第8回
亜由美は楽しんでいなかった。
必死で勉強して桜花女子に入った。
友達もすぐできた。授業だって小学校のようにザワザワしていなし、
先生だって全然違う。塾はただ受験に成功するだけの授業だった。
毎日、学校に行くのが楽しい。
でも、何か足りない。何だろう。
今、目の前で球を打ち合っている東光の人だって
同じじゃないのかな。でも、楽しそうに見える。
ただ、テニスが好きなんだろうか。
隣で平田君と楽しそうに話している美紀だってそう。
確かに平田君はかっこいい。性格だって悪くない。
小学校の時からモテモテだった。
私に気があるみたいなのも、何となく分かる。
でも、なんか違う。
「あゆ、あゆ?」
「え、あ、なに?」
「なに、ボーッとしてんのよ。勉強できるくせに」
「か、関係ないでしょ。別にボーッとなんかしてないよ。
あ、それよりあの今打ってる坂本君の相手の人、誰?」
「なに、気になんの?あれが?」
あれがは失礼でしょう。でもまあ、間が悪いので言っただけだけど。
「西山君だろ?中学入ってから始めたらしいよ。背が高いし、いいサーブ打つし。
運動はさっぱりとか坂本が言ってたけど、そうは見えないよなあ」
「そう?なんかどんくさそう。ばたばた走ってるし。」
美紀は、ストレートすぎ。確かに左右、前後の動きは坂本君に比べると・・・
「ん。シングルスは厳しいだろうな。でも、あのサーブとボレーはうまいよ。
ダブルスなら行けると思うよ。」
「ふーん。でもまあ、平田君とはレベル違いすぎ。」
「テニスはね。でも、頭なら西山君の方がはるか上だし。」
「東光だから?」
「それもあるけど、実は俺、西山君知ってたんだ。」
へえ、そうなんだ。思わず聞いた。
「でも、ちがう小学校だったよね。なんで?」
「うん。西山君、俺が通ってた塾の毎週日曜のテストだけ受けに来てたんだ。」
「日曜だけ?なにそれ」
「俺は週に3日通ってた。東光行きたくてさ。でも全然だめ。
で、テスト受けた次の日曜に成績返ってくるんだよ。
でさ、いつも最初のページの、それも上の方にいたのが西山君だった。
女子でいつも上の方にいたのが、吉川さんだったよね。」
?!そうか、いたいた。日曜のテストしか来ないのにいい点取る男子がいるって。
ケント!そうだ、変な名前だってうわさになったんだ。そっか。あの男子か。
「へえ。頭はいいんだ。」
「そうだよ。東光でも成績いいらいいよ。これで、テニスも負けてたら
俺、立場ないよ。」
平田君は、そう言って笑った。いい人だ。全然卑屈になってない。
自分に自信持ってるんだろうな。
こういう男子、モテルはずだよね。なんでだろう、なのに私は引いて見ちゃってる。
「さ、今度はあたしたちやろ」
美紀が言った。
ところが。
「悪いけど、少しだけ、先にやらせてくれる?」
と、言いながら平田君がコートに走った。
???
「なに、平田君、どうしちゃったのよ。
でも、ま、いいか。平田君のプレー見られるし。ね、あゆ」
どうしたんだろ。平田君。
「坂本、ちょっと変わってくれる?」
突然、平田君が乱入してきた。
「ああ、いいけど。西山!平田と変わるから!
ボコボコにされろ!」
言われなくてもわかってるさ、ばかやろう。やれやれ。
でも、平田君とやるために来たんだからな。
でも、本気ではやってくれないだろうなあ。
「ごめん、西山君。じゃ、お願いします。」
「西山でいいから。じゃ、サーブ行きます。」
坂本には、そこそこ通用するけど、どんなリターンされるか楽しみだ。
さあ、いくぞ。手首の開放だ!