第17回
平田は順調に勝ち進んでいた。
中学生相手に負けるわけにいかない。
小学6年生の時にも、中学3年生に勝った。
相手が小さいと、必要以上に力んでしまうものだ。
ただ、次にあたる佐藤というのは手ごわいはずだ。
今年、関東から転校してきた佐藤は、去年の関東ジュニアの地区大会で
優勝している。体も大きい。
平田は初めて対戦する相手をかなり警戒していた。
その時、ふと西山のサーブを思い出した。
見えなかった、あのサーブ。
すると、なぜか気が楽になった。何を気負ってるんだ?
中学からテニスを始めた同い年のサーブさえ受けられなかった。
そうだよな、俺なんかたいしたことないんだ。まだまだだねってか。
平田は、もう怖くなかった。
いきおいをつけて立ち上がり、コートに向かった。
美紀はいらいらしていた。
亜由美が来ないのだ。もう、平田の準決勝が始まってしまう。
最初から見る必要ないだろう、ということで時間決めたのに。
もうおいて行こうと思ったその時、
「ごめん!」亜由美だった。
「もお、なにしてんのよ!早く!}
すでにゲームは始まっていた。
佐藤のサーブからスタートしていた。
スコアは?
なんと、0-40。いきなり、平田はブレイクチャンスを迎えていた。
「すごい。相手の人、おっきいのにね。」
「うん。それに、なんだか平田君、余裕あるよね」
佐藤のサーブは速かった。美紀や亜由美の目には、とてつもなく速く見えた。
あんなサーブが来たら、逃げる間もないだろう。
なのに、平田は軽々返した。
ダッシュしてくる佐藤のサイドを見事に抜き去った。
結果は平田の圧勝だった。
美紀が平田に駆け寄った。
「おめでとう!すごいね!事実上の決勝戦てみんな言ってたのに!」
「ありがとう。実は、西山君のおかげかも」
西山君?亜由美は思わず、耳をそば立てた。
「え?なんで?あのどんくさ君?」
相変わらず、美紀の西山に対しての評価は超低い。
「いや、俺も実はびびってたんだけど。
一緒に練習した日に、西山君のサーブ受けられなかった。
すごいサーブだった。
あれに比べたら、佐藤さんのサーブは速いだけだからね。」
そうなんだ。へえ。けっこうすごいんだ。
「でもさ、そんなにすごいんなら、なんで東光でダブルス2なのよ」
美紀の情報収集はすごい。なんで知ってるの。
「ダブルス2?そうなんだ。確かに西山君はシングルス向きじゃない。
でも、ダブルスはけっこう行けると思うよ。でも、2か。
東光の先生も考えたなあ。」
「何を考えたの?」
美紀が変わりに全部聞いてくれる。
「想像だけどね・・・団体戦ていうのは3勝すればいいわけだ。
もし、シングルスで2つ勝ちが見込めるなら、力の落ちるダブルス2に
強いダブルスを当てたら確実だ。」
なるほどね。そういうものか。
「ま、来週の新人大会が楽しみだね。」
「そうか。私たちもがんばらないとね、亜由美。
平田君、応援に来てくれるよね?」
「ああ、今日来てくれたしね。西山君や坂本も応援したいし」
と、いいながら亜由美を見る平田だった。