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活人剣(お登勢)

(けむ)吐きて全き朱夏に目が眩む 涙次〉



【ⅰ】


 上総の讀み通り、【魔】のプロパガンダに染まる者が、人間界にも現れた。「伊達剣先を國民の代表に!」と云ふ者らである。

 上総の社は叛・伊達剣先のキャンペーンを張つてゐたから、社員全てが生命の危険を冒してゐるも同然である。社を辞めたい、と云ふ聲が方々で上がつた。社の先輩に、「まこと正義を貫くのは大變だな、(まこと)くん」さう嫌味を云はれて、上総内心忸怩たるものがあつた。



【ⅱ】


 斯くなる上は、カンテラ一味に早いところ伊達剣先を始末して貰ふしかない。だが、カンテラは何故か愼重であつた。カンテラには或る思惑があつた。尾崎一蝶齋はこの期に及んで「耐えろ」と云ふ。一體何故なのか。幾ら活人剣の教へを遵守してゐるとは云へ、それでは怯懦の(そし)りは免れられまい。尾崎には考へがある筈だつた。剣先は人間ではない。血の通はぬロボットである。その人間性に期待したところで、だう云ふ返答があるかは、分かり切つてゐる。尾崎の考へが知りたい- カンテラはさう思ひ、剣先追討の手を遅らせてゐるのだつた。



【ⅲ】


 尾崎は云つた。「剣先が幾らロボットだと云つても、人間に似せて造られてゐる以上、何らかの人間に似た部分がある。丁度、アンドロイドであるカンさんに人間性が備はつてゐるやうに。然も、今の彼を叩いたところで、魔界のプロパガンダが撲滅出來る譯ではない」

「彼には確か、最愛の存在とも云へる妻がゐた筈だ。その線で彼を追求出來ぬものか」だが、その妻は今やゐない。そこをだうにかするのが活人剣の妙諦と云へやう。

 妻にそつくりのアンドロイドを造る- それが尾崎の案であつた。確かその肖像画が殘つてゐた、と云ふ。蘭画の繪師が描いたもので、冩實的な繪らしい。安保さんの手で、彼女を蘇らせるのだ。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈投票のあくる日罰の如くなる暑さの來たりむむむと云へる 平手みき〉



【ⅳ】


 安保さんは「俺にどれだけの事が出來るかは分からん。だがやつてみる価値はありさうだ」と云ふ。カンテラは安保さんに一任して、事の成り行きを見守つた。


 それから一箇月の月日が經つた。安保さんの釈迦力な努力で、妻(お登勢(とせ)と云ふ)に似せたアンドロイドは出來上がつた。彼女の姿を見せて、剣先に人間だつた頃を思ひ出させるのだ。

 カンテラはそれでも疑心暗鬼だつた。彼はロボットとしての剣先しか知らない。然し、お登勢を魔界に送り込む為に、涙坐に危険な任務を云ひ渡した。



【ⅴ】


 一目見て剣先は氣付いた。「お、お登勢...」一頻り彼は涙にくれた。これは、重大な進歩だと云へた。尾崎の目論見は、「当たつた」のだ!

「何処か遠くへ、二人で逃げやう。魔界を捨てゝ」正直なところ、彼はカリスマとしての自らのありやうに疑問を抱いてゐたのである。これには、魔界のメカニック集團が黙つてゐる筈がない。そこを、カンテラ・じろさんは突いた。「しええええええいつ!!」二人の獅子奮迅の働きで、メカニック集團は壊滅した...



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈だらだらと晝より酎を尿(しと)垂れる 涙次〉



【ⅵ】


 これは現代のお伽咄である。尾崎の活人剣が齎した- 中心となるカリスマがゐないのであれば、プロパガンダも何も、ない。上総は尾崎に非礼を詫び、そしてカンテラたちに、社に集まつたカネを渡した、と云ふ。先祖たち同様に尾崎家の活人剣が勝利した譯だ。これにて、カンテラ「剣先フィーヴァー」篇、一卷のお仕舞ひ。




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