第68話 百家争鳴
「そこの眼帯の人、なかなか強そうですね」
それが、コンセントを外されたアナスタシアの第一声だった。
評価を受けた一気通貫は、さも当たり前のように、
「うむ、私は強いぞ」
と答えた。
赤髪に長い犬歯、ヘアスタイルかと思っていた突起部分は、獣の耳だった。
一気通貫。よく分からない名前だが、どうやら人間ではないらしい。訊くのも野暮かと思い、カオルは静観を決め込んでいた。陰陽師にアンドロイド、それに宇宙人とあっては、もはや狼女などで驚くこともない。
「私と勝負しませんか?」
アナスタシアはそう言って、ファイティングポーズをとった。
「……準備体操くらいにはなるか」
一気通貫は、背中の鎚を取らず、素手でかまえを取った。
中国拳法だろうか。それはどうでもいい。カオルはあいだに割り込んだ。
「アナスタシア、そういうのは後にしろ」
対戦を邪魔されたアナスタシアは、体勢を崩さずにカオルを見た。
「なぜですか? 彼女は強そうですよ?」
「今から警察と戦うんだぞ。余計な力を使うな」
アナスタシアはしばらく身動きを止めた。
なにかを計算しているらしい。数秒ほどで、彼女は戦闘態勢をといた。
「分かりました。この女性と戦うのは、24時間と17分27秒後にしましょう」
「ん? 貴様、逃げるのか?」
挑発する一気通貫。こいつもなんとかしろと、カオルは天和に助けを求めた。
天和はわざとらしいタメ息をついてから、一気通貫を引きとめた。
「そのロボットとの戦いは、現在許可できません」
同じ幹部であるにもかかわらず、一気通貫は拳を収めた。
どうやら天和の立場は、他の幹部よりもひとつ上らしい。大方、王の右腕なのだろう。カオルは、ホッと胸をなでおろした。そして、部屋のすみっこでコードを片付ける、テスラ博士ににじり寄った。
「博士、アナスタシアのお守りは、あんたの仕事だろ」
テスラは、絡みのひどい安物のコンセントと格闘しつつ、顔をあげた。
「ん? なにかあったか?」
「あのロボット、王の手下と喧嘩しそうだったぞ」
テスラは、ふんと鼻息を鳴らし、ふたたびコードの整理に取りかかった。
どこか楽し気なところがある。
「一丁戦わせて、データでも取ってみりゃよかろう」
カオルは腰に手を当て、あきれ顔になった。
「あのなあ……どっちが倒れても、戦力ダウンだろ」
「その程度でへたばるようなら、この先、役に立たんよ」
テスラの直言に、カオルは反論ができなかった。
うしろをふりかえり、アナスタシアと一気通貫の様子をうかがった。アナスタシアは、一気通貫の獣耳が珍しいのか、それをちょんちょんとつついていた。一気通貫は真顔だったが、うれしいらしくしっぽを振っていた。
なんともほほえましい光景が、カオルをなおさら不安にさせた。
「なあ……この面子で勝てると思うか?」
カオルは小声で、テスラにそうたずねた。
テスラは疲れたのか、肩に手を当てて、首をこきこきと鳴らした。
「さあな……ラスプーチン様次第じゃろ」
「ラスプーチンは、必ず加勢に来るんだろうな?」
「加勢じゃと? ……三つ巴に加勢も糞もあるまい」
「と、とにかく、来るんだろうな?」
「そうじゃな……ヒッグス砲を一発見舞われるかもしれん」
ヒッグス砲。聞き慣れぬ兵器の名に、カオルは眉をひそめた。
「なんだその……ヒッグス砲ってのは……?」
「クレムリンの超兵器じゃよ……小島くらいなら、一発で消滅させられるレベルのな」
「!? そんなヤバいもの、上海で使えるわけないだろ!」
「使うかどうかは、必要性の問題じゃよ。違うかね?」
カオルは愕然とした。自分たちの取っている作戦が、ギャンブルだと気付いたのだ。
本当は、もっと早く気付かなければならなかったことだ。カオルはくちびるを噛んだ。
あきらめたように、テスラに背を向けた。
「……とんだ賭けだな」
「人生、なんでもギャンブルじゃよ……さて、わしらも準備せんとな」
○
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機械の悲鳴。配管が破れているのか、クレムリンの内部には、うっすらとガソリンの匂いがした。
あまりエレガントとは言えない司令室に、サリカは一瞬、顔をしかめた。だが、彼女の前に座る男、ラスプーチンには、礼を尽くさねばならない。そのための外交使節なのだから。
「血塗れメアリー様のお言い付けで参りました、サリカと申します。このたびは……」
「くだらん前口上はいらん。なんの用だ?」
ぶしつけな質問に、サリカはまぶたの筋肉がひくつくのを感じた。
しかし、ここで爆発させるほど短い感情の導火線を、彼女は持ち合わせていなかった。
居住まいを正し、主の用件を伝えた。
「メアリー様は、現在の東アジア情勢を、大変憂慮なさっておいでです。早急に、クレムリンの介入中止をお願いしたいとのこと。アシヤ一族およびワン様の危機においては……」
「介入は中止せん。そう伝えろ」
サリカは、能面でラスプーチンを見つめ返した。
ラスプーチンはその豪勢な髭を一本引き抜き、ふっと空中に吹き飛ばした。
これはもはや侮辱だ。そう判断しかけたサリカの横で、片眼鏡の男が前に進み出た。
あとから彼女に追いついて同行した、不死伯だった。
「我々としても、クレムリンの行動を制限できないことは、存じ上げております。しかし、現状を鑑みたところ、貴殿の介入は、表の権力者を利するものでしかありません。日本の隠密課然り、北京の共産党政府然り……このような事態は、貴殿もお望みではないはず」
「不死伯、おまえはいつから、メアリーに鞍替えしたのだ?」
話を逸らされた不死伯は、軽い笑みを浮かべた後、胸に手を当ててこうべを垂れた。
「戦後、しばらくしてからでございます」
「ならば、新参には黙っていてもらおうか」
ラスプーチンの態度は、あまりにも傲慢だった。とはいえ、それは承知の上である。サリカとて、和やかな会議など望んでいない。二、三の会話で、説得できるとも思っていなかった。
サリカは、煮え切らない不死伯を後ろにどけ、ふたたび口をはさんだ。
「わたくしどもはオブザーバーとして、艦内にとどまらせていただきます」
「オブザーバー? ……そんなものはいらん。さっさとイギリスへ帰るのだな」
右手を振り上げたラスプーチンは、サリカたちの前でそれを一閃した。
しかし、これでひるむサリカではなかった。
「悪の国際法にもとづき、外交使節には駐在権が認められております」
「今は戦時中だ。これから上海掃討作戦に入る。退去願おうか」
「駐在権は、戦時中も有効でございます」
「……」
ラスプーチンは初めて、相手を対等に見るような、不敵な笑みを浮かべた。
「女のくせに度胸があるな……気に入った」
「外交に性別は関係ありません」
「減らず口なところも、気に入った」
ラスプーチンは、あごで側近に合図を送った。
「ふたりを、客室へ案内してさしあげろ……丁重にな」
側近は敬礼して、サリカたちのほうへと歩み寄った。
まだ話がある。サリカがそう言おうとした矢先、スクリーンで小さな動きがあった。
通信兵のひとりがふりかえった。
「ゾルゲ様より、通信が入っております」
司令室の空気が変わった。側近はサリカへにじり寄り、退室をうながした。
ところがそれを、ラスプーチンが制した。
「まあよい……せっかくの機会だ。ご同席願おう」
側近は困惑した。
「お、お言葉ですが、機密事項の可能性もあり……」
「なあに、こちらに腹蔵ないことを、納得してもらった方がよかろう」
ラスプーチンは、黒い笑みを浮かべた。
一筋縄ではいかない男だ。サリカは、あらためてそう思った。
「スクリーンに繋げ」
「ハッ」
通信兵がスイッチを切り替えると、司令室の中央モニターに映像が映し出された。
戦闘服に身を包んだ細身の男と、もうひとり、白衣をまとった科学者風の男。
サリカは脇にどき、ラスプーチンの視界を確保した。
《ラスプーチン様、各隊、準備完了です。指示のあり次第、突入いたします》
「北京警察の動きは、どうなっている?」
《我々から数キロ離れた場所に展開中。どうやら市街地を挟んで、逆方向から攻め入るようですな。目標を回収するのは、早い者勝ちになりそうですが》
目標。サリカの鼓膜が反応した。
双性者のことだろうか。そうかもしれない。
しかし、メイドとして仕えた長年の勘が、べつの可能性を示唆していた。
軍人風の男が指示を待つあいだ、科学者風情がふいにしゃべった。
《ラスプーチン様……お言葉ですが……現場指揮はゾルゲ殿に任せて、私はクレムリンに回収していただけませんでしょうか……》
なんとも情けない申し出だ。サリカは、男が戦闘要員ではないことを確信した。
「イワン。おまえがいないと、作戦進行に支障をきたすおそれがある」
《しかし、アナス……》
そこで相方が、イワンを制した。
大方、戦闘服のほうがゾルゲなのだろう。サリカは、そう読んだ。
それにしても、「アナス」とは何だろうか。
人名か、それとも作戦名か。新しい兵器の名称かもしれない。
サリカは記憶にきざんだ。
《ラスプーチン様、突入のタイミングは?》
「9時半だ。中国当局よりも早く動け。いいな」
《了解》
通信が途切れた。ラスプーチンは、やれやれと言った感じで、椅子にもたれかかった。
サリカは頃合いを見て、ふたたび一歩前に進み出た。
「捜し物がおありのようで……」
微妙なカマかけに、ラスプーチンはにやりと笑った。
「わしは常に捜し物をしておる……世界平和という名の捜し物をな」
○
。
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説明を終えた天和は、扇で頬をあおぎ、ホワイトボードの前を一巡した。
「……という作戦なのですが」
作戦を告げられたメンバーは、お互いに出方をうかがった。ムサシだけは、長机の表面を凝視して、じっと考えにふけっていた。作戦に納得したわけではない。むしろ、部外者は口出ししないほうが良いと、そう思ったのだ。
最初に口をひらいたのは、蘆屋だった。
「守備方が、少々ちらばり過ぎているように見受けられるのですが……」
蘆屋の感想には、ムサシも同意だった。天和の作戦は、こうだ。上海の貧民窟に隠れている自分たちは、特定の施設に篭城するのではなく、市街地の迷路を利用して、敵を食い止める。ようするに、ゲリラ戦術というわけである。
蘆屋に疑問を呈された天和は、表情をゆるめずに答えた。
「一ヶ所に集まるほうが、かえって危険です。このたびの戦い、こちらの目標は『北京警察と隠密課の攻勢を防ぐ』という、大変分かり易いものになっています。一方、敵の目標は曖昧。王様を捕縛することなのか、わたくしたちを上海から追い出すことなのか、それとも他に勝利条件があるのか……いずれにせよ、こちらのほうが主導権を握り易い形です」
天和は自説を述べ終え、一同を見渡した。
やや前方で椅子をかたむけていた十三不塔は、天井を見上げながら口をはさんだ。
「そうかなあ? 敵が上海を制圧しちゃえば、生き残っても負けだと思うけど」
ムサシは、十三不塔の意見にかたむきかけていた。ここが最後の砦ならば、上海を押さえられた時点で、組織の崩壊を意味する。それは敗北ではないのだろうか。
天和は次のように説明した。
「その上海制圧を阻止するのが、この散開戦術なのです。本拠地を決めてしまうと、そこを巡る攻防で白黒がはっきりしてしまいますゆえ」
なるほどと、ムサシは首肯した。そして、清美のほうをふりむいた。
清美は、蘆屋道遥のすぐそばに座っていた。殺されかけた相手に寄りそうという行為が、ムサシには未だに理解できないでいる。無論、清美が想いを最初に打ち明けたのは、東京のマンションにいたムサシことトモエである。あのときは、ただの初恋だと思っていたのだが──
愛の力なのか、それとも、清美と蘆屋のあいだにある歴史的な因縁が、なにか運命めいた力でふたりを引き寄せているのか。ムサシには、分からなかった。
天和は、ほかに意見が出ないことを確認した。
「異論がなければ、持ち場についていただきとうございます。北京の残党からは、すでに警察がこちらへ向かったとの報が入っておりますゆえ」
それまでひとつも口を利かなかった王が、紅のくちびるを動かした。
「して、開戦時刻は?」
女のような顔をして、妙にドスが利いていた。
「正確には申し上げかねますが、間もなくかと……遅くとも、22時を予定しております」
ムサシは、変身リストウォッチの時計を確認した。
21時20分。あまり時間がない。移動して準備して終わりだろう。
ただその前に、ひとつだけ確認しておきたいことがあった。
「俺たち3人をばらばらに配置している意図は?」
ムサシの問い掛けに、場は静まり返った。
天和は、扇で口元をおおい、それからやや丁寧な口調で答えを返した。
「戦力の関係上、これが最善かと思いました」
「双性者同士で固めると、なにをしでかすか分からない……からだろ?」
ムサシは、天和の顔をまっすぐと見つめた。
天和もひるまず、少年の瞳をとらえ返した。
「……なにかご不満でも?」
天和は、遠回しに白状した。ムサシは、声が上ずらないように、気を引き締めた。
「いや……不満じゃない……ただ、そっちの考えを、ちゃんと開示して欲しいだけだ」
「……それは失礼いたしました」
ムサシは、それ以上なにも言わなかった。ここから作戦で揉めるのは、無意味と判断したからだ。組織の内容も、敵の戦力も把握していない自分たちでは、かえって場を混乱させるばかりである。ムサシは、臥薪嘗胆を決め込んだ。
「それでは、ご武運を」
天和の解散宣言を合図に、各人が部屋を出て行った。
カオルも席を立ち、ムサシの肩をたたいた。
「じゃ、気を付けろよ」
カオルの指は、若干震えていた。
ムサシはそれを指摘せず、アナスタシアに視線をうつした。
「あのロボットは、頼りになるのか?」
一気通貫とのやり取りを見ていたムサシは、アナスタシアに懐疑的だった。
一方、彼女と組むことになったカオルは、むしろ彼女を信頼しているように見えた。
「大丈夫だ。あいつなら、軍隊とでも戦える」
ムサシは口をつぐんだ。アナスタシアと行動をともにしたカオルがそう言うのだから、そうなのだろう。ここは、友人の鑑識眼を信じるしかない。
「むしろ王とその部下のほうが心配だよ、俺には。ムサシこそ気をつけろ」
カオルはそう言って、視線を横にスライドさせた。その先にあるのは、ふたり仲良く並んでいる、一向聴と十三不塔の姿であった。ムサシは彼らと組むことになっていた。
確かに、これは不安になる。ムサシも、それは認めざるをえなかった。
「俺は近接攻撃しかできん……一向聴の能力は、頼りになると思う」
「あっちの……十三不塔の能力は?」
ムサシは首を左右にふった。単純に知らないのだ。ただ、こうつぶやいた。
「四風仙って言うからには、頼りになるんだろう」
「おまえ……それでいいのか?」
「俺たちが口出ししても、作戦が変わるとは思えないからな。それより……」
ムサシは、カオルの肩越しに、清美を横顔を追った。
清美は、あいかわらず蘆屋のそばにいる。こちらへ来てくれても良さそうなものだが。それともすでに、個別の作戦を立てているところなのだろうか。本当は、ムサシたちもそうしなければならないのかもしれない。味方の能力すら把握していないのは、致命的だった。
カオルは小声で、
「あの蘆屋って男……信用できるのか……?」
とたずねた。
清美と蘆屋の仲は、カオルにとってはムサシ以上に不可解なようだ。それもそのはずで、清美の恋心を、カオルには教えていないのだから、当然であった。
ムサシは、
「悪の組織の元締めだ。少なくとも、俺たちのエスコートよりは確実だ」
と返した。
「そりゃそうかもしれないが……あいつが裏切ったら、どうするんだ?」
「王をか?」
「俺たち全員だよ」
カオルの猜疑心に、ムサシはなんと説明したものか、難しい立ち位置を迫られた。
しばらく思案にふけり、それから、ありのままを話すことに決めた。
「蘆屋は信頼できる」
ムサシの断言に、カオルは眉をひそめる。
「どうして言い切れる?」
「蘆屋は義を重んじるタイプだ。たとえ悪でも、その点だけは信頼できる」
「清美も、そう考えているわけか?」
それは違う。ムサシは、心の中でノーを突きつけた。
清美が蘆屋に寄りそっているのは、まったく別の理由である。義ではなく、愛。
ムサシはその言葉を、胸の奥にしまいこんだ。
「そろそろ移動するアル」
やや下方から、少女の声が聞こえた。一向聴と目が合った。
一向聴は、ムサシのことをすでに仲間だと思っているのか、警戒心を発していなかった。
「そうだな……打ち合わせも必要だ」
これを聞いた十三不塔は、
「ま、打ち合わせって言っても、特にやることないんだけどね」
と混ぜっ返した。少なくとも、この少年の能力だけは聞いておかねばならない。そして、おそらく、それしか聞くことがない。
ムサシが今回の作戦のずぼらさに呆れていると、清美が走りよって来た。
彼女は心配そうな目付きで、ムサシとカオルを交互に見やった。
「ふたりとも、気をつけて」
これには先にカオルが答えた。
「清美もな」
カオルはそう言うと、アナスタシアの方へ移動し始めた。カオルは本当に、アナスタシアを全面信頼しているように思える。いったい、お互いのあいだになにがあったのか、ムサシはいぶかるばかりだった。
ひとまず、ムサシも清美に返事をした。
「清美も気をつけろよ」
「ボクは、ムサシが一番心配だよ……」
そうつぶやいて、清美は一向聴を盗み見た。一向聴は、顔を赤くして抗議した。
「あたしたちは頼りになるアル! 四風仙ふたりの大サービスよ!」
どうだか。ムサシは、内心自嘲気味に笑った。
それに、よく考えてみれば、自分もまた微妙な戦力なのだ。ヒーローも魔法少女も、あまりパッとしない。
しんみりとした空気が、4人のあいだに流れた。
それを吹き払うように、一向聴が拳を振り上げた。
「それじゃ、レッツゴー! アル!」
○
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運転席に寄りかかり、ほがらはニッキーの横顔をのぞきこんだ。
「ニッキー、本当にステッキを見つけたの?」
ニッキーは操縦桿を握りしめたまま、答えを返した。
「ああ、間違いなく上海にある……しかも3本だ」
「3本? ってことは、カオルたちは全員そこに?」
「仮にそうなら、ベストな状況だが……」
言葉をにごすニッキー。一方、ほがらはその場で小躍りした。
後ろにひかえていたジュリアも、袖をまくり上げてガッツポーズをした。
「よっしゃ、こいつは幸先ええでぇ」
友人の意見に、ほがらも同調した。
カオルの捜索を優先していたら、まとめて3人見つかったのだ。
これをラッキーと呼ばずして、どうする。ほがらは、腰のステッキを握りしめた。
「じゃあ、突入するわよッ!」
「上海には、あと5分で到着する」
「めちゃくちゃスムーズじゃない。シベリアから移動して、大正解ね」
「ただし、クレムリンも上海沿岸に待機してる」
ニッキーの発言に、ほがらとジュリアは顔を見合わせた。
宇宙船の内部に緊張が走る。
「クレムリンも来てるの?」
「間違いない。こうなると、目標は一緒だと考えるしかないな」
「カオルたち?」
ほがらは、絶対にそうだと確信していた。
けれどもニッキーは、曖昧に返事をした。
「分からない……クレムリンは、なぜカオルくんたちの居場所が分かったんだろう? もっと別のなにかを追跡しているようにも思えるが……」
「じゃあ、あのロボットで決まりじゃない。ロボットの移動先に、偶然みんないたんだわ」
「……そうかもしれない」
ニッキーはそれだけ言って、最初から存在しない口を閉ざした。
ほがらは、それを了承と受け取る。しかし、今度はジュリアが首をかしげ始めた。
「そんなうまい話、あらへんと思うんやけど……偶然3人集まるとか……」
ほがらは頬をふくらませ、悪友に反論した。
「だったら、どうしてムサシたちも上海にいるのよ? 王桀紂に連れ去られたからでしょ?」
「王が、なんでムサシたちを連れ去るん? なんでロボットが上海におるん? 分からんことが多すぎるんとちゃう?」
立て続けの質問に、ほがらはしどろもどろになった。
解決を拒否して、ステッキを空中に振り上げた。
「それはどうでもいいのよッ! ニッキー! 上海へ向かって、全速前進ッ!」




