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第40話 オルレアンの魔女

 どのくらい眠っていただろう。

 瞼の裏にこびりついた闇が、ゆっくりと白んでいく。

 視界が開けたとき、ともえは真っ白な天井を見上げていた。

 布団の柔らかな感触が全身をおおっていた。

「ここは……?」

 ともえは室内を見回した。意識はまだはっきりしないが、どこかマンションのような一室にいることだけは、おぼろげに把握できた。レースのカーテンの向こうには、都内の高層ビルが建ち並び、穏やかな昼前の日差しが射し込んでいた。

「ここはどこだ……? (しのぶ)殿のマンションか……?」

 ともえは記憶をたどり、公園で起こった爆発の映像を思い出した。

 逃げ遅れたともえは、誰かに抱きかかえられた気がする。それが現実の出来事だったのか、それとも夢の一部だったのか、どうにも判然としなかった。

「忍殿? 忍殿?」

 ともえは上半身を起こすと、忍の名前を呼んだ。

 返事はない。清美とニッキーの姿もなかった。

 ないない尽くしの中、ともえはいい知れぬ不安を感じ始めた。

「清美? ほがら? かおる? ジュリア? ニッキー殿? 忍殿?」

 知人の名前を立て続けに呼び、気をまぎらわせた。

 不安は募るばかりだ。昼間の静けさが、かえって不気味に思えてきた。

 たまらなくなったともえはベッドを抜け出そうと、本格的に体を起こした。

「痛ッ!?」

 ともえは顔をしかめ、体のあちこちに走った痛みに耐えた。

 自分が蘆屋(あしや)道遥(みちはる)と対峙していたことを、彼女はようやく思い出した。

 ともえは布団を剥ぎ取り、痛みの走る箇所を確認した。

「これは……」

 見れば傷口にはすべて、なんらかの手当がほどこされていた。

 あるところには包帯が巻かれ、あるところにはガーゼが貼り付けてあった。

 ともえは、ここが病院ではないかといぶかった。しかし、やはり違うようだ。室内の調度品は、どれもお洒落なものばかりで、病院の無機質な個室とは異なる印象を与えていた。

 やはり隠密課の用意した隠れ家なのだろう。忍と他のメンバーは、なにかの用事でここにはいないのだろう。ともえがそう結論付けかけたとき、扉がふいにひらいた。

「ハイハーイ、そろそろお目覚めかなぁ?」

 あっけに取られてしまうような陽気な声で、ひとりの女が入室した。

 両手には紙袋を一杯に抱え、それをどさりと中央のテーブルに下ろした。

「いやー、買っちゃった買っちゃった」

 そう言って手を払う女は、一見して日本人ではなかった。カールした栗毛の髪が、背中まで垂れていた。丁寧に整えられた睫毛と、細く弓なりに描かれた眉毛。栗色の瞳。

 ともえは呆然とした顔で、女の顔を凝視した。

「あ、やっぱり起きてたんだ」

 女はわざとらしくそう言うと、笑顔でともえに近付いて来た。

 ともえは無意識のうちに、武器を探していた。女から異様な気配を感じ取ったのだ。

 まさか敵の手に落ちたのか。全身に緊張が走った。

 ところが女は、そんなともえの焦りを無視して、額に手をあててきた。

「うーん……熱はないようね……」

 どうみても風邪ではないのに、女はとぼけたような仕草をした。

「お、おぬしは何者だ!?」

 ともえの覇気を含んだ問いに、女は目をぱちくりさせた。おどけたように舌を出し、腰に手を当てて、ともえの前に立ちはだかる。

 まるでファッション雑誌に出てくるモデルのようだと、ともえは場違いな感想を抱いてしまった。それほどまでに女は完璧なプロポーションをしていた。

「私の名前はジャンヌ。あなたは?」

「じゃんぬ……? 日本人ではないのか?」

「ノン」

 ジャンルは不敵な笑みを浮かべ、片手を頭に当ててS字カーブのポーズを取った。

 ともえは首を左右に振り、状況をさぐろうとした。

「こ、ここはどこだ? おぬしは、どこの組織に属している?」

 混乱のあまりともえは、矢継ぎ早に質問をぶつけてしまった。

 ジャンヌと名乗った女は、あいかわらずの笑顔で順番に答えを返した。

「ここは私の別荘。旅行が好きだから、世界中に別荘があるの」

「別荘……? おぬしは旅行者か?」

 女は細い首を縦にふった。

「ただいま世界一周中。カルフォルニアから成田で来たんだけど、まさかこんなことになってるとはねえ……うふふ、面白いじゃない……」

 ジャンヌは意味深な笑みを浮かべた。

 そして、いきなりベッドの端に腰を下ろした。

 スプリングがきしみ、ともえのお尻もぽんと跳ねた。

「ジャ、ジャンヌ殿が拙者を助けてくれたのか?」

「ええ、そうよ」

 ジャンヌはあっけらかんとそう答えた。

「そ、そうか……感謝致す……」

 頭を下げるともえ。

 だが一瞬にして、相手の発言が奇妙な意味合いを含んでいることに思い当たる。

「ジャンヌ殿はあの場にいたのか……?」

 ともえの質問に、ジャンヌはきょとんとした顔を浮かべた。

 それから黙って立ち上がると、テーブルの方へ足を運んだ。

 歩き方まで計算しているのか、まるで壇上のファッションショーのようだ。

「ジャンヌ殿、質問に答えていただきたい」

「そう焦っちゃダメ。まだ若いんだし、人生を楽しまないとね」

 ジャンヌはおどけた調子でそう答えると、袋の中からペットボトルを取り出して、そのうちの一本をともえに放り投げた。

 少し投げる速度に勢いがあったものの、ともえは持ち前の反射神経でキャッチした。

 ペットボトルのラベルを見ると、それは某飲料メーカーの緑茶だった。

「お茶がペットボトルに入ってるのって、珍しいのよね、私の国だと」

「……ジャンヌ殿はどちらのご出身か? カルフォルニアから来たということは、アメリカ人とお見受けするが……」

 チッチッチッと、ジャンヌはひとさしゆびを振って抗議する。

「日本人って、白人とみるとすぐにアメリカ人を連想するのね。ダメよダメ。世界はアメリカを中心に回ってるわけじゃないの。そこのとこ、よろしく」

「失礼した……では、ヨーロッパか?」

「ヨーロッパのどこでしょう?」

 ジャンヌはキャップを回してそれを抜き取ると、一気に三分の一ほど飲み干した。

 ともえは手の中で冷えるお茶を握り締めながら、彼女の顔を凝視した。

 ヨーロッパのどこか。見当がつかない。ともえは降参したように首を左右に振った。

「教えてくださらぬか」

「フランスよ、フランス。パリから来たの。まっ、それはどうでいいわ」

 自分から切り出した話ではないか。ともえは内心突っ込みを入れた。

「さっ、それじゃ行きましょ」

 ジャンヌはパンパンと手を叩いた。

 扉がひらき、執事服に身を包んだ初老の男が部屋に入って来た。鬘のような巻き髪に、小さな眼鏡。前世紀の遺物のような出で立ちに、ともえは物珍しそうな視線を向けた。

「セバスチャン、そこの荷物、全部運んでちょうだい」

「かしこまりました」

 セバスチャンと呼ばれた男は軽く頭を下げ、荷物へと歩み寄った。

 ジャンヌがひとりで運んで来たのだから、男ならそう苦労はしないだろう。ともえがそんなことを考えていると、セバスチャンは両手を広げて荷物をおおった。それから包むように袋に触れると、目の前でそれが消え去た。

 目の錯覚か。ともえは痛む腕を我慢して、自分の眼を擦った。そしてもう一度眺めた。

 確かに荷物はない。手品か。目を白黒させるともえに、ジャンヌが笑いかけた。

「それじゃ、まだ治ってないところ悪いけど、ここを出ましょう」

「こ、ここを出る? どこへ行くのだ?」

「空港に決まってるじゃない」

 ジャンルはそう答えた。まるで半年前から決まっているかのような口調だった。

「空港? 成田空港か?」

「他にどこがあるのよ? ……あ、羽田があったわ」

 ジャンヌは一人でボケて一人で突っ込みを入れた。

 なんだこの女は。ともえがますます混乱していると、さきほどの執事が彼女のベッドに近付いて来た。

「ともえ様、でしたか。早速、お支度を……」

 そう言って腕を伸ばしてくるセバスチャン。

 ともえはびっくりして、老人の手を打ち払った。それから慌てて詫びを入れた。

「し、失礼した……だが拙者とて女。いきなり触らないでいただきたい」

「こちらこそ失礼致しました。非礼をお赦しください」

 セバスチャンは両腕を真っ直ぐ腰に添え、深々と頭を下げた。

 しかしこれでは話が進まない。無礼とか無礼でないとか、そういう問題ではないのだ。ともえが知りたいのはただひとつ。目の前の男女は何者か。それだけだった。

「もう一度質問させていただく……貴殿はどなたか?」

「わたくしは、ジャンヌ様の執事でセバスチャンと申し……」

 ともえは老人を制する。

「それはさきほどうかがった。素性を尋ねておるのだ。どの組織に属している? なぜ拙者を助けたのだ? なぜ成田空港へ向かう? そもそも……」

 ジャンヌは、ともえの質問攻めを制した。

「はいはい、質問はひとつずつにしてちょうだい。マナー違反だから」

 あくまでも答えようとしないジャンヌに、ともえはだんだんと腹が立ってきた。命の恩人なのだから、それではいけないと分かっていても、さすがに我慢ができなかった。

 ともえはかたくなに質問を繰り返した。

「まずは詳しい自己紹介をお願いしたい。それがなければ、拙者はここから動かん」

「それは困るのよねえ。フライトの予定はもう入れちゃったし。いくら自家用機でも、滑走路の都合もあるから……」

「だからそういう問題では……」

「ともえ様、パリから最新のモードを取りそろえておりますゆえ、好きなお召し物をお選びください。今年は黒を基調とした……」

 ドンという打撃音。ともえはベッドの端を思いっきり叩いた。

 ジャンヌとセバスチャンは、お互いに顔を見合わせた。

「……いかが致しましょうか?」

「うーん、できればおとなしく着いて来て欲しいんだけど……強制はできないし……」

「ならば自己紹介をお願いしたいと申しておるのだ。話はそれからうかがう」

「じゃあ私が自己紹介したら、成田空港まで着いて来てくれる?」

 ジャンヌは前屈みになり、ともえの顔をのぞきこんだ。

 無邪気な瞳。そんな表現がぴったりな女性だった。

 ともえは気まずそうに視線を逸らした。

「そ、それとこれとは別儀。貴殿らの素性次第では、なんとも……それに、拙者はこの町に友人を残している。理由のない移動は、承服致しかねる」

「ああ、他の双性者(ヘテロイド)のことね」

「そう、その通り……ん?」

 ともえは視線をジャンヌにもどした。

 ジャンヌは平然としていた。

「な、なぜそのことを知っている!?」

 アッと口に手を当てるジャンヌ。

 演技なのか素なのか。ともえには判断がつきかねた。

 しかしそれはどうでもよいこと。自分の正体を知っている以上、もはや目の前のふたりが、ただの旅行者であることはありえない。敵か味方か。ふたつにひとつだ。

 ともえは身を引き、ステッキとリストウォッチを探す。

 どこにも見当たらなかった。

 七丈島からここまでの夢のような出来事のせいで、頭がおかしくなっていたのだろうか。ともえは自分が非常に危険な状態であることを、ようやく理解した。

 ともえは、ベッドから飛び退こうとした。ジャンヌは彼女の両脇に腕を差し込み、それを引き止めた。

「ほらほら、病人が無茶しちゃダメよ」

「放せ! おぬし、何奴だ!」

「ジャンヌだって言ってるじゃない」

「えーい、ふざけるなッ! 拙者をどうする気だッ!?」

「どうもしないってば。ちょっと面白いから着いて来てくれれば……」

 ともえは暴れ回った。全身に痛みが走るが、今はそれどころではなかった。

 しかしジャンヌは顔色ひとつ変えず、ともえを羽交い締めにしていた。武道の心得があるにもかかわらず、ともえは全く抜け出すことができなかった。

 隣で見かねたセバスチャンが、主人にアドバイスをした。

「お嬢様、情報共有もひつとの手かと思いますが……」

 執事の助言を受け、ジャンヌはタメ息をついた。

「そうねえ、力づくで連れて行くのは嫌だし……それに、ここでバラそうがパリでバラそうが、同じことだものね」

「ば、バラすだと!? 拙者を殺す気か!?」

「もう、そういう物騒な連想はしちゃダメ。ほら、セバスチャン、この子を押さえて」

「かしこまりました」

 失礼しますと断りを入れ、セバスチャンがジャンヌと交代する。

 老人相手なら抜け出せると思いきや、これまた体がびくともしない。ふたりの怪力に、ともえは底知れぬ不安を覚え始めた。

 そんなともえをよそに、ジャンヌはビシッとポーズを決める。

 わざわざそのために、セバスチャンと交代したのだろうか。不安と困惑。コミカルでありながらホラーな今の状況に、ともえは口答えを止めた。

「ふふふ、よーく聞きなさい。フランスと世界の救世主、オルレアンの魔女とは、この私のことよ!」

 決まった。両腕を組み、ドヤ顔で何度もうなずくジャンヌ。

 十分に満足したところで、ジャンヌはともえの顔を見つめ返した。

 ともえは口をぽかーんと開けているだけだった。

「……あれ? 驚かないの?」

 ともえは首を左右にふった。

 オルレアンの魔女──なんだそれは。アニメ好きの外人か。

 ともえはなにかの雑誌で、そういう記事を読んだことがあった。もしかすると、ほがらと同種の人間なのかもしれない。今さらながらに、別行動がもどかしく感じられた。

 話が進まなくなったところで、セバスチャンが口を挟んだ。

「ジャンヌ様、この少女、なにも聞かされていないのでは?」

「き、聞かされてなくても、私は有名人よ!」

 まるで一般常識のような言い方だった。ジャンヌはショックを受けたかのように、頭を抱えて悶え始めた。ともえは、なんだか申し訳なくなってきた。

「す、すまぬ……拙者、アイドルなど、そういうものはからっきしで……」

 アイドル。その言葉に、ジャンヌはぴくりと反応した。

 怒ったような顔で、ともえの方に向きなおった。

「私はアイドルじゃないわ! 救世主ソヴァールよ! 世界に真の自由と個人の尊厳をもたらし、国境という国境、組織という組織、人間を束縛するもの全てを葬り去る! それが私の使命!」

 ひとさしゆびを突き立て、ジャンヌは一気にまくしたてた。

 ともえは動揺を隠せなかった。オカシナ人間に捕まってしまったのではないか。その可能性が、少女の脳裏をよぎった。

 ここは怒らせないほうがいい。なにをされるか分からない。そう判断したともえは、慎重に話を進めた。

「で、ではその救世主殿におたずねしたい……なぜ拙者を国外へ連れ出す?」

「それはもちろん、あなたが双性者(ヘテロイド)だからよ」

 双性者(ヘテロイド)。やはり今回の騒動の関係者としか思えなかった。

 ともえはさらに質問を続けた。

「な、なぜ拙者が双性者(ヘテロイド)だと知っている?」

「あら、そんなの誰だって知ってるわよ。まずアシヤが知ってるでしょ。ワンとラスプーチンも知ってるし、それから……」

 指折り数えて、ジャンヌは眉間に皺を寄せた。

「それに、あの吸血鬼の小娘も知ってるのよね……」

 ともえは全身の血が引くのを感じた。

 蘆屋、王、ラスプーチン、吸血鬼の小娘──

 どれも名だたる悪の組織の親玉だ。

 目の前にいる女の正体も、自ずと明らかになった。

「ま、まさか……おぬしはフランスにある悪の組織の……」

 ともえの震える問いを、ジャンヌはひとさしゆびを振って否定した。

「分かってないわねぇ……人の話、聞いてた? 私はね、個人の自由を奪うあらゆる仕組みが嫌いなのよ。悪の組織なんて、もっての他だわ。だいたい、この世で最も尊いものは、自由でしょ。それなのにあの吸血姫ったら、『ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために』とかなんとか言っちゃって……ああもう、身の毛もよだつ全体主義だわ!」

 ジャンヌは両腕を抱き締め、わざとらしく震えてみせた。

 一方、ともえは自分の思考を整理するだけで手一杯だった。自由。その大切さを、彼女も当然知っている。七丈島の自由学園でも、一番大事にされるお題目であった。

 しかしそれを口にしているのは、自称魔女なのだ。

 いったいどういうことなのか、ともえは訳が分からなかった。

 ジャンヌはさらに演説を続けた。

「集団の利益のために個人が犠牲になる。ダメ! ダメ! ぜーッたいダメ! 私は認めません! 民主主義は数の暴力よ! 無政府、無市場、無権力こそ、私が救世主としてこの世にもたらす地上の楽園! 私はそのために闘っているの!」

 危ない。ある意味で悪の組織よりも危ないと思った。

 ともえはさきほどとは違う恐怖を感じた。

「そ、それと拙者の処遇に、どういう関係が……」

「大有りよ」

 ジャンヌはさらに力を込めた。

「あなたたち双性者(ヘテロイド)は、日本政府という権力組織にいいように使われる可哀想な存在。だから私が救出してあげたの」

 日本政府。その言葉を耳にしたともえは、昨晩の出来事を思い出した。

 なにが起こったのか正確に記憶していないが、清美が爆発した気がした。

「き、清美はどこに?」

「あの子は、アシヤの組織にかくまわれてるわ。彼女も救出しようと思ったんだけど、タイミングがなくて……まあ、日本政府に操られてるよりはマシね」

 ともえには、ジャンヌの説明が理解できなかった。隠密課に協力しているということは、日本政府に協力しているのと同じである。彼女もそのことは認めていた。けれども、操られているとはどういうことだろうか。

 ともえはさらに記憶を深く掘り下げてみた。

 すると、あることに思い当たった。

「ま、まさかあのとき忍殿は……」

 ともえは、忍が清美になにか口添えをしたことを覚えていた。

 清美が呪文を唱え、炎に包まれたのはその直後だ。

「お、隠密課が拙者たちを裏切ったと言うのか?」

「あら、ようやく気付いたみたいね」

 ジャンヌはふぅと溜め息を吐き、両手を掲げて肩をすくめてみせた。

「さて、それじゃ話はついたし、空港まで急ぎましょ。セバスチャン、車の用意は?」

「玄関にリムジンを回してあります」

「それなら、あとはともえちゃんが着替えて……」

「せ、拙者はまだ行くと申しておらん!」

 ともえは大声を上げた。

「あら、着いて来ないの? ……まあ、それはあなたの自由だけど。でも、お友だちが酷いことされたのに、まだ政府に味方するわけ?」

「ま、まだ貴殿の話について納得したわけでは……それに清美が蘆屋一族に囚われているなら、早く助け出さねば……」

「囚われてるんじゃなくて、かくまわれてるんだけど……まあいいわ、あんまり時間がないから空港へ行く途中にでも話し合い……」

 軽快な振動音。ジャンヌはジーンズのポケットから、窮屈そうに携帯を取り出した。

「ハイハイ、ジャンヌよ。なにかしら?」

 友だちから掛かってきたかのような、馴れ馴れしい口調。本当にこの女が、世界中の悪の組織とタメを張っているのだろうか。ともえが首をかしげていると、ジャンヌの顔が見る見る険しくなっていった。

 そして、室内に彼女の声が響き渡った。

「アシヤ一族が負けた!?」

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