自滅の8:上マシュマロ、下大福
少年の名はヒナ。いじめられっこだ。
今日もクラスメイトのフジワラにいじめられるため、登校したのだが…。
「おはよー…」
ギロッ
「!!?」
クラスメイト達の目が、一斉にヒナをにらんだ。
どうやら今日のヒナの敵は、フジワラではなく、彼ららしい…。
「…え?何?どうしたの?」
「とぼけやがって…。皆知ってんだよ。
見ろよこれ!」
「!? こ、これは…」
クラスメイトがヒナに見せたスマホの画面。
そこには、昨日のフジワランドでのふたりのやりとりが映っていた。
(誰が撮ったんだ)
しかも、撮影されていたのはよりによって、あのシーンだ。
『僕のいう通りにしろ!』
『こっちに来い!』
『今夜は寝かせないからな…!』
そう言って、フジワラを無理矢理別室に連れ込んでいるシーンである。
「こんな動画が流れてきたんだ。」
他のクラスメイト達も皆知っているようで、うんうん頷いている。
「ひでぇ…。こいつ、フジワラさんの胸倉掴んでやがる。」
ちがっ…それは、はだけた浴衣を直しているだけで…。
「これって立派ないじめよね」
なんということでしょう。
いじめられっこのヒナの方が、逆にいじめっこ認定されてしまった。
「誤解だ!フジワラに聞けばわかる!」
ヒナは必死に弁明するが。
「フジワラさん、体調不良で休みだってよ。」
「…え!?」
フジワラが体調不良?
昨日はあんなに元気そうだったのに?
もしかしたら、本当は具合が悪かったのに、無理していたのかもしれない。
それなのにあんな運動させてしまって…。
ヒナは急に不安になってきた。
フジワラ…!!
ちなみにフジワラの「病名」は、「筋肉痛」であった。
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そうとは知らないヒナ、フジワラを気に掛けながらも、まずは身の潔白を証明しようとする。
「とにかく、誤解なんだって!
いじめられてたのはフジワラではなく、僕の方なんだ!
…そう…。
僕はいつも、フジワラにいじめられていた…。
パシリに使われたり。
理不尽にデコピンされたり。
傘を奪われたり。」
悲惨な被害を告白するヒナ。
しかし…何か様子がおかしい。
「踏まれたり…。
蹴られたり…。」
はあはあはあはあ
「踏んでもらったり…。
痛めつけて頂いたり…。」
はあはあはあはあはあはあはあはあはあはあ
ヒナの息は語るにつれて荒くなり、恍惚の表情まで浮かび始めた。
いじめの被害者…?そんなわけあるか?
信ぴょう性ゼロということで。
誰もヒナの話には耳を貸さず、去って行ってしまった。
「何故!?」
腑に落ちないヒナ。
仕方のないことだ。
「デコピンはご褒美ではない」という一般常識を知るには、ヒナはまだ若すぎたのだ。
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そして翌日。
ふらつきながらも、フジワラが登校してきた。
まだ全身がビキビキいっている。
ひょこひょこと小股で歩く姿が痛々しい。
(これも全部ヒナのせいよ…。見つけ次第デコピンしてやる…!)
卓球に誘った張本人だということは、すっかり忘れているようだ。
自分を痛めつけた(?)ヒナへの復讐をかたく誓う。
そしてそこへ。
飛んで火に入る夏の虫。ヒナ登場。
「フジワラ!
学校来られるようになったんだな?
よかった~!」
これで身の潔白が証明できると、喜んでヒナが駆け寄ってくる。
「ヒナ!先日はよくも!」
そう言い、手をキツネにして構えた。
「歯ァ食いしばりィ…」
最高に強烈な一撃をお見舞いすべく、全身を大きく乗り出した。
もうおわかりだろうが。
こういうところで自滅するのがフジワラである。
ビキィッッ!
フジワラの全身を電撃のような痛みが駆け巡った。
…筋肉痛である。
雷に打たれたかのように、フジワラは倒れ、ぴくぴくと痙攣している。
「自滅しないでーーーーっっ」
ヒナはそう叫ばずにはいられなかった。
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フジワラの証言のおかげで、ヒナの誤解は無事に解けた。
一件落着である。
「治るまで私の足としてこき使ってやるんだから!」
そこには、ヒナにおぶわれ、ぷりぷり怒っているフジワラの姿が。
しかし、なんだか楽しそうである。
そして邪険に扱われているはずのヒナも、幸せそうな表情を浮かべている。
それもそのはず…。
ふにっ…
はあはあはあ
ふににっ…
はあはあはあはあはあ
ひなの指を包み込むのは、少しだけひんやりとした、白いやわはだ。
フジワラの、ふとももの肉である。
…いや、肉と呼ぶにはあまりにも儚い。
触ればとろけて消えそうだ。
涙が出るほどやわらかいそれは、まるで淡雪のような、つきたての餅のような…。
とにかく、フジワラのふとももは、ふわっふわのもっちもち、だったのだ。
…はあはあはあはあ
そして…。
ヒナはごくりとつばを飲み込み、脳裏の劇場の扉を開く。
真っ白く伸びる二本のふともも。
それはまるで、雪国を駆け巡る二本のレール。
その線路の終着駅。
ヒナは、その景色を知っている。
そこでは真っ白な大地に、イチゴが咲き乱れているのだ。
…はあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあ
「…フジワラ、おまえってさ、もしかして…
…前世、イチゴ大福だったりする?」
「?」
ヒナの突拍子もない問に、フジワラは愛らしく首をかしげるだけだった。
それでいい。
上マシュマロ、下大福。
ヒナはその味…もとい感触を存分に味わいながら、フジワラの馬としての日常を嚙みしめるのだった。
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「とにかく!
貴方は私の回復のために、全力を尽くすこと!
いいわね?」
「はーい」
フジワラ女王、ヒナにおぶわれながらも、容赦ない。
「えーと、筋肉痛を早く治すには…」
ヒナの背中の上で、スマホを操り、情報収集にいそしむ女王様。
「温めるのがいいのね。
あとはマッサージとか…」
それを聞いて、ピクリとヒナが反応した。
また息が荒くなっている。
「ウンウン、全面的二協力スルヨー。
温泉二入レテアゲルシ―。
全身マッサージモネー。」
…絶対、良からぬ想像をしている。
…絶対。
どうやらフジワラは、またもや墓穴を掘ったらしい。
(悪寒…!!)
ヒナから漂う異様なオーラに恐怖し、逃げることを決意。
フジワラはヒナの背中から飛び降りた!
…もう、おわかりだと思うが…。
ビキイッッ!!!
哀れフジワラ、またしても。
「だから自滅すんなって!!」
ヒナの悲鳴もむなしく、フジワラは全身を震わせて痛みに耐えるしかなかった。
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もうこれ以上、フジワラを自滅させるわけにはいかない。
ヒナはフジワラの体に直接触らないようマジックハンドを使い、マッサージを施した。
こうしてヒナに生温かく見守られたおかげで、フジワラは順調に回復していった。