じだ。そもそも、ココロは自分の事を愛しているだなんて一度も言った事はないわけで、単に恐れているからこそ関係を続けているだけだ。自分で自分の首を絞めているだけ。
確かに、きっかけこそこちらが作ったのかも知れないが、その後は勝手に(こんな言い方も何だが)泥沼へ堕ちていった。
それなのにまぁ、目前を(こちらには一切気づかずにだ)寄り沿いながら歩く二人の仲睦まじい事。思わずこちらが顔を隠してしまうほどの違和感だ。
そもそもあの二人の関係は確実におかしい。どこが、それは分からないが確実に何かがおかしい。普通ならば、手前の彼女が浮気なんてしていたら即刻、関係は解消するだろうし、そもそも頭に血が昇って仕方がないだろう。
それなのにだ。
それなのに、コウは普段と何ら変わらず、動じる事さえない。最初は何かのプレイかとも思ったが、そうでもないらしく、どうも思っていないのだと気づいた。奪い取るも何もない。
ココロはココロで、遊びだとハナから割り切っていたのだろう。コウからは心一つ動かない有様だ。
だから、腹が立って追い詰めた。何も変わらないと知っていながら。こんなやり口で結局、愛も恋も信じられなくなっただなんて間抜けな話だ。
こちらがどれだけ愛したとしてもココロは愛さないわけで、だったら何故こんな真似を続けているのかと思う。傍から見ても内情なんて分からないのだ。少々、自分が青臭かっただけ。きっと。
熱い酒は一気に体内を駆け巡り、瞬間酔いが回る。こんなものだと割り切っている振りをしているが、その実、誰よりもココロを信じたいだけだと知っている。ココロを、というか愛した相手を。だから、これまで現実なんて見ないで生きてきたのに。
だったら最後の最後まで、俺は絶対に諦めやしねぇが、それでもこの俺が朽ちるまで演じ続けて、怯えてる振りでもいいから、少しくらいは俺の側にいて。
コウが側にいるからココロは幸せで、コウと一緒にいる時だけは、さきほどのような笑顔を見せるのだ。
だから、この関係を壊そうとは思わない。