自滅の1(後編):いじめられるたびハアハア、それがヒナ
前回までのあらすじ:
フジワラ、自滅するタイプのいじめっこであることが発覚。
「きれいだよな、フジワラ」
いじめるつもりが自滅し、スカートの中大全開になったフジワラ。
しかしそれを見てヒナがつぶやいたのは、意外な言葉だった。
フジワラ、顔をイチゴのように赤くし、とまどいを隠せない。
どきどき…どきどき…
しかし。そうは問屋が卸さない。
実はヒナが見ていたのは…。
(綺麗だよな…ほんと
…フジワラの字って。)
スマホの画面に写っていたのは、大きく開いたフジワラのスカートの中…
…ではなく。
フジワラが持っていたノートだった。
フジワラの姿を隠すかのように、全面に映し出されたそれには、細かい文字が整然と並んでいる。
フジワラらしからぬ几帳面な文字に、素直な感想を述べたヒナ。
しかし、フジワラはその真意を知らない。
ヒナの画面に映されているのは、あくまでも自分の下着だと思っている。
「ほんときれいだ。だから…」
「…ヒナのばか…/////」
「もっと皆に見せればいいのに。」
「!?!?!?!?!?」
見せる?皆に?この…下着姿を!?
フジワラの脳裏に浮かんだのは、笑顔を向けながら皆の目の前で下着を披露する自分の姿…。
いやあああああ!!
「ヒナなんか大っっ嫌い!!」
「!?!?!?!?」
どうして、褒めたのに…。
スマホを奪ったうえ、こんな暴言まで。
つくづく、フジワラはひどい奴だと思った。
しかしその一方で、こんなフジワラとのやりとりに、快感を覚え始めているのも事実だった。
いじめられているのは確かである。
パシリに使われ。
暴言は日常茶飯事。
理不尽にデコピンされ。
それなのに。
何故だろう。
かつての平凡で平和だった日々からは得られなかった、何かの栄養素がそこにはあった。
その正体に、ヒナは自分でもうすうす気づき始めていた。
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ある日のことである。
「痛っ…」
フジワラに足を踏まれ、思わず叫んでしまったヒナ。
(…くはないか)
よくよく落ち着けば、特に痛みはない。
しかし、ヒナの悲鳴を聞き、フジワラは慌てたそぶりを見せる。
今のは純粋な事故で、悪意はなかったのだが…。
「そっ、そんなとこにいるのが悪いのよ!」
いじめっことしてのプライドを保つため、精一杯の悪態をついて、去って行ってしまう。
取り残された哀れなヒナ…というわけでもなく。
(軽かったし…いいにおいしたし…なんかやわらかかったし…)
それは苦痛というより、むしろ…。
はあ はあ はあ はあ
無意識に息が荒くなっていくヒナ。
フジワラに踏まれた感触を思い出すたび、頬が熱くなって、鼓動が早くなる。
(フジワラ…)
このときまだヒナは気付いていなかった。
自分が新しい扉を開きかけていることを。
そう…ドMという名の、性癖の扉を…。
そしてついに、決定的な出来事が起こる。
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それは土砂降りの雨が降る日だった。
「傘忘れたから入れなさい」
相変わらずフジワラは傍若無人。
ヒナの意見など聞きもせず、強引に傘に入ってきた。
しかし、一本の傘にふたり分のスペースはない。
フジワラを濡らしてしまったら、後で何をされるか…。
そう思うと、ヒナは自然と傘をフジワラの方へ差し出す形になった。
ヒナの体は傘からはみ出て、どんどん濡れていく。
「やだ、びしょ濡れじゃないw 傘のさし方も教えなきゃダメなの?」
フジワラはあざけるように笑う。
「ほら…」
傘に割り込んできた上、罵倒までされなきゃいけないのか?
ヒナは身構えたが…
「もっとこっちに来なくちゃ。へたっぴなんだから」
フジワラの言葉は、予想外のものだった。
わずかに頬を赤く染めて、はにかんで…。
その表情は、いじめっことは思えないやわらかなものだった。
こうして一本の傘の下、ふたりは身を寄せ合うことになる。
互いの吐息を感じられるほどの距離。
しかしフジワラはなんだか嬉しそうだ。
遠目で見れば、なんとも仲睦まじく、微笑ましい光景だ。
…遠目で見れば。
すーはーすーはーすーはーすーはーすーはーすーはーすーはーすーはーすーはー
フジワラに体を押し付けるようにして、そこには息を荒げたヒナがいた。
(フジワラのにおい…!!)
すーはーすーはーすーはーすーはーすーはーすーはーすーはーすーはーすーはー
ヒナの鼻腔を荒々しく出入りする空気。
限界を超えて酷使され、傷つく粘膜。吹き出す鮮血。(=鼻血)
それでもヒナはフジワラのにおいを嗅ぐのをやめない。
すーはーすーはーすーはーすーはーすーはーすーはーすーはーすーはーすーはー
ヒナは確信した。
自分が新しい領域に足を踏み入れてしまったことを。
こうして、ドMに目覚めたヒナと、自滅するいじめっこ・フジワラの、甘く危険な日々が始まることになった。