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八月のバレンタイン  作者: koyak
「長月」
4/30

04.同盟成立

 夏休みが明けて九月。


 僕は長月兼好(ながつき かねよし)と向かい合って昼飯をかきこんでいた。

葉月は学食にでも行ったのか、隣の席にその姿はない。


「いや~、お前が葉月に告白したって噂を夏期講習に参加していた連中から聞いたときは驚いたぜ。『あの歩が!?』ってな」

「こっちが驚いたよ。どこをどう誤解したらそんな話になるんだか。みんな余程受験でストレスがたまっているんだな」

 兼好から電話で噂のことを聞かされたあの日、告白なんてした事実はなく、自分と葉月は級友以上の関係はないことを説明した。兼好が納得する頃には夜明けも間近になっていた。

 その後、噂をしている奴らに事実を説明し、もう一方の当事者である葉月が無関心を貫いていたこともあって話はデマとしてようやく落ち着きを見せていた。

「そんで、お前のお気に入りな節奈ちゃん、だっけ?」

「知り合いでもないのに下の名前にちゃん付けとかすんなよ」

「まあいいじゃん。その子とはどんな感じなのよ?」

「どうもこうも、何もないよ」

「おいおいおい、卒業まであと半年しかないってのに随分のんきだな~。余裕かますのは受験勉強だけにしとけよ?」

「ほっとけ」

 そっちの方も、余裕なんてない。

「見込みは?」

「ない。向こうはそもそも男自体に興味なし! なんだぞ。一体どうしろっていうんだよ」

「むしろ普通に好きな男がいる、よりもチャンスはあるだろ。考えてもみろ。女同士での恋愛がそう簡単に成立すると思うか?」

「まあ、両方ともそういう趣味がなければ、まず無理だろうな」

「だろ? そして葉月はノンケだ。そこは同じ部活だった俺が保証するよ」

 兼好も葉月と同じ陸上部に所属していた。種目は主に1500m走。

 部活の方は県大会まで進んで予選敗退に終わっているが、校内のマラソン大会では昨年、三年生をおさえて校内一位をとっている。今年度はどういうわけかマラソン大会が廃止になってしまい、長月は「バスケ部の陰謀に違いない」と嘆いている。以上、余談。

「ということは、だ。節奈ちゃんの恋は十中八九、実らない。

狙いはそのときだよ。現実でも漫画とかでも失恋して傷心な女の子の愚痴や悩みを聞いているうちに新たな恋が芽生える☆なんてのはよくある話だ。恋愛ジャンキーな姉貴と妹がいる俺が言うんだから間違いない!」

 説得力があるんだかないんだか。

 つまり僕にとってのチャンスは好きな相手の失敗を前提に成り立っているってわけだ。

「そんな後ろ向きになってもいいことなんてないぞ~。お互いが幸せになれるんならそれが一番じゃねーか」

「ごもっとも。ちょっとはやる気出てきた気がするよ。一応礼は言っておく」

「おいおい、一応、かよ。もっとこう涙と鼻水を垂れ流すくらいに感謝してくれよ」

「はいはい。今度購買で売ってる80円の豆乳でもおごるよ。……ところで、一つ聞きたいんだけど」

「あんだよ?」

「いつになく協力的なのは何でだ?」

 そうなのだ。兼好は基本的にはいい奴なのだけど物事への好き嫌いが結構ハッキリしていて、

興味があることにはとことん食いつく一方で興味がないことにはとことん面倒くさがる。

「俺とお前の仲じゃないか。相談にのるくらい、当然だろ?」

「僕とお前の仲だからわかるんだよ。兼好はそんなキャラじゃない」

「ぐ、嫌な返し方しやがって。まあお察しの通りだ。俺にもそれなりに思惑がある」

 突然、兼好は腕を僕の首にまわし、顔を近づけてひそひそ声で続きを語る。

残暑も厳しいというのに暑苦しい奴である。

「実はな、俺、狙ってんだわ。その、葉月のこと」

 ああ、わざわざ電話で噂の真相を確認してきたのはそれか。

「納得したか?」

「ああ。ということは僕たちは敵同士ではなく共に手を取り合える戦友同士といえそうだな」

「兄弟、俺も同じことを考えていたぜ」

「……」

「……」


 ガッ!

 これまた唐突に交わされる男同士の握手。


「同盟成立」

「だな」


 そんなむさ苦しい様子にニヤニヤした視線と冷めた視線が注がれていることを、そのときの僕たちは知る由もなかった。


(続く)

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