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八月のバレンタイン  作者: koyak
「弥生」
27/30

27.俺たちの戦いはこれからだ!

「え~と14142番14142番……っと」


 三月三日。世間一般ではひな祭り。

 でもそんなの関係ねえ。


 僕にとっては、志望校の合格発表日。

 

 未だ寒さが残る中、僕はコートを着込んで大学のキャンパス内に張り出されている合格発表を見に来ていた。

 がっくりとうなだれ家路につく方々、お互いを胴上げしあう男ども、喜び抱き合う女たち。まさに悲喜こもごも。

 そして、僕の番号は。


「……あったああああああっ!!」


 思わず小さくガッツポーズ。良かった! 本当に良かった! やべ、ちょっと鼻水出てきた。

 少し離れた所には兼好の姿が見える。あいつはどうだったのだろうか。もし落ちていたら、落ちていたら……だ、大丈夫。それでも僕たちの友情は永遠だゼ? 多分。

 恐る恐る観察していると向こうもこちらに気づいたらしい。こちらの方へと歩いてくる。おお、だだ漏れてるだだ漏れてる。ちっ、どうやら兼好も合格のようだ。

 あちらも僕の様子で察したらしい。途中から小走り、そしてダッシュ。全く、小学生じゃないんだから。なんてことを考えつつこちらもダッシュ。


「へへ、お互いモラトリアム期間の延長には成功したみたいだな」

「モラトリアムゆーな。僕はちゃんと将来に向けて勉学にも励むつもりだぜ?」

「受験直前までバイトやってたような奴がよく言うわ」

「それも人生勉強という勉強なのさ。多分」

「多分かよ」

「まあ何はともあれ」

「もうしばらくは、よろしくな!」

 ぱぁん! とハイタッチ。うわあ、何か今、凄く青春っぽかったな。ちょっと恥ずかしくなってしまった。


 帰り道。親に合格したことを一言伝え、携帯電話をポケットにしまう。さて、僕の方の問題はめでたく片づいた。入学の手続きとか奨学金の申請とか細かいことは色々あるけど、しばらくは悠々自適なご身分である。


 後は、如月の話、かな。

 頭をバリボリかきつつ、バレンタインデーの日、如月から頼まれたことを思い出す。



「結婚式って、それ、お前の親父さんと」

「タカ兄のお母さんの、です」

 即答。うおお、ちょっと怖いです、如月サン。

「いや、気持ちはわからなくもないけど、できるわけないだろ、そんなこと」

「霜月さんのお願いは聞いてあげたのに?」

 あれは正当な取引によるものです。まあ、最終的には半ば決裂しちゃったけど。

「その話を知っているんなら、なおさら分かるだろ? 僕が断るだろうってことをさ」

 僕は如月から渡された包みをそのまま彼女に返した。

「これがその報酬だってんなら、残念だけど」

 すっごく残念だけど! 血の涙とか出ちゃいそうだけど!

「受け取れない。なあ、他人の僕が言えたことじゃないけどさ、祝ってやることは出来なくても、認めてあげるくらいは、いいんじゃないのか?」

 沈黙。如月は小さくため息をつくと、思ったよりもあっさりと引き下がった。

「……そうですか~。残念です。先輩ならきっと助けてくれるかな~って思ったんですけどね。でもいいです。タカ兄の他にも先輩よりず~っと頼りになる助っ人もいますし!」

 それだけ言うと、そのままスタスタと歩いて行く。途中、思い出したように振り返ると、こう言い残して去っていった。


「あげたわたしが言うのもなんですけど、そのマフラー似合ってますよ。使ってくれてありがとうございまーす! それでは、さようなら~」



 如月の姿が見えなくなったのとほぼ同時にメールが届く。適当な英数字が並べられたアドレス。明らかに捨てアカウントからのものだ。本文を見てみると、そこには結婚式の日時と場所が記載されていた。


 もしかして僕、挑戦されてる?


(続く)

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