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八月のバレンタイン  作者: koyak
「師走」
20/30

20.走るのは師ではなく迷い

 12月22日。二学期最後の日。クリスマスイブイブイブ。

 

 クリスマス直前ということで、街中はそれ一色に染まってっているが、まだ"当日"ではない。

 けれど、僕たち高校生、特に三年生にとっては、今日が事実上そっち方面の天王山だった。

 気になる人がいる奴の多くは、今日を逃せば恐らく年明けまでその相手と顔を合わせる機会を失ってしまうだろう。


「時雨さん、クリスマスイブは何をして過ごしましょう?」

「おいおい柊、そういう話は終業式が終わってからじっくりしようじゃないか。今は自分の教室に戻りなよ」


 ……こほん。既に相方がいる奴らにとってはお気楽な一日でしかないみたいだけど。というかこの二人、選挙以来、人目をはばからなくなってきて迷惑この上ない。


「なんつーか、あいつらはもう、別世界に生きているよな。全く、冬だってのに暖房がいらなくなりそうだぜ」

 同志・兼好がぼやく。

 周りを見渡すと神無月と霜月さんにあてられたのか、教室中が受験とは違う方向に殺気だっていた。

「な、なんか終業式が終わったら大告白大会でも始まりそうな雰囲気なんだけど、兼好も何かやる予定だったりするのか?」

「あ、当たり前だろ? この空気に乗らない手はねぇって!」

 微妙に声が裏返っているのが残念だけど、兼好も何やら燃えているらしい。

 そのお目当てである葉月は……おお、我関せずといった様子。さすがクールだな。こりゃちょっと厳しそうだぞ兼好?


 僕はというと、今日のこれからの段取りで頭が一杯で、告白がどうのという気分じゃなかった。やることの反芻がてら、今週頭、月曜日のことを思い出す。



 それはまたいつもの如く、昼休み中でのこと。

「なあ、前から聞きたかったんだけどさ、ここんところバイトとか菓子作りに励んでるのって何のためなんだ?」

「あれ、話したことなかったっけ? それは……」

 僕がやろうとしていることを簡単に話す。

 八月のあの日、残念な結果となってしまった如月から葉月へのプレゼント。

 そのリベンジとして僕が、如月からということにして、葉月へ贈りものをする。


 話を聞いた兼好は、頭痛をこらえるかのようなポーズを取りながら重々しく僕の肩に手を置いた。

「やめておけ」

「何でさ?」

「お前なあ、他人に勝手にプレゼント作られて勝手に自分の好きな相手に自分の名前で渡されて、喜ぶ奴がいると思うか?」


 思……ん? あれ? 思わない……な。


 自分の顔が青くなるのがわかった。あれ、僕は今まで何をやってきたんだっけ? その様子を見た兼好は慌ててフォローを入れてくる。

「いやいやいや、俺が何を言いたいかというとな、初心に帰れってことだよ」

「初心?」

「そう。お前は如月さんのために何かをしてあげたいんだろ? まずはそこからじゃないか?」

「お前……時々頭いいよな」

「お前は時々頭悪くなるよな……。ま、同盟相手にはもう少し頑張ってもらわないと、こっちも張り合いがないからな」

 そう言って兼好はニッと笑った。


 如月のため、か……。



 翌日、僕は如月に連絡を入れていた。

「お礼?」

「そう。選挙の時に頼みを聞いてくれたろ?」

「ああ、別にいいですよ~。友達のためにやったことですし」

 ケラケラと笑っていた如月だったが、好奇心も少しは刺激されたのか、一応、という感じで尋ねてくる。

「ちなみにお礼って、例えばどんなお礼をしてくれるんですか?」

「そうだな~……」

 ちょっと、考える振りをしてみる。

「もう一度、葉月との仲をとりもつお手伝いをする、とかかな?」

 結局、如月が一番喜びそうなことって、これなんじゃないかと思うんだ。でも、少し唐突過ぎただろうか? ちょっと心配になってきて如月の方をチラリと見やる。


「詳しく、聞かせて下さい!」

 僕の両手を握り、熱い瞳で見つめてくる如月。

 まさかここまで食いついてくるとは。自分で提案しておいてなんだけど、ちょっと驚いた。

「お、おう。凄い気合いだな」

「あはは、ちょうど地球の男に飽きたところでして!」

 化石レベルのネタをかましてくる如月。

 お前は一体何歳だってツッこもうとした僕は気づいてしまった。

 こんな冗談を言いながら笑っているのに、目の方はあんまり笑っていないってことに。


 何か……あったのだろうか?


(続く)

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