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デート

「おーい、戻って来い! ミーナちゃん、授業が終わったぞ」

「へぇ?」

再び麻美に現実に引き戻されてしまった。

思い出に浸って居たかったのに。

「もう、何で引き戻すかなぁ」

「ひ、酷い言われかただなぁ、せっかく現実に引き戻してあげたのに」

いつの間にか午後の授業も滞りなく終わってしまったみたい。

そこで授業のノートを全く取っていない事に気付いた。

「麻美様、お願いが」

「ほほ、月の女神が私なんかにお願いとは?」

「あの、その言い方すごく嫌なんですけど」

「誰が言い始めたか月の女神。でもぴったりじゃない。不健康ではない白い肌に軽くウエーブが掛かった綺麗な日本人離れした亜麻色の髪の毛。スレンダーだけどきちんと出ている所は出ていてクールな瞳に可愛らしいピンクの唇。女の私から見ても非の打ち所がないもん」

「麻美は言い過ぎだよ、褒めても何にも出ないんだから。お願いだからノートを写させてね」

「はいはい、判りました。貸しだからね」

「判ってる」

そして腕時計をみて約束の時間がとうに過ぎているのに気付いた。

「うわぁ、どうしよう」

「そういえば今日はパパさんとデートだったんじゃ。ほら急いで私も一緒に行ってあげるから」

「うん」


麻美と一緒に校門に向うと黒っぽいスーツ姿のパパが待ちくたびれているのが見え、少しだけ鼓動が早くなり頬が赤くなるのを感じる。

そんな私の顔を見て麻美は嬉しそうにしている、癪に障るけど親友である麻美の前ではありのままの私で居られるのも事実だった。

「パパ、ゴメンなさい」

「ミーナ、遅いぞ。不審人物に間違われそうになったじゃないか」

眉間に皺を寄せてはいるけれど決してその瞳に怒りの感情なんて微塵にも感じられなかった。

すると直ぐに麻美がパパに声をかけた。

「パパさん、お久しぶりです」

「おっ、麻美ちゃんか相変わらず可愛くて元気だな。いつもありがとうね、ミーナの事」

「嫌だな、ミーナとは親友だもん当たり前じゃないですか」

「ありがとうね。そうだ帰り際に会社の女の子にお菓子を貰ったんだ。こんな物で悪いけど麻美ちゃんにあげるよ」

「えへへ、嬉しい! うわぁ、本当に良いんですか? ペーパームーンのロールケーキだ」

「美味しいよねここのロールケーキは」

「はい! 遠慮なくいただきます。ミーナまた明日ね!」

麻美はパパからケーキを受け取ると挨拶もそこそこで嬉しそうに走るように帰ってしまった。


親友と美味しいスイーツを天秤に掛けたらどちらが傾くのだろう。

そんな事を真面目に考えてしまう。

それにしてもパパは私と待ち合わせする時はいつも会社の女の子に貰ったってお菓子やケーキを持っているのが不思議だった。

「ねぇ、パパ。聞いて言い? どうしていつもお菓子を持っているの?」

「ん? どうしてかな。会社の女の子に何処のスイーツが美味しいかなって聞いたら買って来てくれるんだけど」

「あのね、パパ。それってパパの気を引こうとしているんじゃないの?」

「ん~僕が甘い物好きだって知っているからじゃないのかな。ポタジェのキャロットチョコフランに枝豆のチーズケーキ、千疋屋は外せないかな」

「はいはい、パパにスイーツを語らせたらいくら時間が余ってても足りないから」

「うわぁ、余るって酷いなミーナは。スイーツは人間関係の潤滑油みたいなモノなんだよ、特に女子従業員が多いうちの会社みたいな所はね。派遣やら準社員やら正社員で大変なんだから」

「へぇ、そんな女子従業員から人気なんだパパは」

「ん~どうだろ、僕にはミーナが居るからね」

相変わらずかわすのが上手いと言うかどう言う意味に取ったら良いんだろう。

私が居るからって…… 私が居るから彼女も作れないのかな?

私が居るから彼女が必要ないとか?

まさかそんな事はないよね、だって親子だもんね。

パパと月に1~2回は金曜日の放課後にデートするの。

デートって言ってもウィンドウショッピングをして晩御飯を外で食べるだけなんだけど、麻美に言わせると男女がそう言うことをするのをデートって言うんだって。


学校の最寄り駅から二つ目のパパの会社の近くの駅で降りていつもの様にショッピングをするんだ。

今日は何を強請っちゃおうかな。

「ミーナ、今日は何が食べたいんだ?」

「う~んとね、たぬ……」

「たんたん、たぬきのき!」

「ストップ!」

慌ててパパの口に手を当てて塞ぐ、こうでもしないとパパは公衆の面前でとんでもない言葉を連呼し始めちゃうから。

「もう、恥ずいよ。どうしてあそこは駄目なの?」

「居酒屋はまだミーナには早い。それにあそこは営業フロアーの溜まり場になっているから気が休まらないから嫌なだけだよ」

「ああ、私に聞かれたくないあんな事やこんな事があるんでしょ」

「パパも一応、男だからね」

「ずるい、大人って感じで。私はまだ子どもだもんね」

「そうやって拗ねるミーナも可愛いな」

嬉しそうな瞳で私をいつも見守ってくれるけれど決してパパは私を子ども扱いはしない。

そりゃ小学生以前は子ども扱いだったけどさ。

中学に入った頃からちゃんと1人の人間として対等に向き合ってくれる。

それが嬉しくてついパパに子どもの様に甘えてしまうけど、それは仕方がない事なんだよね親子なんだし。

「今日は何が良いかな、この間はイタリアンだったし」

「天ぷらでも食べに行くか?」

「天ぷら?」

「そう、カウンターの目の前で揚げてくれた熱々を食べるんだよ」

「行ってみたい」

「よし、了承した」

パパの会社がある最寄り駅はかなり大きな駅で駅の周りは良くも悪くも栄えている。

色々なお店もあるし色々な人が行きかっているけど不思議な事にパパと居ると怖くなかった。

不思議と言えば色々なお店の人がパパの顔を見ると声を掛けてくる事が多い。

それはパパの会社関係かなとも思ったけれどそうでもないみたい、中には見るからに如何わしいお店もあるんだもん。

パパに一度だけ聞いたことがあるんだけど上手くかわされちゃった色々と付き合いがあるんだよって。

大人の付き合いって事なのかなって思ってたら古くからの付き合いだって教えてくれた。

でも、パパはあまり私に昔の事を聞いても答えてくれないし。

答えてくれてもせいぜいママと出会った頃の話止まりだった。

パパの子どもの頃の事とか私と同い年だった頃の事が知りたいんだけどな。


パパが連れて行ってくれたお店はパパの会社と反対側の駅向こうだった。

いかにも老舗って感じで中学生がおいそれと行ける様なお店じゃないのが私にも良く判った。

「そんなに緊張しなくても平気だよ。まぁ、創業100年のお店だからね」

「ひ、百年? もう、そんな事を言われたら余計に緊張しちゃうよ。パパの馬鹿!」

「ふふふ、ミーナは可愛いな」

店内に入ると結構アットホームなお店で安心しちゃった。

それでも店内には会社の接待みたいなスーツ姿の人が多かったの。

「いらっしゃい、って優坊じゃないか。久しぶりだな」

「お久しぶりです。大将まだ生きてたんですね」 

「あのな、優坊の孫を見るまで死んでも死にきれねえよ」

「それじゃ、今日は娘を」

「はぁ? その可愛らしいお嬢ちゃんってまさか……」

「僕と美雪の娘ですよ」

「ほぉ、そうかそうか。しかし美雪ちゃんにそっくりだな」

カウンターに案内されると直ぐにお店の大将にそんな事を言われてしまう。

このお店もパパの馴染みのお店って言うか古くからの知り合いみたい。

ママの事も知っているみたいだけど何処でママの事を訊ねても大抵同じ答えが返ってくる。

『お父さん(パパ)に聞くのが一番だよ』って、パパに聞いたって教えてもらった事がないんだよね。

お店の大将は板前さんと同じ格好をしていて小柄だけどがっしりした体格で真っ黒に日焼けしてるおじさんって感じの人だった。

挨拶をしてカウンターに座ると今日もパパはウーロン茶を注文してくれる。

私は今まで何度もパパと外で食事をした事があるけれど、食事の時にパパがビールやお酒を頼んだ所を見た事がない。

「優坊は相変わらずだな」

「えっ、相変わらず?」

「あはは、嬢ちゃんは知らないんだね。優坊は食材の味が判らなくなるからって滅多な事がない限り食事の時は酒を飲まないんだよ」

「そうなんだ、パパは自分の事あんまり話してくれないんだもん」

「そりゃ優坊は照れ屋だかんな」

時々こうして知らないお店に来るのが凄く楽しいの、だってパパの知らない事を教えてもらえる事があるから。

パパはこの大きな街に結構前から居たんだって聞いたことがある、だから古い馴染みの店が多いんだって。

カウンターの向こうでは大将が私達に付きっ切りで天ぷらをあげてくれる。

私はお喋りをしながら好きな物を揚げてもらって熱々をお塩で頂く。

パパは魚や野菜を中心にお任せで揚げてもらっているの。

揚げたてで新鮮な食材は凄く美味しくていくらでもお腹に入るんだよね。

それにお刺身のネタも新鮮で……

「ん~と、鰤に帆立に甘エビが良いかな」

「へぇ~感心するね。美味い物を知り尽くしてるって言うか、良い酒飲みになれるよ」

「ええ、酒飲みは嫌だな。それにお酒の味はまだ良く判らないし」

「そうだよね、まだ未成年だもんな」

「うん、まだ14歳の神楽坂美奈です」

「神楽坂美奈ちゃんか、あれ?」

大将が何かを言おうとした瞬間、コツコツと木のカウンターを叩く様な音がすると大将の雰囲気が一瞬だけ変った気がしたの。

「どうしたの?」

「あれ? 何だったかな。駄目だな、この歳になると物忘れが激しくて。優坊、何だった」

「あのな、耄碌する歳じゃないだろ。大将の場合はアル中ハイマーか?」

「あんな、優坊。俺はそんなに飲兵衛じゃないぞ」

「じゃ、女将さんに聞いてみるか」

「いや、それだけは勘弁してくれよ。この間の特定健診で散々だったんだから」

また、何かを誤魔化された様な気がするけど今日もパパの知らないことを聞けたから良い気がするし。

美味しい天ぷらとお刺身も頂けたので満足してしまう。



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