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八月のバレンタイン  作者: koyak
「霜月」
15/30

15.果報は寝て待て

「お、お~い、如月!」


 げた箱付近で如月を見つけ、声をかける。

 気まずさで声がうわずったりしないように気をつけながら。

 学校祭の日以来、勉強会は行われていない。直接会うのは久しぶりだ。


「あ、先輩。何だか久しぶりですね」


 あっさりしたリアクションにちょっと拍子抜け。どうやら僕が一方的に気まずさを感じていただけで向こうは特に何もないらしい。


「今、ちょっと時間いいかな?」

「はい。O.K.ですよ。何でしょう?」


 かいつまんで霜月さんと生徒会長選挙絡みでの事情を説明する。


「……というわけで、何か悩み事とか聞けたら聞いてあげてほしいんだけど」

「確かに最近ちょっと余裕なさそうな感じでしたね。私も気になっていました。……そうですね。ちょっと話してみます」


 すんなり話が通り、内心ホッと胸をなでおろす。そうか、やっぱり如月も心配していたんだな。


「でも、先輩、随分と霜月さんのこと、気にしているんですね」

「え?」

「もしかして気があるとか? ダメですよ~。彼氏がいるコに手を出しちゃ」


 女性は皆『女の勘』という特殊能力を身につけていると耳にしたことがあるけど、その精度には個体差があるらしい。……相手によりけり、ってことなのだろうか?

「僕が見ているのはお前だーっ!」と指をさしてやろうかと思ったけど我慢する。


「まさか。仮にあったとしても、霜月さんのお相手は神無月みたいな奴じゃないと務まらないよ」

 これ本音。


 如月と別れて振り返ると、そこには神無月がいた。


「やあ」

「……何だかお前とも久しぶりに会う気がするよ。同じクラスなのにな」

「同感だね」

「そんで、わざわざどうした?」

「ちょっとお礼をね。君が良識ある人間みたいでホッとしているんだ。これももう必要なさそうだね」

 そう言って神無月はSDカードを僕に見せた。その中には何が入っているんだか。君ら本当にお似合いのカップルですよ。

「柊のことは、しばらく君におまかせするよ」


 それだけ言って、神無月は去っていった。

 いや、おまかせされても。もう僕にできることはあんまりないわけで。

 


 翌日。廊下で霜月さんとバッタリ遭遇。華麗にスルーされた……。

 

 翌々日。両候補のマニフェストが発表された。霜月さんのそれはあまり評判がよくない。まあ『風紀』とかそういう単語を使っちゃうと尻込みしてしまう生徒も多いだろう。

 

 三日後。放送部が昼休みに前評判特集を流す。神無月側の陣営が優勢……らしい。

 

 四日後。自陣営が優勢なはずなのに、神無月が妙に憂鬱な表情を浮かべている。

 

 七日後。霜月さんが何やら裏工作をしているらしいという噂が流れる。何やってんだ……。

 

 八日後。霜月さんが学校を休んだらしいという話が聞こえてくる。

 

 

 僕はこの間、何も行動を起こしていなかった。後悔が頭をもたげてくる。如月にちょっとお願いをしただけ。もしかしなくても僕はあまりに怠慢だったのかもしれない……。

 

 そして十日後の朝。


 突然のメール着信音に驚いて跳びあがってしまった。いけない。マナーモードにするのを忘れていた。

 送信元は……霜月さん!?

 恐る恐るメールの本文を開いてみる。


『色々とお節介をやいていただき、ありがとうございます。言いたいこと言ったら、ちょっとスッキリした気がします。つきましては、またご相談が。ご安心下さい。今度はごく普通の雑用などの話ですよ』


 顔をあげると、たまたま通りかかった如月と目があった。

 如月はニッと笑って親指を立てた。

 意外と男前な奴、というのは女子に対しての褒め言葉になり得るだろうか?


(続く)

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