プロローグ
戦国時代――。
天下分け目の合戦場を、赤備えの甲冑をまとった一人の武将が駆け抜けていた。
その名を、真田烈馬。
勇猛果敢、騎馬隊の先頭に立ち、敵陣を蹴散らすその姿は、友軍にとっては勝利の象徴、敵にとっては悪夢そのものだった。
「うおおおおおおっ! かかれいぃ!!」
鬨の声を上げ、槍を構え、烈馬は戦場の中央へと突撃する。
刀が飛び、矢が鳴り、槍がきらめき、馬のいななきが大地を震わせる。
「我が駆けるところ、敵なし……!」
だが――。
「くっ、後ろからだと!?」
敵の伏兵。視界の外から飛んだ矢が、烈馬の肩を撃ち抜く。
馬が悲鳴を上げると同時に、烈馬は振り返る暇もなく、槍の一突きを脇腹に食らい――
視界が、ぐにゃりと歪んだ。
(無念……これで、我が野望も潰えるか……)
血が、地面を赤く染める。
馬が嘶き、烈馬の意識は、土の匂いと共に闇に沈んでいった。
――それから、どれほどの時が経っただろう。
「……おい、大丈夫か! 気がついたか!?」
(……この声は……?)
烈馬は、ゆっくりと瞼を開けた。
目の前にいたのは、刀を握った敵兵ではない。
不思議な白い衣を着た若者が、何か頭に変な帽子をかぶってこちらを覗き込んでいた。
「ここは……合戦場か……?」
「合戦場? 何言ってんだおじさん。ここは中央競馬場の厩舎だってば!」
烈馬は、ふと自分の背後から聞こえる馬の嘶きに振り返る。
そこには、戦場を駆け抜けた戦馬ではなく、艶やかな毛並みを持つ小柄な競走馬が繋がれていた。
「……馬が……おる……」
烈馬の目が、輝いた。
「我、再び駆ける時が来たか!! いざ、出陣!!」
「えっ!? ちょ、ちょっと! まだ説明が……!」
こうして――
戦国最強の騎馬武将、現代競馬界に降臨す。