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八月のバレンタイン  作者: koyak
「睦月」
22/30

22.天気晴朗ナレドモ浪高シ

「お雑煮、できたわよ。持っていって」

「うーい。……なあ、母さん」

「何? 改まって」

「父さんのこと、好きか?」

 ヒュッという風切り音とともに、おたまが鼻先をかすめていった。思わず鼻をおさえる。よかった。ついてる。

「まったくもう、何恥ずかしいこと言ってんの!? バカなこと言ってないでさっさと食べて勉強でもしなさい!」

 うん。うちは大丈夫そうだ。赤くなった母親の顔を眺めつつ、そう思った。


 雑煮やおせちを平らげ、番茶をすすりつつテレビで実業団駅伝を観ていると、携帯がメールの着信を伝えてきた。 差出人は兼好。

『初詣行こうぜ』



「明けましておめでとうございます~。先輩がた」

「出たなリア充ども」

「はっはっは、そんな時代劇の悪役を見るような目で見ないでおくれよ」


 途中で待ち合わせをして神社へと徒歩で向かう。 

 バスなどを使おうものなら、渋滞で余計に時間がかかるからだ。

 メンバーは、言い出しっぺの兼好、神無月、霜月さん。

「葉月には、断られちまった。残念だ……。全くもって、残念だ」

 兼好は本当に残念そうにつぶやいた。

「如月さんにも連絡してみたんですけど、すぐ留守番電話になっちゃうんですよね~」

 霜月さんはやれやれといった様子でつぶやいた。


 鳥居をくぐり、石畳の上を歩く。門をくぐると、社殿の前の広場にたどりついた。中央には賽銭箱が置かれ、周囲を白い布で大きく囲っている。賽銭箱だけでは正月の参拝客を処理しきれないため、この白い布で囲われた領域に賽銭が届けばOKという、親切だがちょっと風情に欠ける仕様となっている。広場の脇には社務所があり、そこで破魔矢やおみくじが販売されているようだ。


 ベタだけど、僕は五円玉を放り込んだ。五円玉は弧を描き、丁度賽銭箱に命中する。


 どうか志望校に合格できますように。


 そんな多くの受験生と同じようなことを念じつつ、柏手かしわでを打った。


 それと、如月と……。


(気の早いことにな、節奈の親父、春にも再婚するらしいぜ。お相手は、俺のお袋)


 いや、如月のうちが、家庭円満でありますように。


 何かちょっと違うか?


「コラ、いつまでお祈りしてんだよ?」


 後頭部をひっぱたかれる。振り返ると、そこにはあきれ顔の兼好がいた。


「お前、終業式あたりから何か様子がおかしいぞ。その、葉月と、何かあったのか?」


 ええまあ、色々と。葉月とも、如月とも。ついでに睦月とかいうムカつく奴とも。

 ……なんてことを考えていたら、当の本人の姿を人ごみの向こうに見つけてしまった。睦月だ。一人、なのだろうか? 何やら異様に気合いが入った様子で何かを祈っている。ほんの僅かにあった、声をかけてみるかという気持ちが吹き飛んだ。怖いから、何も見なかったことにしよう。


「ほら、またボーっとしてやがる」

「ああ、すまん。そっちこそ、あの告白してきた後輩とやらと、あれ以来どうなったんだよ?」

「ああ、すっぱりと、お断りさせてもらった。フッ、俺は葉月一筋だからな。べ、別にやっぱちょっと惜しかったかななんて思っていないからな! 勘違いするなよ!」

 お前、正直な奴だよな。

「でもそのせいか次の日、妹に絞め殺されそうになったわ……。そういえば姉貴も何か機嫌が悪かったな。全く、俺にあたるのは勘弁してほしいぜ」

 何かを思い出したのか、げんなりした様子で肩を落とす兼好。

 よし、どうにか話をそらせたようだ。


 神無月たちとも再び合流する。

「君たちは何をお祈りしたんだい? 僕"たち"は」

 いや、お前らは言わんでいい。何となく想像つくから。



 こうして僕の新年は、一応は平和に平和に幕を開けた。


 だけど、面している問題は何一つ無くなってはいない。


(でもまあ、それはそれとして、とりあえずはセンター試験を頑張らなきゃな)


 受験を現実逃避に使うのは、いかがなものかと自分でも思うけど。


(続く)

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