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第23回

プレッシャーというものは自らの心から生まれる。

ただ、角田の精神力は並ではなかった。

素直に西山を認める事ができたのだ。

先生はサーブだけの選手だなんて言ってたけど

それだけじゃない・・・

頭もいいし、度胸もある。


そこから角田の力みが抜けた。

西山のファーストは相変わらず返せなかった。

しかし、自分のサービスゲームは確実に取っていった。

西山のファーストが入り続ける保証はない。

チャンスを待つんだ。

ところが・・・


西山という選手は不思議なやつだ。

橘は妙におかしかった。

あいつはプレッシャーなんてものとは無縁なんだな。


確かに西山のプレーには変化がない。

淡々とサーブを決め、キープを続けている。

相手の角田はあきらかに力が抜け、いいプレーをしている。

西山もそれには気づいているだろうに・・・

おかしなやつだ。


さて、肝心の西山はと言えば。

ふん、うまいなあ。さすがだよ。

他の連中、早く決めてくれよな、まったく。

などと、心の中で毒づいていた。

というのは、準決勝からはシングルス1からダブルス2まで、

同時進行なのだ。

すなわち、5試合が同時に行われ、早く3勝をあげた方が勝利、

というわけだ。

西山は、自分の役目は負けないことだと考えていた。

自分は他の連中が3つ勝つまで、粘ればいい。

ようは、時間稼ぎだ。

ここまでは、うまく行っている。

ついに6−6まで来た。

まだかよ、あいつら・・・

そう考えながら、チェンジコートの休憩でベンチに腰を下ろした。


「3つとれそうだ。後は気楽に行け。」

後ろから小声で橘がささやいた。

「そうすか。よかったあ。じゃ、負けますよ、俺。」

「ああ、思い切ってやっこい。」

「ほい」

やれやれ、終わりにするか。

ここからは、練習だ。


角田は他の4試合の状況を知っていた。

3つ取れていない。2勝2敗なのだ。

俺が勝たなければ終わりだ。

しかし、あのファーストを入れ続けられたら・・・


この瞬間、角田は崩れていた。

再開後のサービスは角田からだった。

絶対に落とせない。

力が入ってしまった。

「フォルト!」

まずい。

セカンドはコースを狙わなければ。

無理をする必要はまったくなかった。

たとえ、返されてポイントを奪われても、次のポイントを

取ればいいだけなのだ。

しかし・・・


「ダブルフォルト!」


西山はもう粘る必要もないので、リターンの練習をする位のつもりだった。

ところが2本ともはずされた。

なんだよ・・・まあ次は入れてくるだろ。

しかし、西山は気づいた。

角田のリズムが狂っている。

トスをする前、必ず3回ボールをバウンドさせるはずだが、

やたら何回もバウンドさせている。

ふん。負けてショックを受けているんだな・・・


案の定、ファーストが入らず、セカンドにも力がない。

西山は思い切ってうちこんだ。

なにせ、もう勝っているつもりなので力みもなく振りぬけた。

そしてみごとにリターンエースをとった。

やるじゃん、俺。

けっこういけてる?


これで勝負がついた。

ブレイクに成功した西山は、最後のサービスゲームを

簡単にキープした。

いやあ、角田は相当ショックだろうなあ。

俺なんかに負けるとは思わなかったろうなあ。

能天気にベンチに帰ると、坂本が

「やったな!奇跡だ!」などとわめいている。

「まあな。否定はしない。」

「いやあ、俺と鈴木の急造ペアはだめだわ」

「また負けたのかよ。他の4人に感謝しろよ。」

「はあ、他の4人?お前入れて4人だよ。」

「?、何、俺はおまけの勝ちだろうが。ダブルス1とシングルス2、3で勝ったんだろ?

 勝負ついてからの試合だぞ」

「はあ?お前、なに言ってんだよ。勝負ついたら、それで他の試合は打ち切りだぞ。」

なに?そりゃそうだ。もう3つとってたんなら俺の試合は打ち切りに・・・

!そうか!タッチは俺にうそ言ったんだな!

でも、何で?プレッシャーをかけたくなかったからか?

そこへ橘がやって来た。

「よお、西山。ほんとにサーブだけで勝ったなあ。」

「先生、よく言いますよ。俺、ヒーローじゃないですか」

「まったくだ。角田はプレッシャーに負けたみたいだな。」

「そうすね。でもなあ、なんか間抜けだよな俺。」

「間抜けでもなんでも、勝ったにはちがいない。

 よくやってくれた。」


西山はうれしいような恥ずかしいような、微妙な気分ではあったが。



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