第3回
テニスには、硬式と軟式がある。
中学の部活動として多いのは軟式だ。
コートは土でいい。ボールも安いし、安全だ。
しかし、世界でテニスと言えば硬式だ。
よく聞くウィンブルドン、ローランギャロスなど全部硬式だ。
俺の学校も中学から硬式だ。
それがいいのか悪いのかはよくわからない。
結局、入部希望者は30人もいた。
コートは2面しかない。
多すぎると抽選になるかもしれない。
全員は入れたとしても、まともにコートで練習できるんだろうか?
などと心配していたが、杞憂だった。
俺のよう不安になった連中がかなりよそのクラブに希望を変え、
20名になった。
もちろん、坂本と俺は勇んで入部した。
なにせ、練習は週3日。後は自主練習で、これは朝だけ。
練習は夏休みから始まった。
とりあえずラケットは親父が遊びでやってた頃のお古。
シューズはスポーツ量販店の特価品。
別に不満はなかった。どうせ、レギュラーなんかなれっこないし。
と、ネガティブな気持ちでスタートした。
坂本はラケットも新品。気合入りまくりだった。
ラケットの握り方から入ったが、案外すぐに打たせてくれた。
やってみると面白い。隣のコートで上級生が練習している。
うまい。先生は、いろいろ注意、指摘してくれるのだが、
それよりも上級生を真似て打っていた。
一週間ほどたったある日、先生が1年を全員集めて言った。
「一週間見てきたが、レベルに少し差がある。
今日から2つのグループに分かれて練習する。」
来たよ。また選別だ。でも仕方ない。
いっしょくたにやるには人数多すぎるし効率も悪い。
公式戦の団体戦メンバーは7名。補欠が2名。
最終的にはそこまで選別される。
下級生に抜かされることもある。狭き門だ。
坂本はレギュラーを目指す組に入れるだろう。俺は・・・
「西山、お前こっちだ。Aだ。」
言い忘れたが、俺の名前は西山健斗。
ケントって読む。親父がスーパーマンが好きで、俳優の
クラーク・ケントからとったらしい。ありえない。
それはともかく、意外にも俺はうまい方の組に入った。
先に呼ばれたAの連中も意外そうに俺をみていた。
うれしそうな顔をしてくれたのは坂本だけだった。
その日から、急に厳しくなった。
Aチームは10名。微妙な人数だ。
間違いなく、俺が一番下手だ。
でも、スポーツで、なんらかの形で選抜されたのは人生初だった。
ドンジリでもなんでも、すごくうれしかったので
はりきってがんばった。
朝の練習も、欠かさずやった。時々先生も見に来るし、アピールしないとね。(せこい・・・)
そんなある朝、先生が俺を呼んだ。
「西山、ちょっと来い。」
やばい、Bに行けと言われるのかも。とおののきながら先生の所に行った。
「はい・・・?」
「おう、毎日がんばってるな。
お前な、足が遅いよなあ。」
来たよ・・・。
「でもな、お前、人のフォーム真似るのがうまいな。」
ん?
「それも才能だ。お前、サーブは誰かの真似してるか?」
どうやら、B行きチケットの話ではなさそうだ。
「ええ、市村さんの真似してみました」
「市村か。やっぱりな。でもな、お前には向いてない。
市村よりな、原口の真似してみろ。背の高さを生かすには
その方がいい。それに原口はな、お前みたいに足が遅いんだ。
だから、早いリターンをを打ち込まれると追いつけない。
それを防ぐために、まずサーブを磨いたんだ。それに、
広いコートを一人でカバーするシングルスよりも
ダブルスのレギュラーを目指した。それが、大正解だった。
今、原口と吉村のペアは県大会でも上位に食い込む。
お前もそれを目指したらどうかな。」
信じられない。つまり、俺をダブルスのスペシャリストに育てようと
してくれてるんだ!(誰もそこまで言ってないし・・・)
俺はあきらめもいいが、何でも都合良く受け止める性格でもある。
その瞬間から、俺はダブルスのレギュラーを目指すべく努力を始めた。