後編
徹夜テンションの所為かこのあたりから推敲などが疎かになっています。後日書き直すかもしれません。
「桜と開耶って、似てるよね。」
そういって笑う彼女に私は恋をした。
***
鬼という一族がいた。
鬼と言われて人が思いつくのは角の生えた恐ろしい形相をした人外だろう。あながち間違いではない。
高い身体能力、美しい容貌を持った化外。表に出ずともそんな存在は実際にいる。事実私がそうであるように。
ところでかつて鬼は特異な能力を持っていたらしい。その能力の詳細はわからないが、純血主義と言われる父や母、親戚の殆どはそんな能力を再び復活させることを望んでいる。
馬鹿馬鹿しい。そうして近親婚を繰り返した挙句が次期宗主であった従兄の早死に、叔母の精神異常だ。それでも血を濃くしようとするのだから度し難い一族だ。
時代に逆行するにもほどがある。どうやら歴史から何も紐解いていないらしいと嗤いたくなる。
しかしこうやって私という成功例が出てしまったのだから、更にどうしようもない。
「つまらない。」
どうしようもなくつまらないのだ。
いつから?と言われたら困る。しかし私は気付けば全て既知のことだった。
教えてもらわなくてもなんでも知っている。どうすればいいのか、どうなるのか。確かに自分は全て知っている。
その事実を知ったとき親類一同狂喜乱舞した。勿論私はこの自分の知っているという力が半端であることを知っているし伝えたのだが、どうやら能力が発現したことが彼らにとって大事らしい。
しかし既知というのは本当に、つまらない。
初めて読むはずの本の内容はすでに知っていた。初めて見たはずの光景もすでに知っていた。目の前で交通事故が起こった時もそれは知っていた。
知っている。全部見たことがある。既視感?そんなものじゃない。知っているのだから。それは本当にどうしようもなく面白くないことだった。
しかもそれだけの情報量を私は自在に引き出せるわけではない。それがこの能力が半端と言い切る理由であるのだが、知っていてもなかなか思い出せないと言えばいいのだろうか。ふと思い出を思い出す様に出てくるだけ。
ほとんど役に立たないこの能力とも呼べない力は私の一生の彩を消した。むかしこうならなかった私の可能性を思い出してしまったから更に遣る瀬無い。
知っている。知っている。既に知っている。
世界はどうしようもつまらなくて、色がない。
そう、思っていた。
***
舞華学園。私と同じように鬼が多く通っている学園。私はそこに入学した。
この学校にした理由は近かっただけ。将来宗主として家を支える私に学歴は必要ではなく、学校に入ったのもこの力を少しでも使えるようになる可能性が高いと思い出したから通うことにしただけ。
知っている通り入学式は過ぎて、知っている通り教室に行く。
本来の新入生代表が倒れて代理がたったことも全て知っていること。何も驚くことはない。
「あ、隣の人?私西園寺桜。よろしくね。」
そう言って笑う、隣の席の少女のことは既に知っていた。知っている、はずなのだけど。
「私は安藤開耶です。よろしくお願いしますね。」
わからない。初めて、わからなくなった。この少女はこういう風に話すのだっただろうか?私はこのやり取りに既視感を覚えない。こんなやり取りを知らない。
戸惑う私を知らずか、少女…桜さんはふわりと私の知らない笑顔を浮かべた。
「桜と開耶って、似てるよね。」
知らない、暖かな笑顔。私はそれに見惚れた。心が動くのを感じる。私はそれをなんというか知っている。
私は、この未知の少女西園寺桜に恋をした。
***
桜さんには藤堂晃という幼馴染がいた。
彼も知らない人間なのだがあまり心を動かされなかった。会った順番ではなく、私が彼女に恋をしたのは彼女だからなんだなと私は納得している。やら桜さんは彼のことが好きで彼も桜さんのことが好きらしい。
しかし観察の結果面白いことが分かった。藤堂はおそらく女性的な思考を持っている。女性脳とか男性脳とは少々違う。なんといえばいいのだろうか。女性であったことがあるように見受けられる、だろうか。
私が引き出せる知識を全て出し切って照らし合わせたものの、確信は持ててはいない。でもそう見受けられるのである。
そして同時期に桜が彼のことを好きだと気付いてしまったからか。勿論彼も桜さんのことが好きなようだ。それに気づいた私は軽いパニックを起こし一つ名案を思いついた。
そうだ腹いせに彼が同性愛者だったらと考えてみよう、と。
なんでそう思い至ったかは思い出せないが、自分ながら名案だったと今は思う。
確かにありとあらゆる話、そのシチュエーションに至るまで既知であるが役者がいい。知らない存在がいるだけでなかなか面白く感じるものだ。
では別に異性愛者でもいいのでは?と言われたら、実際やってみると相手が桜さんだと腹が立つし、別の女であれば殺意が沸くといった感じに精神安定上よろしくなかったのでやめた。
そして考えた話を桜さんにするのだが(ちゃんと名前は伏せるという配慮はしてある)その時の桜さんの反応がなかなかに面白くてさらに良い。一粒で二度おいしいとはこのことだ。
でもリアルでは…ちゃんと二人にくっついてほしいと思う。好きあっているのなら、一緒になった方がきっと幸せだろうから。
私では、人ではない同性の私では桜さんを幸せにできる気がしないから、できる人に桜さんを幸せにしてほしい。
「貴方達みたいなお子様如きにはとても任せれませんわ。」
舞華学園の生徒会長という存在でありながら途方もない馬鹿の頭を八つ当たり気味で蹴り飛ばす。先ほどまでならぎゃんぎゃん鳴いていたであろうが、長時間説得した甲斐あってか自分の愚かさを反省して黙ってこの仕打ちを受け入れたようだ。
さて、ちゃんと二人はあの後くっ付いたのだろうか。なんというか二人とも自分の感情にさっぱり気づいてないというか勘違いしているように見受けられる。あのままあとは二人でとお膳立てしてもちっとも進展しないような。
ちなみに実際に何もなくて肩を落としたくなったのは翌日のことだ。