28.暇を持て余した神々の遊び
「結婚式の案内が書かれたメール? それなら俺のとこにもきてたな」
「私も同じく」
「僕のところにもだね」
「こちらにも送られてきていました」
合格発表の日にあった出来事を、僕は兼好、葉月、神無月、霜月さんに話していた。
如月が言っていた「結婚式をぶち壊す」。さすがに本当に実行するとは思えないけど、あいつが仄めかしていた"協力者"の存在や別れた直後に届いた差出人不明な……多分、如月が送り主の……メール。などなど、気になる要素がいくつかあって、何も起こらないとも思えない。僕一人では判断に迷ってしまっていたからだ。
いざ相談してみてわかったことは、『僕が相談した全員に同様のメールが届いていたこと』。送った人間が同じ人物……如月だとすると、あいつは僕たちに何をさせようとしているのだろう?
「まあ、とりあえず書かれていた時刻に現地へ行きゃ何かわかるんじゃないか?」
「長月君は前から行き当たりばったりが大好きよね」
「臨機応変と言ってくれ」
「だけど、確かにメールの内容だけじゃわからないことが多すぎる。長月君の言うとおりかもしれないよ」
「時雨さんに同意、です」
「あれ、そういや姉貴から聞いたことがあるんだけど、結婚式って招待状が新郎新婦から送られてきて、参加する奴は"参加"って返信することになっているらしいぞ。そういうのなしに中に入れてもらえるもんなのか?」
「言われてみれば私も従姉が結婚するとき、招待状をもらったわ」
「まあ、それも含めて、行ってみないことにはわからないんじゃないかい?」
「むむ、確かに」
とりあえず、三月十四日のメールに書かれた時刻に式場近くの喫茶店集合、ということだけが決まった。平日だけど、三年生はもう授業はない。霜月さんは自習になるよう教師を誘導した上で頃合いを見計らって抜け出す、とのこと。このコは本当に、敵にはまわしたくない。
「服装とかどうするの? 礼服……なんてないから学制服とかかしら?」
「いや、招待されているわけじゃないし、何が起こるかもわからない。一応、動きやすい服の方がいいんじゃないかな」
「楽観的かと思ったら随分と慎重なことを言うな。でも、僕も神無月の意見に一票かな」
「そうですね。それじゃ動きやすい服で集合ということにしましょう」
「りょーかい。へへ、何だかちょっとワクワクしてきたな」
「ちょっと、結構シリアスな話なんだから、しゃきっとしてよ」
三年生組はめでたいことに、既にそれぞれの進路が決まっている。手続きとか卒業式のリハーサルとかをしているうちに日が経っていき、気づくと結婚式の日が近づいてきていた。
三月十三日、夕方。
「歩。あんた宛に宅配便が届いているわよ。お友達からかしら?」
僕に? 何だろう、と首をかしげつつ荷物を母さんから受け取った。差出人は、聞いたこともない名前。とりあえず開けてみることにする。不用心かもしれないけど僕なんかに危ないものを送りつけても、何も得することなんてないだろうし。開けてみると、中には。
「……スマフォ? それと、手紙。後は式場の見取り図……か」
スマフォは少し前にただ同然で売り出されていた某社の初代機種だった。手紙には「三月十四日の午前十時。下記のアドレスを参照すること」とある。見取り図の方には裏口と思われる所に丸がつけてあって、そこからどこかの部屋に向かって矢印、そこで待機、という注釈がつけられていた。
「おいおい、まさか、やっぱり僕たちに結婚式の邪魔をさせようとしているのか?」
いや、もしかすると一連の送り主は如月ではないのかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。だとすると、誰だ?
「う~ん、訳がわからん。それでもやっぱり兼好・神無月理論でいくしかない、かな」。
日付が変わり、三月十四日がやってくる。
如月の父親と、睦月の母親の、結婚式の日が。
(続く)