第16回
鈴木は、少し落ちていた。
なんで俺、あんなこと言ってしまったんだろう。
俺が悪いのに。
昔から、そうだ。なぜか、人に指摘されたり、注意されると素直に聞けない。
つい、言い返したり、言い訳したりしてしまう。
どうして俺はこうなんだろう。
せっかくレギュラー枠にすべりこんだのに。
どうしたら変われるんだろう・・・
事のおこりは、こうだ。
どういうわけか、橘はダブルス2に西山と鈴木を指名した。
全員が意外な顔をした。
西山はダブルス1ではないのか。内山も自分が西山と組むものと思っていた。
当の西山は、少し意外そうな顔はしたものの、
「鈴木、やろうぜ」と、声をかけた。
鈴木も、その時は西山に笑顔で応えていた。
その後、シングルスメンバーとダブルスに別れて練習が始まった。
ダブルス1は内山、佐々木。
西山はもう、サーブを隠さない。
次々とサービスエースを決める。
「また速くなったんじゃないの、すげえな。お前。」
サービスリターンに関しては、長谷川にひけをとらない内山でも悲鳴をあげていた。
しかし、それを見ていた鈴木は心中おだやかではなかった。
自分には武器がない。俺のサービスゲームばかりが破られてしまうんじゃないか?
まずいぞ、これは。
そんな風に思い始めると、鈴木の良さである思い切ったフォアハンドも、
いまいち自信のないサーブも、力んでしまってミス連発だ。
「おい、鈴木、練習にならないぜ。入れてくれよなあ」
佐々木が言った。
「あんまり力むなよ。練習なんだしさ。」
内山も言う。
その通りなのだ。それにいつも言われてることで、なんということはないはずだった。
なのに、
「どうも、ガットの張りが悪いみたいだ。ラケット変えるわ」
などと言うものだから、
「道具のせいにすんじゃねえよ」と、佐々木。
これで、切れてしまった。
「うるせえな、ガットだよ!それに、少しフォームを変えてる途中なんだよ!」
内山も佐々木も、またかという表情になっている。
ラケットを取りに行く背中で、内山が言った。
「西山、お前、ついてないな」
その後の練習は散々だった。
自分がいやになっていた。
終了後、一人そそくさと学校を出た。
自分をののしりながら。
誰にも会いたくなかった。
ところが、駅に着くと、どういうわけか西山がいた。
「あれ、鈴木、お前電車だったっけ」
バス停で、みんなと一緒になるのがいやだったのに・・・
よりによって、西山か。
「あ、ああ。今日は悪かったな」つい、言ってしまった。いや、言えてしまった。
「気にすんなよ。俺もけっこうミスったし。
それにしても、お前、力入れすぎだよ。
普通に打っても、十分な威力だろ?」
「そうかな。」
「そうかなって、それでお前レギュラーに入ったんだろう?
お前のフォアは、速いよ。ちょっと、あぶないけど」
西山。こいつはよくわからないやつだ。
でも、なんか気が抜ける、というか肩の力が抜けていく。
血の上った頭が、スッと冷めていく感じだった。
自然体。それが一番似合うやつだ。
妙になぐさめたり、はげましたりしない。
しかし、それがありがたい鈴木だった。