第20回
私立の進学校というのは、当然のことながら
授業の進み方が速い。
レベルも高い。
そもそも、生徒を選抜しているのだから
それでいいわけだ。
ただ、全員がついて行けるわけでもない。
どんな集団でも必ず順位がつく。
小学校では勉強で人後に落ちることのない子供ばかり
だったのが、入学してから自分の上には多くの人間がいる
現実をつきつけられる。
問題は、それが単にテストの結果に基づく順番なのに
人格まで順番がついてしまうかのように錯覚してしまう事だ。
成績で下位に沈むと自分が否定されてしまったように感じてしまう。
それが、ほかの事にも影響を与えてしまう。
それでも、他に何か秀でているものがあり、それなりに
存在感を示せれば自信が持てるものだ。
これは、学校間でも言えることだ。
スポーツで抜群の結果を残す学校は、それなりに
自信とプライドがみなぎっている。
東光学院の一回戦の相手、青田中学はまさにそういう学校だった。
私立だが、俗に言う進学校ではない。併設されている高校は
多くのスポーツが全国レベルだ。
テニス部の強化は近年のことだが、めきめきと力をつけていた。
昨年、はじめて東光も破り、甲北大付属にも善戦した。
今年は何とか決勝まで進むことをねらっていた。
まずは東光だ。シングルス1の長谷川以外はたいしたことないはずだ。
青田中顧問の石田はそう読んでいた。
特にダブルスには自信があったのだ。
シングルスで1つものにすれば勝てる、そうふんでいた。
なのに・・・
計算通り、シングルスは2、3と取った。
あとは、ダブルスで1つ勝てばいい、楽勝だ。の筈だったのに。
いや、ダブルス1落としたのはまあいい。
こちらはあえて2に実力がある方をおいたのだ。
負けるはずはない、はずだったのに。
西山という選手のサーブだけでやられた。
すごいサーブだった。中学1年とは思えない。
終わったあと、以前から知り合いの東光の顧問、橘のもとに
駆け寄った。
「た、橘さん。」
「やあ、石田先生。いい試合でしたね。ありがとうございました。」
「いや、こちらこそ。それより、あの、西山という選手。
すごい選手ですね。」
「いや、サーブはね、いい球打ちます。確かに。
でも、中学入ってから始めたんですよ。他はまだまだです。」
「いやあ、それにしてもすごいサーブだった。」
「ええ、教えたわけじゃないんですがね。足はおそいし、不器用だし、
何か1つ人に負けないものを、と思ったらしく、サーブの練習はよくやってましたね。」
「なるほどねえ。さすが、東光さんだ。」
「いや、学校は関係ないですね。たまたま、あの子がそうだっただけで。
早くから、ダブルスで行けと進めてはいましたが、本人もその気になったのが
良かったんでしょうねえ。」
まあ、こんなわけで西山はいいとこ取りで一回戦を終えた。
鈴木も緊張しながらも、そんなに力むこともなくいいプレーに終始した。
2人にとっては最高のスタートとなった。
西山はうれしかった。シングルス2つとられて、結局自分たちの
結果で決まることにはプレッシャーを感じたが、最初のサーブで
調子に乗れた。
それに、なにより亜由美が応援に来てくれていた。ただ、いつものように
美紀がおり、平田もいた。しかも先に負けていた坂本までいた。自分が
負けてプレッシャーかけといてにこにこ亜由美に話かけていた。
なんてやろうだ。
それはともかく、昨日のことを引きずっていない亜由美の様子にほっとした。