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作者: ヘモ

ガコガコ、ガチャリと建てつけの悪いドアを開ける。開けた瞬間玄関の向こうから冷たい風がこちら側に噴き出してきた。

「ふう〜、疲れた」

口からため息のようにこぼれた言葉とともに玄関をくぐる。

玄関のすぐ横にあるスイッチを入れる。

明るくなった部屋ではどうしようもなく散らかったゴミ達が騒がしくしていた。

いつかかたずけなければいけないとは思ってはいるがなかなか行動には移せない。

「…よくこんなんで今までやって来れたな俺」

霜が降りたように冷え切った廊下を二歩三歩とあるき、どうしようもない自分にもう一息ため息をついて、ゴミとゴミの隙間に荷物を下ろす。

体が軽くなるとフワリと頭が揺れた。

視界が揺れ、頭の中から何かが抜けてくような感覚に落ちる。

「あらら、風邪でも引いたかな」

そんなどうでもいいことをつぶやいている合間にもどんどん症状はひどくなっていく。

ふらつく足を支えながら体温計の入ったタンスへと向かう。

ゴミをふらつく足に引っ掛け、引きずりながらなんとかタンスに辿り着く。

引き出しを開くと山盛りになった手紙が顔をのぞかせた。

からっぽになった頭に何かが広がって行く。

透明な水に墨汁の液が広がっていくような。

そんなことを考えていることすらフワリとからっぽになる。

「…こいつは本格的にひどくなってきやがったな」

開いた引き出しを閉め、急いで隣の引き出しを開く。

中にはちゃんと体温計がいた。

そしてそれをそのまま脇に挟む。

体温計がなるまでじっと待つ。

体温計がなるのを待つためか、部屋の静けさがやけに強調される。

ただじっと待つ。

じっと、じっと。

何も考えないように。

ーーピピピピッ、ピピピピピッ。


体温計を脇から取り上げ、覗き込む。

体温を読もうとするがどうにも字がうまく読めない。

あまりに強い陽射しのせいか日光が乱反射しているらしい。

ああ、くそとぼやきながら体温を読み上げることすら諦めベットの隣の机に体温計を投げ込む。

そうして重たい頭を持ち上げ、自分の頭の二倍はあるような枕に背中を預け、ただぼうとする。

そうしていると、半開きになった窓からどうしようもなく煮え返った風が吹き込んでくる。

「窓開けっ放しで行っちまったのか。くそ、すっかり忘れてやがった」

しかし、俺は窓を閉めようとも思えず、そのまま苦しい風にあたり続けた。


そうしていると玄関から扉を開く音が聞こえる。

佳奈が両手にスーパーにでも行ってきたのか大量の食品を詰めてのそのそと部屋に入ってくる。

おかえりと言おうとするが喉がから回ってうまく言葉が出ない。

「あれ、ごめんね起こしちゃったかな」

佳奈はそう言うと荷物をすぐ両脇に起きベッドのそば、俺のそばまで寄ってくる。

そうすると彼女は何も言わずに俺の額に手をおいた。

そうして何秒間かずっとそうしているとおもむろに彼女は動き出し、スーパーの袋が置いてある位置まで戻っていった。

そして、彼女はスーパーの袋をがさごそと漁ると何か小さな箱を持ち出し、またベッドの隣までやってきた。

ーー彼女が手にしていたのは熱さまシートだった。

それを箱の中から一枚取り出し、俺のでこにぴたりと一枚はっつける。

「よし、上出来!」

彼女はそう言うと、すくっと立ち上がり、ゆっくりと俺の顔を見つめる。


俺も彼女の顔を見つめた。


彼女はゆっくりと口を開いた。


「ただいま」


俺もそれに答えようと口を開く。

もう先ほどまでの喉元の違和感なんてどこかえいってしまったようだ。すんなりと声が出た。


「おかえり」


そう言うと彼女は笑った。



ーー耳元を流れる風の音に目を覚ます。

痛いぐらいに冷たい風が開いた窓から吹き付けていた。

ひとまずシャツの中に転がり込んでいた体温計を抜き取る。

どうやら体温を測りながら気づかぬうちにそのまま寝ていたらしい。

体温計を机に投げ込む。


そうして俺はゆっくりと部屋を見渡した。


そこには彼女がいた頃の満足とまではいかないが小綺麗で、どこからか甘い香りがし、彼女と笑って過ごした部屋があった。

彼女の思い出がそこに流れていた。

彼女といた思い出が、大きく膨らんで、波になって、押し寄せてくる。

俺はただそれをじっと見つめていた。

時間の流れすらも忘れて、楽しそうに笑う彼女をじっと見ていた。

彼女を見る。

彼女もまた俺を見る。


「ただいま」


確かにそういったように見えた。




ーー俺はゆっくりと窓を閉める。

そうして目元の涙を拭うとそこは弁当のゴミと少々のほこりが積もったいつもの見慣れた部屋に戻っていた。

俺はベッドから立ち上がると、タンスの上に大切に置いてある彼女の写真が入った写真立てを手に取る。

熱はもうとうの昔にひいていた。

きっと、天国から彼女がわざわざお見舞いに来てくれたんだろう。


窓からそっと外を見つめる。


そこに彼女がいるような気がした。














どうでしたか。お楽しみいただけたでしょうか。

まだまだ文章が拙いもので読みにくかったかもしれませんが、これからも色々と書いていく予定なのでよろしくお願いいたします。

ありがとうございました。

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