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八月のバレンタイン  作者: koyak
「葉月」
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01.貴女は南半球の人ですか?

 受験とか将来とか、ちゃんと考えなきゃいけない時期になればなるほど余計に他のことが気になったりすることがあります。例えば身近な異性のこととか?


 ということでジャンルを恋愛に設定してはおりますが、そこまでガチな色恋話にはならない、かもしれません。

 軽い軽いお話ですが、どうかお付き合いいただけたらと思います。


 とある少年が思いっきり季節外れのブツを手渡されるところから、物語は始まります。


※女の子が好きな女の子が出てきますが、それがメインでもなければディープなものにもならない予定なので、あえて「ガールズラブ」タグは付けずに投稿しています。

「こ、これ、受け取って下さい!!」


 校舎の端にある人気のない階段の踊り場。

 目の前の顔を真っ赤にした少女が差し出すのは手の平サイズよりは少し大きめな一個の箱。

 その箱は彼女の放つ雰囲気によくあった可愛らしいラッピングに包まれており、微かに甘くて苦い匂いがした。

 何だか、バレンタインぽい。と思った。

 この箱からは、一年に一度、世の男どもを勝ち組と負け組に容赦なく斬り分けてくれる、あの残酷なイベントの匂いがする。それも義理なんて舐めたもんじゃない。ド本命の匂いだ。


 「ぽい」と思ったのには理由がある。

今日は二月十四日などではない。八月なのだ。夏真っ盛り。貴女は南半球の人ですか?

いや、南半球でも時期は一緒か。

 などと心の中でツッコミを入れることによって少しでも冷静になろうと試みる。しかし駄目だった。

 身体が火照る。特に頬が熱い。目の前がチカチカして頭の中が真っ白だ。運動したわけでもないのに呼吸がどんどん早くなっていく。自分の心臓がどくんどくんって脈打つ音まで聞こえてくる気がする。

 気がつくと僕は、人の限界に挑戦する勢いで背筋を伸ばし、彼女からそれを受け取ろうとしていた。



 暦は八月。

 市内の気温が観測開始以来の最高を記録した日。


 ちょっと季節外れだけど、僕は母親や親戚以外の女性から生まれて初めてのチョコを、



「そして葉月先輩に渡して下さい!!」


 もらえなかった。



「……は?」

「だ、だから! このチョコを! 貴方の隣の席の! 葉月先輩に! 渡して下さいって、言ってるんです!!」

「……」

 そのフェイントはどうかと思う。

 狙ってやっているのだとしたら、この子は悪魔だ。いや、狙っていなくても悪魔だ。

 一周してどうにか冷静さを取り戻すことに成功した僕は、心の中で血の涙を流しつつ二つほど疑問に思ったことについて、彼女に尋ねてみた。

「つーか、何で八月にチョコ?」

「そ、それは! 恥ずかしくて渡そうかどうか迷っているうちに時間が勝手に過ぎちゃったんです・・・・・・」

 諦めてもう半年待てよ。いや、その前に製造年月日は半年前かよ。これ、人間が食べても大丈夫なのか?

 喉元まで這い出てきたいくつもの言葉をグッとこらえる。そう、これは大したことじゃない。問題はもう一つの方だ。


 僕が通っている高校では、教室内の座席は必ず列を男女交互に並べることになっている。つまり、僕の隣の席、彼女が「葉月先輩」と呼ぶ人物は、何というか、その、女子なのだ。

 最近では女の子同士でチョコを渡し合う「友チョコ」なるものが流行ったりしているらしいけれど、この子の様子は明らかにそれとは違う。

 本人を前にしているわけでもないのに未だに紅く染まり続けている頬。少し潤んだ瞳。堅く結ばれた口元。

 彼女いない歴=年齢な僕でも想像がつく。この表情は、きっと。


 ツッこみたいことは山ほどある。

 けれど、気を抜くとそんなことはどうでもよくなるくらいに、その必死な様子の彼女は、綺麗だった。


 容姿が優れているとか、僕の好みのタイプだからそう思うとか、そんなんじゃない。彼女そのものを、綺麗だと思った。


「わかったよ。必ず、渡す」


 僕は彼女の想いが詰まったその箱を受け取った。受け取って、しまった。


 暦は八月。

 市内の気温が観測開始以来の最高を記録した日。


 僕の"喜劇"は始まった。


(続く)

初めて投稿時の「種別」欄で「連載小説」を選びました(汗)


3話×6カ月=全18話くらいになる……予定です。


自己満足でしかないかもしれませんが、完結目指して頑張ります。


次話もどうぞ宜しくお願い致します。



(2011/11/28追記)

……などと1話目投稿時は書いていましたが、現在既に16話。多分、30話くらいまでいくと思います。ご容赦下さい。。。


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