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授業参観

金曜日の授業参観の日がやってきた。

でもパパは来ない、小夜ちゃんが言わないって約束してくれたから。

でも直ぐにそれは後悔に変った。

「美奈ちゃん、今日はママが来てくれるの?」

「ううん、ママは居ないもん」

「それじゃ、パパが来るの?」

「パパはお仕事だもん」

「ええ、誰も来ないの?」

周りのクラスメイト達は授業が始まる前に訪れ始めたパパやママの姿を確認して、ザワザワと教室が騒がしくなってくる。

クラスメイトのパパやママは凄くオシャレな格好をしている。

そしてあれが誰のママだのパパだってヒソヒソ話をしているのが凄く羨ましかった。

本当は私も格好良いパパを友達に自慢したかったから。

でも、パパは来ない。

私がプリントを渡さなかったから。

小夜ちゃんが内緒にしてくれると言った時に、本当はパパに言って欲しいのにそう言わなかったから。


授業を知らせるチャイムがなると担任の花園先生がいつものジャージ姿とは違うワンピースを着て教室に現れて授業が始まってしまう。

私は無性に悲しくなって机に突っ伏して涙を堪えた。

「はい、今日はお父さんやお母さんが見に来ているからって緊張しないで普段どおりに授業をしましょうね」

優しい花園先生の声が教室に響き渡る。

すると教室の後ろ側のドアが開く音がして皆の視線がドアに集まったけれど、自分には関係ない事だと思って見もしなかった。

「超格好良い!」

「うわぁ、素敵」

そんな声がクラスメイトから上がる。

「は、はいはい、静かにして」

「なんだよ、先生の方が緊張してらぁ」

男子生徒の声で教室がドッと沸き上がると花園先生の視線がチラチラと後ろのドアの方に行き何となく顔が赤くなっている。

そんな先生がちょこっと気になったけど私はそこにパパが居ないと思うと後ろを向く事が出来なかった。

パパに一言だけ言えばこんな思いはしなくても良いのに。

「先生、授業を始めてください」

「は、はい」

クラス委員長に言われて先生が授業を始める、そしてクラスの中で数人が作文の発表をしなくてはいけない。

今日だけは当たりません様にと神様にお願いをしていた。

「それでは今日は家族の仕事について作文を書いてきてもらいました。それを発表してもらいたいと思います。それじゃ神楽坂さん」

「…………」

この時ほど子供心に神様を恨んだ事はなかった、何で私なんだろうって。

先生が居る教壇まで行って作文を受け取り、自分の席に戻ろうと振り返った時に心臓が止まるかと思った。

だって教室の隅にはいつもの眼鏡をかけてビシっとグレーのスーツを着て、髪の毛を綺麗に後ろに流して仕事中だと思ったパパがそこにいたから。

パパはいつもに増して優しい瞳で私を見守ってくれていたの。

それから後の事は頭の中が真っ白になって良く覚えていない。

私のママは私が産まれてしばらくして死んでしまった事、パパがママの代わりをしてくれて小さかった私を育ててくれた事、そしてパパはお家ではゴロゴロしている事、でも仕事中は英語を喋って凄く格好良い事なんかを作文に書いた事を読んだ気がするんだけど……


授業の終わりを告げるチャイムの音が聞こえてきて、ハッとして教室の後ろを見るとパパが教室から出て行く所だった。

そんなパパの後姿を見て慌てて教室を飛び出した。

「パパ!」

「ん?」

私が息を切らしながら声をかけるとパパが廊下で立ち止まって振り向いてしゃがんでくれた。

「パパ、ゴメンなさい」

「ん?」

「黙っててゴメンなさい」

「ん、どうして言ってくれないのかったのかな?」

「だってお仕事が……」

パパが私の顔を真っ直ぐに見ている。私はパパが怒っているだろうと思って怖くてパパの顔をまともに見れなかった。

「ミーナ? もしかしてパパが怒っているって思っているのかな?」

「う、うん」

それは蚊が鳴くような声だった。

「パパは嬉しかったけどな」

「えっ?」

「ミーナはパパの事を思ったから言えなかったんでしょ。パパこそゴメンね、ミーナにそんな思いをさせてしまっていたんだね」

何かをいわなくちゃと思ったけど私の声は声にならず涙声になってしまっていた。

するとパパが優しく抱きしめてくれる。

「でも、ちゃんとミーナの口から聞きたかったな。パパにはミーナが全てなのだから、パパはミーナが大好きだからね」

「うん!」

小学校の廊下に響き渡るくらい私はパパに抱きついて号泣していた。

そんな事があってから私はパパには何でも話したし、して欲しい事はちゃんと言葉にして伝えてきた。

それは中学3年になっても変らない。



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