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八月のバレンタイン  作者: koyak
「神無月」
12/30

12.来年の貴方はどんなことをしていますか?

「ふい~、どうやら姉貴の奴は出ていったみたいだな。恩にきるぜ、歩。……歩?」

 振り向いた僕の顔を見ると、兼好はまるで幽霊にでも出くわしたかのような顔をして軽く後ずさった。

「……お前、客商売してる奴が何てツラしてやがる。おらおら、営業の邪魔だから引っ込め引っ込め」

 無理矢理店の奥に引きずり込まれてしまった。もしかして、これは早速貸しを返されてしまったということだろうか。


 結局午後はひたすら菓子づくりに没頭し、家庭科室と教室を往復しているだけで過ぎ去ってしまった。自分の打たれ弱さに自分で呆れてしまう。

 兼好の話では、如月はその後何事もなかったかのように一緒に来ていた友人のもとに戻り、何事もなかったかのように食事をして出ていったという。元々大してあの子のことを知っているわけじゃなかったけど、改めてわからなくなってきた。

 

「おいおい、いつまでゾンビみたいになってんだよ。もうキャンプファイヤーの時間だぜ。如月さん誘うとかしないのかよ?」

「お前こそ、葉月に声かけないのかよ?」

「そうしたいのは山々なんだけどな。アレを押し退けてアタックするわけにもいかないだろ……」

 兼好が指さす先を見ると、葉月が押し寄せる女子の波に飲まれているのが見えた。それを指くわえて見ているあぶれた男ども。全く、需要と供給のバランスってやつは難しい。


「確かにあれは、整理券が必要な勢いだな。ま、ここは三年間鍛え上げた脚の見せ所じゃないか。隙を見てガツンといっちゃえよ。僕は……ちょっと忘れ物したから校舎に戻るわ」

「うっわノリ悪! 何があったか知らんけど、あんまり引きずってんじゃね~ぞ~」


 忘れ物というのはもちろん口実。ちょいと一人になりたかったのだ。我ながら何という豆腐メンタル。

 自分たちの教室の前に差し掛かったその時、柏手(かしわで)でも打ったかのような乾いた音が聞こえた。ラップ音? いやいや、随分寒くなってきたってのに勘弁してほしい。

 なんてことを考えていると、教室から一人の女子が飛び出てきて、出会い頭に僕にぶつかった。

「あ、ご、ごめんなさい……っ!」

 弱々しく詫びると、顔を隠すようにしてその子は走り去っていった。

 今のは……霜月さん? 何か、泣いて、いたような。


 霜月さんらしき女子が飛び出てきた教室の中をのぞいてみると、そこにはもう一人の姿があった。

 すっかり暗くなった教室。外から差し込むキャンプファイヤーの明かりがうっすらとライトアップするかのようにその姿を照らし出す。


「……来てたのかよ。体調はもういいのか? 神無月」 


「やあ、師走君。君の活躍はバッチリ見ていたよ」

 いつも通りのつかみ所のない笑顔で神無月はこちらを向いた。


「さっきここから出ていったのって霜月さんだよな? ……泣いてた。一体何があったんだよ」


「……お、見なよ。長月君が下級生らしき子に捕まって一緒に踊っているよ。意外とすみにおけないね~」

「露骨に話をそらしやがったな……」


 窓から外を眺めたまま、神無月は脈絡もなく話を始めた。

「人を励ますと励ました方も元気をもらえるって話をネットか何かで読んだことがあるんだけどさ」

「唐突だな。何だよ急に」

「僕は君を焚き付けることで、自分を焚き付けようとしていたのかもしれない」

「……」

「……学校祭での君の活躍を見て、自分も何だかんだいって上手くやれるんじゃないかという気がしてきたんだ」


 僕が一体いつ活躍したのか、という疑問は脇に置いておくとして、こいつは何を言おうとしているのだろう?


「実はね、卒業したら、留学しようと思っているんだ」

「留学!?」

「洋菓子作りの修行のためにね」

「お前らしいといえばらしいというか……。余程好きなんだな」

「どうだろう? とりあえず日本の外に出てみたくて、一番他人にも自分にも説明をつけやすい理由が洋菓子作りだったってだけなのかもしれない」

「それじゃ只の我儘なイタい奴じゃないか」

「かもね。その代わりってわけじゃないけど、留学の費用は親の力は借りないつもり。そのためにこれまで大分働いて稼いできたよ」

「折角ガッツリ稼いでいそうな親がいるのに、ある意味贅沢な奴だな。それで倒れてりゃ世話ないぞ」

「『一人でできるもん』って主張したいお年頃なのさ」

 思わず苦笑い。こいつはこいつで愛すべき馬鹿なのかもしれない。


「……で、そのことを柊に伝えたんだ」

「留学するってことをか。やっとこさ話が戻ってきたな」

「……で、しばらく会えなくなるから、別れようって言った」


 ……はあ!?


「だから、僕の後を追いかけて生徒会長に立候補するつもりなら、やめておきなって言った」


 ……絶句。頬に浮かぶ紅葉模様は、そのせいか。


「お前さ」

「何だい?」

「自分勝手ってよく言われるだろ?」

「言われてみると、そんな気もするね」


 そう言って、神無月は自嘲気味に笑った。


 打ち上げられた花火の光がその顔を映す。天然で演出過剰なやつ……。


「……風流だねえ。た~まや~」

「秋に花火って、微妙に季節外れな気がするな……」



 花火が終わると共に、最後の学校祭も終わる。

 神無月が口にした『卒業』という言葉が、僕の頭の中でいつまでも繰り返されていた。


(次章『霜月』に続く)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


長くなってしまいましたが、十月の話はここで終わり。

次からは十一月になります。

どうにかリアル暦に追い越されないようにアップしていきたいものです。

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