ベランダで風鈴が鳴る
ふふっ。あの風鈴の音、涼しげでしょう? もう十二月だから涼しいと言うより寒いですかね。
ずっと前にあの男性が買ってきたんですよ。「なかなか来れないから」って。……「自分がいないときはこの風鈴の音に僕を感じて欲しい」ってことだったんでしょうね。
奥さんも子供もいて、思い上がってますよね。そのときは喜んだ私もどうかと思いますけど。
たま一にこの部屋に来て、抱いて帰っていくだけの男ですよ? 最低ですよね。
でもですね。好きだったんですよ、私。もうね、無理心中を考えたくらいには。バカですよねえ。……今から五年くらい前だから私もまだ三十なるかならないか。普通に独身男を捕まえて結婚でもしとけばよかったのに。
面白いのはですね、あの男の家族に街でバッタリ会ったときに簡単に気が変わっちゃったんですよ。
あの男は私のことを「仕事でお世話になってて」とか紹介しました。すごく綺麗な奥さんと奥さんそっくりの綺麗な顔立ちの男の子に。……男の子は小学校高学年くらいでしたね。
あんまりにも幸せそうで、「ああ……、この夫婦にちょっかいだしちゃいけないな」って思いました。さっきも言いましたけど気が変わったんです。
それからはなんとなく連絡とかも減っていって、「このまま自然消滅かな」って思ってたんです。「それでも構わないな」って。
でもある夜、そろそろ寝ようとしてたら風もないのに風鈴がチリンと一回だけ鳴りました。その音色に何故かもう一回逢いたくなったんです。どうしても忘れられなかったんですよね。
ふふふっ。ええ、ここあたりからの話はご存知なんでしょう? だからここに来たんですよね。それとも最初からご存知でした? 再確認の為に私に語らせた……。だとしたら意地悪ですね。
遥貴くん、今もよくこの部屋に来ますよ。
あの小学生だった男の子が、今は高校二年生ですから子供の成長は恐ろしいですよね。
風鈴の音を聞いた夜、もう一回逢いたくなった、忘れられなかったって言ったじゃないですか。本当に綺麗な顔立ちの男の子でしたよ。今もいい顔してるけど。
全てを私が教えました。
仕込んだと言ってもいいかも知れません。
ふふふっ。正気の沙汰じゃないですね。
――今、私のお腹にいる子供。
――遥貴くんがお父さん。
――あの男がおじいちゃん。
産みますよ。それにこの子は渡しません。裁判でもなんでも好きにしてくれって伝えといて下さい。まあ、あなたみたいな弁護士の先生を寄越したってことはそのつもりなんでしょうね。
だから言ったじゃないですか。「気が変わった。この夫婦にちょっかいだしちゃいけないな」って。
「この親子にちょっかいだしちゃいけないな」とは言ってませんよ。
ふふふっ。
――――
チリン。チリン。チリン。
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