第6回
今日も暑い。
でも、学校での練習は休みだ。
先生が出張なのだ。
というわけで、家にいる。宿題もやっておかなければ。
そう思っていたら、坂本から電話がかかって来た。
「練習しないか?」
「どこで」
「竜王山公園のコートがとれたんだ。」
「竜王山?どこよ、それ。」
「地図で見ろ。学校に近いよ。」
「ふーん。誰がくんの?」
「俺の小学校以来の友達でさ、古川中行ったやつ。
スクール行っててさ、めちゃうまいぜ。」
「そんなやつ、相手してくれんのか?」
「ああ、教えてくれるってさ。」
ふん。まあいいか。俺より下手なやつと練習したってしょうがない。
(俺より下手なやつ探すほうが難しいけど・・・)
案外親は何も言わず、竜王山公園まで車で送ってくれた。
フラフラと町に遊びに出るよりはましと思ったんだろう。
約束の3時にはまだ30分もあった。
一人では何もできないし、公園管理事務所の休憩室で待つことにした。
自動販売機もあるし。涼しいし。
誰もいなかった。
この暑いのにテニスする人間はいないってか。とれたわけだ。
ソファもひとりじめだ。
とりあえず、くつろいでいたが、ふと聞いたことのある声が聞こえた。
「あゆ、ほんとにやるの?ちょーあついよ。平田君、ほんとに来るの?」
「坂本君はそう行ってたけど」
坂本?んん?
声の方を見た。すると、知らない顔と何度か見た顔があった。
市村さんと電車に乗ってた女子だ。状況からすると、「あゆ」という呼び名らしい。
それより、坂本って俺が待っている坂本か?
いかにも安直な設定だと思われるかも知れないが、こういう事はある。
それより、中学生だったのか。市村さんといたから高校生だと思っていた。
関係はわからないが。もし中1なら、市村さんの彼女ってわけでもなさそうだけどな。
そうなんだろう?もし違うなら・・・
ただ、そこから話が飛躍するかはどうかは別なのだ。
だいいち、向こうは俺をまったく知らないし、知ったところでどうにかなるもんでもない。
そもそも、さきほどの会話から察するところ、平田とかいうやつがお目当てなんだろう。
たぶん、坂本の友達でめちゃうまいやつなんだろう。
そんなことを考えていたのだが、どうも妙な気分だった。
「西山、ほんとに来たな。」
誘っておきながら、何を言うか。
「ああ、ひまだからな。早くやろうや。」
「おお。平田は来てるか?」
「誰よ、それ」
「言っただろうが。めちゃうまいやつ。」
俺が知るわけないだろうが。
「あっ、来た来た。平田!」
あいつか。小柄だけどな。
「ああ、坂本。さんきゅう、来てくれて。
あ、東光の友達?」
俺の方を向いて言った。俺の学校は東光学院という。
「俺、西山。下手だけど、よろしく。めちゃうまいらしいね」
「小学校の3年からやってるからね。でも、坂本なんか
中学から始めて、けっこう手強くなってる。そんなに変わんないよ。」
なんだ、いいやつじゃないか。ここは、素直に教えを請うことにしよう。
「いや、坂本はほんとうまいんだけど、俺はまだまだなんだ。
今日は、色々教えてくれよな。」
そこへ、女子の声。
「平田くん!久しぶり」あゆの方ではない女子だ。
平田くんは、少し驚いた様子だった。
「?田中?何でいるの?お前らもここでテニスやんの?」
たなか、という名前か。坂本が、ぼそぼそと言った。
「俺が誘ったんだ」
こいつか。
「うちらも、テニス部なんよ。平田くん、知ってるよ。この前のジュニアで優勝したんでしょ。
教えてよ」
!なんたることだ。俺はどうなる。坂本め。
だいいち、この中で一番下手なのは俺だ。かっこ悪いじゃないか。
「よし、時間すぎてるぞ。やろうやろう」
坂本が逃げるようにコートに向かった。