第25回
柳沢はまさか本当に東光が上がってくるとは
思っても見なかった。
エースの長谷川がいたにしても
甲北大付属の勝ちは間違いないと考えていた。
なのに・・・
それにまさかあの角田が負けるとは・・・
あの西山という選手、なめてかかるとまずい。
たぶん、決勝でもシングルス1で出てくるだろう。
万が一ということもある。
というわけで、橘の思惑通りの展開にはなった。
つまり、シングルス2で柳沢の息子は西山と対戦することになった。
交換したメンバー表を見た柳沢は歯軋りしたが
どうしようもない。
橘のやろう・・・
さて、柳沢Jrは別になんとも思っていなかった。
角田ともやったことはあるが、6−1で軽く勝った。
西山とかいうやつは初めてだがなんて事はないだろう。
それより、親父のやつ俺が負けるとでも思ったんだろうか。
それがむかつく。
こうなったら西山をこてんぱんにしてやる。
内心いきりたつJrだった。
さて、いきりたたれている西山だが、橘に抗議していた。
「先生、ダブルスに戻してくださいよ。」
「なんで。」
「なんでって、いいだろうが。こんな時しかやれないぞ。
角田や柳沢とやれるなんていい練習になるぞ。」
「もういいですよ。じゅうぶんです。」
「いいか、西山。シングルスとダブルスが全然別物と思ってるようだが、
それぞれがいい影響を与えるんだ。絶対に無駄にはならんから
思い切ってやって来い。」
「はあ。」
まあ、そんなふうに言うしかないわな。先生としては。
やるしかないかな。
内心、相変わらずの西山だった。
というより、亜由美の姿が見えない方が不満な西山だった。
これで西山が勝ったりするとあまりにでき過ぎなのだが
そうはいかない。
そもそも、柳沢Jrは平田に匹敵する力を持つ。
平田は学校に軟式テニス部しかないため出ていない。
この大会では相手がいないのだ。
かたや西山はサーブしかとりえがない。
闘争心にも欠ける。本来、力に差があり過ぎるのだ。
角田との試合では、「たまたまの3乗」がそろっただけなのである。
柳沢Jrは角田を一蹴する力がある。
どうなることやら・・・と、一番思っていたのは西山自身だったかも
知れない。
さて、その頃、西山に軽い失望を覚えていた亜由美はといえば。
西山を素直にほめる平田を少し見直していた。
すごい選手なのに、全然えらぶらない。
傲慢なところもない。
何考えてるかわからない西山君より・・・
西山にはあまりよろしくない展開ではあった。
しかし、西山以上によろしくないと思っていたのは
佐久間美紀だった。
まずい。亜由美の関心が平田に向きかけている。
とてもまずい。
でも、亜由美は親友でもある。
まずい!
段々、怒りの矛先は西山に向いていった。
まったく、あの天然!何してんのよ!
それぞれがそれぞれの思いをめぐらせながら
決勝戦に集まってきていた。
決勝戦はダブルス2から1試合ずつ行われる。
途中で一方が3勝をあげても、最後まで試合は行われる。
ダブルス2は以外にも、坂本・鈴木急造ペアが善戦した。
これで勢いがついたのは東光だった。
ダブルス1も大接戦となった。
しかし、結果は修実の2連勝ではあった。
シングルス3の武田が負ければ終わりという状況ではあった。
ここで武田が勝てば物語としては盛り上がるのだが、
武田はあっさり負けた。
相手が悪かった。本来、Jrに次ぐ力を持つ
島田だったのだ。
これで修実の連覇は決まった。あとはおまけのようなものだった。
そこまでの展開は大方の予想通りではあった。
Jrも西山もそう思っていた。
ただ、チームの勝利のためというしばりがはずれた事が
二人に微妙な変化を与えた。
柳沢Jrは自分の圧倒的な力を見せつけることしか頭になかった。
西山は天然お気楽に、少し、対戦相手への興味が湧いていた。
自分のサーブは通用するんだろうか?
期待半分、怖さ半分というところだった。
試合は静かに始まった。
コイントスで勝った西山は当然のことながらサーブをとった。
力むことと無縁の西山は、ファーストサーブ4本で
最初のゲームをキープした。
すごいサーブだ・・・
柳沢Jrは驚いていた。
さすがに表情がこわばっていた。
チェンジコートですれ違った時、西山はそれを見逃さなかった。
あんがい、いけるじゃん、俺。