13.孔明というよりは仲達寄りな彼女
「よう、見たか? 廊下の掲示板の告示」
「見た見た。生徒会長推薦の他にもう一人、二年の女子が立候補するみたいだな」
「あれだろ? 部活の部長たちとかから"鬼の副長"って呼ばれている奴」
「そうそう」
「あれ? そういえば去年とか一昨年ってこういうのなかったよな?」
「ああ。どちらの年も候補者が一人しかいなくて"承認"という形だったからな。二人以上の候補者が出たのって、俺たちの代どころか数年ぶりのことになるらしいぜ」
「へえ。かったるいけど、そういう話を聞くとちょっとワクワクしてくるな」
「だよな~」
クラスメートたちの会話が耳に入ってくる。
学校祭が終わり、校内での次なるホットな話題は生徒会長選挙となっていた。
僕たちの学校は特別に生徒会活動が盛んだったり生徒会に絶大な権限が与えられていたりなんてことはない。例年であれば現生徒会長が次期生徒会長を推薦し、全校生徒のうち過半数の承認を得て決定、他の役員は新生徒会長が指名して決まる、という流れになる。
しかし、今年は違った。生徒会長推薦の他に、もう一人立候補者が現れたのだ。
名は霜月柊。現生徒会会計。
制約が色々ある中で堅実に多くの活動実績を残し、教師からも生徒からも評判のよかった現生徒会長こと神無月が推す大本命と、一部からは"鬼の副長"と呼ばれている敏腕会計少女。皆、口では面倒がりながらも、どちらに投票するかといった話題で盛り上がっていた。いつもは殆ど見向きもされない掲示板の前にも、足を止めて内容を読んでいる生徒がちょくちょく見かけられる。
そんな話題の彼女が僕にコンタクトをとってきたのは休み時間のこと。呼び出された場所は、以前如月から物体Xを託された人気のない階段の踊り場だった。
「師走先輩、この場所、何か思い出があるんじゃないですか?」
てっきり選挙がらみの話かと思いきや、霜月は全然関係なさそうなことを口にする。
「あると言えばあるかな」
正直今は、如月のことはあまり考えたくない。
「実はここ、『この場所で女子が男子にお願いをすると、ほぼ確実に言うことを聞いてくれる場所』として学校の裏サイトでは有名なスポットなんです。先輩が今考えている子にこのことを教えてあげたの、私だったりします」
邪気のない笑顔で怖いことを言う。
「ま、マジすか……。んで、そんな場所にわざわざ呼び出すってことは?」
「はい。『選挙活動を手伝って下さい☆』というお願いをさせていただこうかと」
「え~と、僕、受験生なんだけど。勉強に集中しないと成績やばくって」
「先日の模試、好成績で志望校の判定が一つ上がったそうですね。おめでとうございます! あと『コロポックル』でのご活躍も耳にしておりますよ~」
「ぐ……! も、申し訳ないんだけど、ここんところ色々あってそんなことをする気分じゃ……」
「そうですか~。では報酬は『タカ兄』についての情報、で如何でしょう?」
「ぐは……っ!」
一手一手、練達の棋士のごとくこちらの逃げ道をパチリパチリと潰してくる霜月。
「……び、微力ながら力を尽くさせていただきます」
弱っちい奴でごめんなさい。
「さすが師走先輩~! 頼りにしてます!」
多くの男どもを勘違いさせてきたであろう、守ってあげたくなる系癒しの笑顔を放ちつつ、彼女はペコリと頭を下げた。
去っていく霜月の背中を眺めつつ苦笑い。結局のところ、この件は全校生徒を巻き込んでの痴話喧嘩、なのだろう。
人よりも頭の回転が速くて弁も立つ。その他もかなり万能。割と平気で周囲を巻き込む。何というか、良くも悪くもお似合いの二人だと思う。
(続く)