第19回
俺は考えていた。
坂本と平田は亜由美が好きだ。
佐久本美紀は平田が好きだ。
で、俺は?もちろん、亜由美の事が・・・
しかし、亜由美は?
それがわかれば、この複雑?な連立方程式は
簡単に解けてしまう。
しかし、こいつはできればすぐに解きたくない。
いや、解くのが少しこわい。
西山君が私を見てる?
いや気のせいかな。
何かおきると勝手に思い込んでいた自分がバカに
思えてきた。
と、うつむいた時、
「吉川さん」西山だ。
「あ、応援来てたのね。平田君すごいね」
「ああ、すごい。」なんか、ぶっきらぼう。
「でもね、平田君、言ってたよ。西山君のおかげかもって」
「え?」
「西山君のサーブの方がすごかったって。」
「ああ、あの時の。ん。でもね、なかなか続けて打てないんだ。
練習してるんだけどね。新人大会までに完成したいんだ。」
「ダブルスだってね」
「俺にはシングルスは無理だから。最初からダブルスねらってたんだ。
そういや吉川さんは?」
「私も、美紀とペアでダブルス」
「そうなんだ。」
「女子は今度の土曜日、男子は日曜日だっけ」
「そう、確か。土曜日、応援に行くよ。」西山がさらっと言った。
「本当に?」亜由美は、起きた、と思った。
「うん。」西山は自分が言った事に照れているようだった。
ところで、ここまでなぜ坂本の邪魔が入らなかったのか?
なぜ、西山が一人勝ちの状況になったのか?
それは美紀のおかげであった。
美紀は亜由美と西山が何とかなればいいと思っていた。
そうすれば、平田も亜由美をあきらめるだろう・・・
坂本でもよかったのだが、この際どちらでもかまわない。
で、うまく坂本と平田を足止めしたのだ。
坂本と平田は焦っていた。
気が付くと、西山と亜由美がツーショットになっている。
なんたることだ!
美紀のお目当ては平田だ。
じゃあ、俺はどうなる!と坂本は怒った。
あぶれてるじゃないか!
西山のやろう!
中学1年といえども、色々大変なのだ。
その頃、新人大会の組み合わせ抽選が行われていた。
東光学院からは、顧問の橘が出席していた。
昨年の優勝、準優勝校は別のブロックに入る。
あとは抽選だ。
と、言っても参加は全部で10校しかない。
市内で硬式テニス部のある学校で団体戦が組める学校は
限られているのだ。
「橘先生。どうですか?今年は」
昨年優勝の修実学園の顧問、柳沢が声をかけて来た。
「いやあ、なかなか」
余計なことは言うまい。
「うちは、今年も有望な1年が多く、選ぶのに一苦労でしたよ。
うちでなければ、十分出場できる子がたくさんいます。」
相変わらず、嫌味なことを言う。
「うらやましいですなあ。多分、その子達、うちも
受験してたんでしょうねえ。残念です。」
これが、精一杯か。どうだ、柳沢。
実際、修実学園には東光学院を落ちて入っている生徒が
多い。さすがに柳沢も、表情がこわばっていた。
しかし、最後に言い捨てた。
「そうですなあ。まあ、テニスくらいはうちに花持たせてくださいね。
是非、うちと当たるところまでいらして下さい。
心より、お待ちしておりますので。」
見てろよ、柳沢。と、言いたかった橘だが、
手元にある決定した組み合わせに目を落とすと現実が待っていた。
1回戦、青田中。去年2回戦で負けた。
もし勝ち上がっても、次は多分城南中。ここは昨年3位。
万が一城南を破れてようやく準決勝。ここで当たるのは
多分甲北大付属。ここは、近隣の県からも選手が入ってくる強豪だ。
昨年準優勝。
柳沢、いや、修実と当たるのは大変なのだ。
ううん。うなるしかない橘だった。