23.文明がどんだけ発達しても、最後にするのは神頼み
校門を抜けると、続くのはポプラの並木道。
その先にあるのは、年季による重厚さをまとった校舎。
ここは近所にある大学のキャンパス内。
とは言っても、僕はまだ、大学生にはなっていない。周囲には僕と同じく大学生じゃないけどここにやって来た人たちが大勢歩いている。
センター試験。古の時代には共通一次試験と呼ばれていたこともあったらしい。これが僕がここに来た目的。大学生になるための第一関門だ。
「よし!」
鞄の中の受験票と筆記用具、直前の悪あがきのための参考書を確認し、他の連中に続いて校舎……試験会場の中へと入った。
「B教室B教室……と、ここか」
受験票に書かれてある番号を頼りに自分の席を見つけ、腰掛ける。
何やらブツブツと呪文のようなものを唱えている奴、瞑想するかのごとく身動き一つせずに目を閉じている奴、会場が同じだった仲間同士やたらハイテンションな奴ら、一心不乱に参考書や単語帳にかぶりついている奴、余裕なのか諦めているのか机に突っ伏して寝ている奴。
(試験会場ってやつは、ほんと色々な奴らがいるな)
僕もそそくさと参考書を取り出しパラパラと目を通す。別にこれで点数が一点でも上がるなんて思ってはいない。ある種の気晴らし。気持ちを多少なりとも落ち着かせるための行為だ。文字通りの、気休め。
間もなくして試験開始時間が近づき、試験官が前の方から三人入ってきた。受験者たちに着席を促し、手分けして問題と解答用紙を配り始める。
(いよいよだ)
試験官たちは用紙を配り終えると、一人はその場に残り、残り二人はそれぞれ教室の端の方に移動する。
その様子を眺めていると、その内の一人と不意に目が合った。
「「あ」」
しかも大変不本意なことに、絶妙のタイミングでハモってしまう。一生の不覚。
睦月二鷹。こんな所で試験官のアルバイトですか。何この遭遇率。怖いんスけど。もしかして、ヒマなんですか?
ああ、何というか、僕、落ちちゃうかもしれん。
受験生が絶対に考えたり口にしてはいけないことを、人事のような気持ちで呟いてしまった。
「時間です。始めて下さい」
一斉に無数の鉛筆が走り始めた。カリカリという音が静かに教室を包む。
僕も気を取り直して問題に取りかかった。
最初は「世界史A」。理系は地理&倫理が無難と言われているけど、やっぱ好きな科目をやるのが一番だよね、と僕はこの科目を選んだ。
『下線部①(東南アジア)の地域の歴史や文化について述べた文として最も適当なものを、次の1~4の中から選べ』
……っていきなり分からん問題が出た。東南アジア史はその、ちょっと、苦手なんです。ええ。決して言い訳などではなく。用語の一つ一つは知っているつもりなんだけど、だけど! ええい、ここはパスして次!
始まる前はそれなりにやれる気がしていたのに、いざ試験が始まるとこの体たらく。それでも自分の脳みその隅から隅までほじくり返し、問題を解いていく。
あっという間に終了時間がやってくる。世界史Aの次は午後の部。国語、英語。
(あいつも来年はこんな感じでセンターを受けるのかな。……全然想像つかないや)
クリスマスにあったことも半ば忘れて、集中力が切れかける度に僕はそんなことを頭の片隅で考えていた。
気になるコのことを試験の現実逃避に使うのは、いかがなものかと自分でも思うけど。
(続く)