特対判例:特対庁職員による足払い制圧事件
「特対庁職員による足払い制圧事件」第一審判決文(要旨)
〇〇地方裁判所 刑事第1部
20××年×月×日 判決
20××年 (わ)第XXX号 殺人等被告事件
被告人:〇〇〇〇(特異感情能力対策庁・執行士長)
【主文】
被告人を無罪とする。
【事案の概要】
被告人は特異感情能力対策庁(以下、特対庁)所属の執行士長であり、20××年×月×日午後6時15分頃、駅構内で暴走状態にあった特異能力発現者A(以下「A」)に対し、緊急制圧の一環として足払いによる制止行動を行い、これによりAが転倒・破損し死亡した。
本件は、Aの妻により提訴されたもので、内容は被告が同行職員との連携なく一人で急行し、状況から鑑み明らかに必要のない攻撃を加えたとして殺意の存在を主張し、被告人に対して殺人罪および特対法違反を問うたものである。
【争点】
1.特対法における初期呼びかけ手続の履行義務違反の有無
2.ガラス化が明白である状況での「足払い」の必要性と過剰性
3.連携義務違反(法的制圧手続との関係)
4.被告人の主観的殺意または結果予見可能性の有無
【判示事項】
【第1:初期呼びかけ義務違反について】
本件において、被告人が到着した時点で、既にAは拳銃による左肩の射撃を受けつつも暴走状態にあり、周囲に危害を加えていた。
特対法及びその規範においては、「氏名・場所・時間等を通じた意思疎通の呼びかけ」が義務づけられているが、それは対象者に一定の応答能力が期待される場合に限定される。
本件では、Aが短時間に繰り返し通行人を攻撃し続けていた事実と、拳銃を構える警察官になおも向かっていた行為に鑑み、被告人が呼びかけよりも即時の制止を優先した判断には合理性がある。
したがって、呼びかけ手続の省略は、緊急制圧例外(特対法11条2項)に該当し、違法ではない。
【第2:足払いの合理性と過剰性】
制圧の一手段として足払いが行われたことは事実であるが、Aの両手および視認できる皮膚がガラス化により鋭利な凶器となっていたこと、および被告による一撃を硬化したAの背部に加えたにもかかわらず、なおも攻撃意志を示していたことからすれば、制圧が完了していたとはいえない。
被告人は、警察官を庇った体勢のまま、手を使えない状態で右足による制止を選択したという経緯があり、その手段が唯一残されたものであったことが明らかである。
さらに、対象は両腕のみならず、身体全体がガラス化しており、それにより粉砕した結果については、両腕以外は一見してガラス化していたとは判断できない上、硬度についても想定外の構造的脆弱性に起因する事故的要素が強く、直ちに死亡の結果を予見できたとはいえない。
【第3:連携違反と単独行動】
現場付近には他の職員が同時刻に到着していたことは争いがないが、当該駅構内は複数出入口が存在し、現場へのアクセスルートが限定されていたことが現地記録により明らかである。
被告人が職務指揮を逸脱して単独に暴走した証拠はなく、特対法10条ただし書きによれば、緊急時においては相互連携の原則に反しない合理的範囲での単独即応は容認される。よって本件も被告人が故意に連携義務を放棄したとは認められず、緊急事であることも勘案すれば適正な職務の範囲内であると認める。
【第4:殺意・結果予見性】
本件における被告人の行動は、当初から警察官および周囲の民間人を保護する意図に基づいており、殺意の存在を認めるには合理性に欠ける。
また、破損による即死のような「粉砕的死亡」が発生することは、当時の能力研究・薬剤評価からしても特異な階梯反応による突発的結果であり、予見可能性を肯定することは困難である。
【結論】
以上により、被告人の行為は特対法11条2項に基づく正当な緊急制圧行為に該当し、構成要件該当性を欠くとともに、違法性及び有責性も認められない。




