第2回
学校は小高い丘の上にある。
電車を降りてから、ゆるやかな坂道を
15分くらい歩く。
中学部、高等部の生徒がまじりながら
ぞろぞろと歩いている。
男子校なので、はなやかさは全くない。
甲高い笑い声や、会話もない。
静かなものだ。
夏を迎えて、早く登校するようになっていた。
少しは涼しいからだ。
すると、毎日同じ電車になる上級生に気が付いた。
同じ制服だが、あきらかに高等部だ。
テニスバッグを担いでいる。
俺は中1としては背が高い方だ。170cmはある。
身長は負けていないが、厚みが違う。
なんか、かしこそうにも見える。
それよりなにより、いつも決まった女子高生といる。
俺は俗に言う「晩生」で、女の子にはほぼ無関心だった。
それでも、可愛い子だと思った。
ただ、彼氏と彼女という風には見えなかった。
時々、小声で話しはしていたが笑顔がない。
特に当の上級生の態度はよろしくない。
自分からはほとんど話しかけない。話す時も
めんどくさそうだ。
俺たちは先に降りるのだが、彼女?に会釈もしない。
さすがに、いかがなものかとは思っていた。
が、俺には関係ない。
ただ、何となく気になっていた。
そのうち、その上級生の名前が市村だと知った。
テニス部の説明会に、キャプテンとして来ていたのだ。
その上、実は県大会でも上位に入る実力者と知った。
そんな人もいるのか。
なめていた俺は少し驚いた。
「お前、市村さん知らないのか?」
坂本があきれたように言った。
「いや、前から知ってるよ。」うそじゃない。
「じゃ何でビックリしてんだよ。この前、朝礼で紹介されてたろうが。
市の大会優勝。」
俺は何をしていたんだ?立ったまま寝ていたのか?
「おお、そうだったよな。遠くてよくみえなかったのかも」
そういうと、坂本はフンと鼻を鳴らして
「俺が背が低くて、列の先頭なんでよく見えた、と言いたいのか」
気にしてるんだ。
「まあそうだ。」
「けっ。卒業する頃には見下ろしてやるからな」
無理だろう。お前の両親、今の俺より背が低かったぞ。
しかし、部活始まったら、間違いなく見下される。
運動に関しては、すべてにおいて坂本に勝てない。
でも、いいやつだ。正直でわかりやすい男だ。
それに、俺よりも女子への関心がはるかに高い。
一度、聞いたことがある。
「何で、男子校に来た?国立の付属に行けば良かったのに」
「言うな。抽選で落ちた。」
「そうか。」
「でもな、うちの学校、同じ系列の女子校があるだろう。
交流があるらしいぞ。テニス部もあるはずだ。」
そうか。野球やサッカーだと交流はないよな。
「それが動機か?」
「もちろん、それもある。でも、親がテニスやってるんだ。
俺も少しやらされた。けっこう面白かったよ。」
なるほどなあ。正直な男だ。
「そういうお前は何で?」
「お前が誘ってくれたから」
そう答えると、坂本はうれしそうな顔してくれた。いいやつだ。