西洋風異世界に転生しましたが、人間蠱毒実験してみます
なろうだと主人公が恋愛しない異世界系はジャンル選びで迷います。
「……見事に異世界転生したし、見事にテンプレなお馬鹿さん達が学園に集まったわね」
ヨーク王国の王女、カリーナ・ヨークは学園に通い始めた時に前世の記憶を思い出した。
カリーナの前世は日本の平凡なOLであった。カリーナは前世でライトノベルやWeb小説を読み漁っていたのだ。
学園に入学して大分慣れた今、カリーナは今起こっていることを見てため息をついた。
「ねえ、ベネット様。さっきベネット様の婚約者のステファニー様に睨まれたのです。とっても怖かったぁ」
「ブリアナ、可哀想に。俺が守ってやるから。それにしてもステファニー、心の醜い奴だな。あんな奴が俺の婚約者だなんて反吐が出る。あんな奴とは婚約破棄してブリアナを未来の王妃にしようか」
「まあ、ベネット様、嬉しい」
現在カリーナが見ているのは、兄である王太子ベネット・ヨークとピンク髪の男爵令嬢ブリアナ・リグリー。
ブリアナはベネットにしなだれかかっている。
(はい、テンプレその一。王太子妃の座を狙うピンク髪男爵令嬢と婚約者がいながら浮気する馬鹿王太子。あれが私の兄だなんて終わっているわね。国王陛下と王妃殿下もあの馬鹿をどうしようか頭を抱えているわ)
カリーナは呆れながらため息をついた。
(ステファニー・エリントン公爵令嬢は素晴らしいお方なのに。ステファニー嬢をお義姉様と呼びたかったけど、それは無理そうね。きっとステファニー嬢は隣国の王太子とかに見初められるのかしら)
ベネットの婚約者であるステファニーをカリーナは気に入っていた。しかし、ベネットが愚か過ぎて挙句の果てにブリアナと浮気しているので、ステファニーがベネットと結婚することはないだろうと思うカリーナだった。
カリーナはまた別の場所に目を向ける。
「ねえ、ジョアキム様、今度のパーティーはシンシアお姉様じゃなくて私をエスコートしてちょうだい」
「ああ、もちろんだとも。地味で可愛げのないシンシアよりも、可愛いジュリアをエスコートするに決まっているだろう」
「嬉しいわ、ジョアキム様。でもお姉様は可哀想。婚約者であるはずのジョアキム様からそんな風に言われて」
「ジュリアのような愛らしさのないシンシアが悪い。……ジュリアもシンシアも、ワーグマン侯爵令嬢なのだから、俺の婚約者をジュリアに替えても問題ないんじゃないか?」
「ええ、私もそう思うわ」
カリーナが見ているのは、公爵令息ジョアキム・トムリンズと侯爵令嬢ジュリア・ワーグマン。甘ったるい声を出すジュリアに、ジュリアの肩を抱くジョアキムである。
(はい、テンプレその二。姉から何でも奪う妹と、それに引っかかる姉の婚約者。私、知っているのよ。ジュリアは姉であるシンシア嬢からドレスを奪っていたし、学園の課題もやらせているのを)
相変わらずジュリアとジョアキムはイチャイチャしている。
(これはあれね。シンシア嬢がスパダリに見初められてあの二人はざまぁ展開ね。隣国王太子はステファニー様とくっつくとして、この国でシンシア嬢に相応しいスパダリは誰かしら?)
カリーナはジョアキムとジュリアの今後の展開を予想していた。
そして、また別の場所に目を向ける。
「やっほー、エレノアちゃん。あ、もしかしてアントンとランチデートだった? ごめんねぇ。ほら、私ってサバサバしてるからさ、そういう気遣い苦手なんだ」
「エレノア、アビゲイルは男友達みたいなもんだから気にしないでくれよ」
「男友達……ですか……」
騎士科の子爵令嬢アビゲイル・ラッシュと、同じく騎士科の伯爵令息アントン・シーガー。そして、アントンの婚約者である淑女科の伯爵令嬢エレノア・フローリーだ。
あろうことか、子爵令嬢アビゲイルは格上である伯爵令嬢エレノアにタメ口だ。
(はい、テンプレその三。騎士科の自称サバサバ令嬢とそれに引っかかる馬鹿令息。エレノア嬢は飛んだ災難だわ)
カリーナはエレノアに同情的な視線を向けた。
(サバサバしてるとか言いつつ、アビゲイルみたいなタイプって誰よりもネチネチしてるのよね。Web小説とかだけじゃなくて、前世働いていた会社でも見たことあるわ。自サバ系滅ぶべしよ)
前世の会社のことまで思い出して、カリーナはため息をついた。
前世で読んだライトノベルやWeb小説のテンプレ展開を観察していたら、いつの間にか昼休みの終了を告げる鐘が鳴っていた。
(本当に、テンプレみたいなお馬鹿さんがこの学園には多いこと)
そう思いながら、カリーナは授業へ向かうのであった。
放課後の鐘が鳴ると、学園は開放的な空気が流れる。
図書室で勉学に励む者、研究棟で興味のある研究に没頭する者など、学園の生徒達は放課後思い思いの過ごし方をしていた。
もちろん、婚約者と街へ買い物に行く者もいる。学園入り口の馬車が止まっている場所では、婚約者と待ち合わせをする者達で賑わっている。
カリーナはある一組の男女に目を向けた。
「まあ、ロニー様、またですの? 街へ行く約束をしたではありませんか」
「悪い、フィオナ。リンジーが体調悪いみたいで、俺が送ってやらないと」
「ペイス子爵家の方を待つか、医務室で対応したらよろしいのでは? なにもわざわざロニー様が対応することではないでしょう」
「フィオナ、君は冷たいんだな。ああ、君は体が丈夫だからリンジーの苦しみなんて分からないんだ」
侯爵令息ロニー・ファレルとその婚約者である伯爵令嬢フィオナ・マレット。そして、ファレル侯爵家の馬車に乗り込み二人を見ているのはロニーの幼馴染である子爵令嬢リンジー・ペイス。
(はい、テンプレその四。病弱な幼馴染優先の婚約者。でも、その幼馴染のリンジーは学園に通ってるのだから、病弱設定は無理があるのではないかしら?)
カリーナは三人の様子を観察してそう思った。
(それにしても、この学園はどうしてこんなにも前世で読んだ物語みたいなテンプレお馬鹿さん達が集まったのかしら?)
カリーナは腕を組み、馬車が止まる場所にある待合室のベンチに座り考え込む。
(というか、こんなにもお馬鹿さん達が集まっているとなると……)
カリーナはあることを思いついた。
(前世でもSNSで見たことがあるわ。パワハラする人達を一つの部署に集めたり、モラハラにはモラハラをぶつけてみたり。蠱毒は中華風世界観だけど、この学園にこんなにもテンプレお馬鹿さんがいるのだもの。人間蠱毒みたいな実験、今なら出来るかもしれないわ。国王陛下にお願いして、テンプレお馬鹿さん達を集めた特別クラスを学園に作ってもらいましょう)
カリーナは早速王城へ戻り、父である国王に頼んでみるのであった。
権力の濫用云々で学園側からは却下されると思いきや、カリーナの特別クラス案はすぐに通った。そして早速特別クラスが作られ、王太子ベネット、ピンク髪男爵令嬢ブリアナ、何でも奪う妹ジュリア、婚約者を姉から妹のジュリアに変えようとするジョアキム、自称サバサバ系騎士科の子爵令嬢アビゲイル、アビゲイルを「男友達みたいなものだ」と言い張るアントン、病弱な幼馴染を優先する侯爵令息ロニー、病弱な幼馴染の子爵令嬢リンジーの八人が所属することになったのだ。
(さあ、人間蠱毒実験開始よ。どのお馬鹿さんが最後まで残るかしら?)
カリーナはワクワクしながら特別クラスを観察することにした。
「ねえ、リンジーちゃんって病弱なんだよね? だったら、学園に通わず家で勉強したらどう?」
「え? そんな、アビゲイル様、どうしてそんなこと言うのです?」
「あ、ごめんね、傷付いちゃった? ほら、私ってサバサバしてるからさ、思ったことはっきり言っちゃうんだよねー。病弱なら学園に通わなければ良いじゃんって」
早速リンジーとアビゲイルが対立した。
(おお、病弱系幼馴染vs自サバ令嬢)
カリーナは密かに特別クラスを観察してワクワクしている。
「アビゲイル様の言う通りだと思うわ。リンジー様、体が弱くて辛いなら帰ったらどうかしら? ねえ、ベネット様もそう思うでしょう? 私、リンジー様が倒れてしまわないか心配なの」
「ブリアナ、君は本当に優しい心の持ち主だな。リンジー嬢、優しいブリアナがこう言っている。屋敷に戻ってはどうだ? その様子だと社交界も不安だな」
「そんな……」
ブリアナとベネットがアビゲイルに加勢したことで、リンジーは一気に不利になった。
そして、リンジーは特別クラスから出て行き、ペイス子爵家から出てこなくなってしまった。
(最初の脱落者はリンジーね。私の兄ベネットは腐っても王太子。王太子の言葉の影響力は割とあって、リンジーはもう社交界に出られないわね)
カリーナは相変わらず特別クラスの観察を続けていた。
特別クラスでは、また脱落者出る。
リンジーを優先していたロニーと、アビゲイルを「男友達みたいなものだ」と言い張るアントンが今回問題を起こしたのだ。
リンジーが去った後、アビゲイルはロニーを自分の取り巻きにしようとした。しかし、それを面白く思わないアントンがロニーを殴ったのだ。そこから、アントンとロニーの殴り合いが始まった。アビゲイルは「ちょっと、私の為に喧嘩しないの」とどこか嬉しそうだった。
しかし、学園での暴力行為は校則で禁止されている。
派手に暴れたアントンとロニーは退学となり、社交界からも締め出しが確定したのである。
そして、アビゲイルも脱落した。
ブリアナに冤罪で陥れられたからである。
「ちょっと、私ブリアナちゃんのアクセサリーを盗むとかネチネチしたことやらないし」
「でも、アビゲイル様の席から出てきましたのよ」
「そんなのブリアナちゃんの自作自演とかだって考えられるじゃん」
「おい、お前はブリアナを疑うのか!?」
ベネットがブリアナの味方をした時、ブリアナはほくそ笑んだ。王太子であるベネットがブリアナの味方をしたことで、アビゲイル追放の流れになったのだ。
(もう脱落者が四人も出たのね。兄であるベネットを味方にしているブリアナが優勢といったところかしら)
そう思いながら、カリーナはチラリとジュリアを見る。
ジュリアはジョアキムとベネットを交互に見て何かを考えているようだ。
(何でも奪う系の妹はどう出るかしら? ジョアキムは目立った動きをしていないで空気みたいね。さて、この人間蠱毒実験はどんな結果になるのかしら?)
カリーナはワクワクしながら観察を続けた。
意外にも次に脱落したのはブリアナだった。ジュリアが生家で姉から何でも奪っていく手腕で、見事にベネットの心も手に入れたのだ。そしてブリアナがアビゲイルを陥れたように、ジュリアも同じ手段でブリアナに冤罪を被せた。
「ベネット様、ブリアナ様が……。いくら私が嫌いだからって酷いと思いませんか? 私、とても悲しいです」
男爵令嬢のブリアナと侯爵令嬢のジュリア。当然ジュリアの方が所作は洗練されていて、ブリアナのように愛嬌がある。そうなれば、ベネットがジュリアに乗り換えるのは時間の問題であった。
ジュリアがベネットに泣きつき、それを信じたベネットはブリアナを断罪したのである。
そして、ベネット、ジュリア、ジョアキムが残ったところでベネットはジョアキムが邪魔に思い、ジュリアも王太子であるベネットを選んだ方がより利益が得られると判断し、二人で協力してジョアキムを陥れた。
こうして、特別クラスにはジュリアとベネットが残ったのである。
(人間蠱毒実験、そろそろ終わりにしようかしら。国王陛下と王妃殿下も動き出す頃でしょうし)
特別クラスの様子を見届けたカリーナは、授業のある教室へ戻るのであった。
その後、特別クラスに残ったベネットは王族として不適格だと判断され、廃嫡、幽閉が決まった。ジュリアも淑女として不適格の烙印が押されて修道院行きが確定したのである。
(テンプレお馬鹿さん達がいなくなって学園はようやく平和で静かになったわ)
兄の廃嫡に伴いカリーナは王太女となった。
(これから忙しいけれど、楽しいものは見させてもらったから満足よ。人間蠱毒実験ってあんな風になるのね)
特別クラスでの結果を思い出し、カリーナは口角を上げるのであった。
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