第21回
いきなりダブルフォルト。
「どんまい、あゆ」
美紀はいつものように笑顔で声をかけてくれた。
そうだ。まだまだ。
しかし、次のファーストも入らない。
トスが狂っている。そう、思ってしまった。
実は、緊張で力が入っていただけなのだ。
それに気づいていれば、自然に修復できていただろう。
おかしい、何とかしなければ・・・と思ってしまった瞬間から
よりくるってしまい、最後まで思い切ったサーブが打てなかった。
結局、1回戦で敗退。
勝てない相手ではなかった。
でも、これが実際の実力なのだ。
試合で出せる力が「実力」なのだ。
自分の精神力の弱さに落ち込んだ亜由美だった。
美紀は何も言わなかったが、腹を立てていただろう。
ごめん、美紀・・・
ごめん、みんな・・・
チームの足を引っ張ることのつらさを始めて知った亜由美だった。
「きついな、あれは。つらいぞ」
西山はつぶやいた。
「そうだな。可愛そうに・・・」
坂本もうなずいた。
「練習でできることが、実力じゃないんだよな。
試合で発揮できる力が問題なんだよな。」
「鈴木の気持ちも分かる気がするな・・・」
「え?」
「だってそうだろ。練習でも鈴木がターゲットにされる。ねらってたら
力んでミスるからな、あいつ。」
確かにそうだ。俺は別に気にしてないけど、鈴木もつらいんだろうな・・・
いや、鈴木だけのことじゃない。俺も同じだ。
俺の唯一の強みであるサーブが、明日、全然入らなかったら。
そうだ。2人が普段通りの力が出せるかどうかだ。
気持ちを強く、しかもリラックス。これだ。
具体的にどうすればいいのかはわからない。
でも、これに気づくことができただけでも絶対に違うはずだ。
ただ、落ち込む亜由美の姿を見ながら、不謹慎にもそんなことを考えていた自分に
気づき、いやになった。
しかし、どんな言葉をかけたらいいいのかわからない。
「おい、西山、行くぞ」
「あ、ああ。」
坂本は無頓着に亜由美と美紀の方に向かう。
「おしかったね!」
おしくない。2−6だぞ。
先に美紀が口を開いた。
「うん・・・。ま、これで終わるわけじゃないしね!亜由美、もういいよ。元気だしなよ。
これ以上、あやまってばかりいたら、あたしおこるよ?さ、着替えに行こ」
「そうだよ。これが、スタートなんだから。」
思わず、西山は言った。亜由美が顔を上げた。
「スタート・・・か」
そうだよね。最初からうまく行くわけない。
西山君、言葉は少ないけど、心に響くこと言ってくれる。
やっぱり・・・
そのあと、亜由美は笑顔を取り戻した。
先生にはかなり小言いただいてしまったが、
「これがスタート」
と自分に言い聞かせていた。
翌日、試合会場についた西山は鈴木を探した。
鈴木は壁うちをしていた。
「鈴木!早いな」
「おう。なんか、じっとしてられなくてさ」
もう、汗だくになっている。
「あんまり、張り切るなよ」
「何言ってんだよ、勝ちたくないのかよ」
「勝つさ。普通にやりゃ勝つさ。」
「え、えらい自信だな。どっからくるのその自信」
「そんなもんは別にない。たださ、練習でやってきた以上のことはできないしさ。
それよりさ、作戦考えようや。」
「作戦?」
「おう。と言っても、いつも練習でやってたことの確認だけどな。」
「練習でやっていたこと?」
「ああ。お前、サーブ打つ前とか、相手のサーブに構える前とかのリズムあるだろ?」
「ん?あんまり意識してないな。それは。あったっけ?」
「あるよ。サーブの前にはボール3回バンドさせるとかさ」
「ああ、なるほどな。」
「舞い上がったら、それ忘れんだよ。多分。
だから、ゲームの入りではそれをあえて意識してやるんだよ。
すると、力が抜ける。」
実は、テニスのガイド本の受け売りだったが。
結果的には、これが良かった。
スムーズに試合に入ることができたのだ。
昨日の亜由美の姿を見たおかげだな。
心の中で、亜由美に感謝する西山だった。