第30話
エースの長谷川がやめた。
長谷川がいなければ団体戦で勝負にならない。
だから続けても意味がない。
負けると分かってる試合なんて・・・
それに、所詮進学校の部活動だ。
楽しくやれればいいんじゃないの?
しゃかりきになっても先は見えてるし・・・
そう思うのが普通かも知れない。
西山もそう思わないではなかった。
しかし、やめるという気にはまったくならなかった。
人は人。自分は自分。
俺はテニスが好きだから続ける。
仲良く遊ぶだけのためのものじゃない、もはや。
そんなわけで、東光学院のテニス部は一気に弱体化した。
高校になると、一気に大会への参加校が増える。
中学では軟式が中心だが、高校では硬式も盛んだからだ。
その上、中学では学校に硬式がないため、学校外のテニススクールなどで
腕を磨いていた連中が高校の部活動に参入してくる。
連戦連敗は当然のことではあった。
しかし、東光学院高等部テニス部は意気盛んだった。
普通、高校2年の秋で引退する。
しかし、西山と鈴木にはそんな気はなかった。
今の後輩が夏休みを越えて伸びてくれば、秋の新人大会の団体戦では
勝負できると信じていた。
何とか、準決勝に進んで県大会から地区大会に進むのも夢ではないと
本気で思っていた。
顧問の橘もそう考えていた。
西山と鈴木のダブルスは勝てる。あとふたつ。
シングルスでふたつ。
テニスは他の球技のような団体スポーツではない。
すごい投手がいる、すごいエースストライカーがいる、というわけにはいかない。
個人の勝利が必要なのだ。
だから、よりチームの足を引っ張るプレッシャーがきつい。
今、勝利が絶対に必要とされる立場になった西山は
それをひしひしと感じていた。
しかし、それを楽しめる自分も感じていた。
たかだか高校の部活動、しかし、だからこそ中途半端じゃなくて
やるだけやらないと本当に楽しんだことにはならない。
幸い、鈴木もチームの中心になったことでキレル悪癖がなくなり、
冷静にプレーをするようになっていた。
1年の連中も早くから公式戦に出場できる喜びで元気だった。
負けても負けてもそれが力となって行くのが実感できていた。
やれるぞ。西山は冷静に燃えていた。