自滅の5:フジワラ、墓穴を掘って掘って、金脈を掘り当てる
少年の名はヒナ。
これはヒナがクラスメイト・フジワラに日々いじめられる、涙無くしては読めない物語。
…になるはずだったのだが。
「にょーほほほほほ!」
今日も独特な高笑いが聞こえる。
いじめっこ・フジワラだ。
「荷物持ちなさい!」
その傍らには、フジワラの荷物を持たされているヒナの姿が。
はあはあはあはあ
荷物を抱えて苦しそうだ。
「…どこまで?」
「私の家までに決まってるでしょ?」
こき使われるヒナと、威張り散らかしているフジワラ。
典型的ないじめの光景に見えた。
…が。
そうはならないのがこのふたりだ。
はあはあはあ
「じゃあ…」
はあはあはあ
「住所特定するけど…
い?」
「!!!!!」
「はあはあはあはあはあはあはあ」
「いやああああああああ」
空は晴天。自滅日和。
今日はフジワラの自滅に次ぐ自滅を紹介していこう。
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ザクッ ザクッ
土を掘る音が校庭に響く。
大きなシャベルで穴を掘っているのはフジワラだ。
「最近ヒナが調子に乗っているから教育してやらなきゃ。
落とし穴よ!」
そう、これはヒナを突き落とすための穴なのだ。
なんという卑劣な行為!
「ひっくい所から私を見上げなさい!
自分のちっぽけさを思い知るがいい!
にょーほほほほほほほほ!!」
完全に悪の幹部の顔である。
フジワラにとって、大きいことは正義。
ヒナを自分より低い場所に突き落とし、自分を見上げさせようというのだ。
なんともちんけな…いや、立派な作戦だ。
ずんずんと穴を掘り進めていく。
そして、人一人入れてもおつりがくるくらいの、大穴が掘り上がった。
素晴らしい!完璧だ!
フジワラはおおいに喜んだ。
「…で、出られなくなったと?」
穴の上からフジワラを見下ろしているのはヒナ。
哀れフジワラ、自分が穴から抜けだすルートを考えていなかった。
穴の中でべそをかきながら、ヒナに救出されるのを待つのだった。
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落とし穴作戦が失敗したフジワラは、発想を変えることにした。
ヒナに自分を見上げさせたい。
なら、自分が高い場所へ登ればいいのだ!
フジワラ、意気揚々と木に登った。
「ここなら、ちんけなヒナがより小さく見えるわ!」
優越感に浸るフジワラ。
勝負あった…かのように見えたが。
なぜかヒナがほっぺをまんまるに赤くし始めた。
「イチゴォ(o´ω`o)」
「…えっ!?」
まぁ、少し考えればわかることだが…。
見放題なのだ。
愛らしいイチゴが。
「ちょっ…ばっ…」
大慌てで木の上で態勢を変えようとするフジワラ。
この後はお約束の展開である。
「ぴっ」
フジワラはべしゃっと地面に落下した。
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「大丈夫?痛くなかった?」
「ううう…」
フジワラの身を案じて、ヒナが駆け寄ってきた。
「僕がクッションになればよかったのにな」
「え…?」
どきっ
思いがけない優しい言葉に、フジワラの鼓動が早くなった。
「ヒナ…そんな…」
自分はヒナをいじめようとしていたのに…。
どうしてそんな優しいこと言ってくれるの…?
自分の行いを恥じたフジワラ。
これからはもっと素直になろう。
ヒナに謝らなければ。
ヒナ…
…はというと、地面をなでくりまわしながら、何やら話しかけていた。
すりすりすりすり
「おい地面、フジワラはやわらかかったか?」
すりすりすり
「おまえ役得だよな。
考えてみれば、毎日フジワラに踏んでもらえるわけだし…」
すりすりすり
「……」
すりすりすり
「…転生したら、地面になりたい…」
フジワラ、ダッシュで逃げ出した。
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「待てよフジワラ!」
逃げるフジワラ。追うヒナ。
しかし止まるわけにはいかない。
あの変態のことだ。
捕まったら何をされるか、わかったものではない。
「違うんだ…
さっき落ちた衝撃で、スカートがめくれてんだよ!」
えっ?
それが、ヒナが必死に追いかけてきていた理由…?
ふりかえるフジワラ。
確かにスカートが大きくめくれ上がっている。
慌てて立ち止まったフジワラの目にも飛び込んできた。
自分の下着のイチゴと、そして…
生徒達の、失笑している姿が。
生徒A「(˶ᵔᵕᵔ˶)」
生徒B「イチゴォ(「´꒳`)「」
生徒C「( ᐛ)イチゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」
生徒D「(❁´◡`❁)」
生徒E「(o≖‿≖o)」
「いやあああああああああ」
フジワラの悲鳴が、青い空に響き渡った。
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「うううっ…ぐすっ…ひっく…」
ざくっ ざくっ
ヒナが辿り着いたのは、さきほどの落とし穴用の大穴。
中ではフジワラがさらに穴を掘り進め、拡張していた。
「戻ってこいよフジワラ―」
しかしフジワラは泣くばかりで、ヒナの誘いに応えようともしない。
「どうせ私は墓穴を掘ることしかできないのよ!
…いじめれば失敗するし。
…ヒナの変な性癖目覚めさせちゃうし。
…パパは多額の借金抱えてクビになるし。」
パパァ!!??
そういや前回、大ポカやらかしたって言ってたっけ…。
そうか…結局ダメだったのか…。
フジワラへの同情がこみあげてきた。
なんだか、とても哀れだ。
泣きながら穴を掘り進めるフジワラの姿を見ていると、ヒナは何だか、不思議な感覚に包まれていった。
フジワラと出会った日からのことを思い出していた。
初めは、まぶしい存在だった。
突如教室に現れた彼女は輝いていて、ヒナはこれから日常が変わることを予感した。
その予感は違う意味で的中することになった。
フジワラはまさかのいじめっこだった。
フジワラにいじめられる毎日が始まった。
だけど、それは不思議と嫌ではなくて。
むしろ…。
ヒナはフジワラに、ゆっくりと語り始めた。
「…僕は…最初はほんとにただのいじめられっこだったんだ」
そう、フジワラと出会ったばかりの頃。
いじわるばかりしてくるフジワラを、怖いと思ったこともあった。
「だけどフジワラ見てたら…
『あ、こいつらなら勝てるかも』って自信持てるようになって」
フジワラの自滅していく姿を見るたび、ヒナの中の認識は変わっていった。
その少女は恐ろしいいじめっこではなく、守らなければいけない儚い存在になっていった。
そしてそれは、ヒナ自身の自信にもつながった。
これといった取り柄もない、ただの平凡な少年に、守るべきものを与えて強くしてくれたのは、フジワラだったのだ。
「だからフジワラは僕の、恩人なんだ」
「ヒナ…」
フジワラがうるんだ瞳で見上げてくる。
「…それって、ほめてるの?」
「ほめてる、ほめてる(多分)」
…多分。
「だからもう泣くなよ」
「…うん。」
穴の上からヒナが手を伸ばす。
フジワラはその手を取ることを決めた。
そして、ふたりの手が触れ合わんとした、まさにそのとき―。
ドッ!!!!
突如穴から大量の湯が噴き出し、巨大な水柱となって、フジワラを天高く押し上げた。
まさか…
「墓穴掘りすぎて、温泉出たーーーーーー!!??」
あまりの奇跡に、ヒナ、開いた口がふさがらない。
フジワラは天高く舞いながら、歓喜の声を上げたのだった。
「これでパパの借金が返せる!」