自滅の18:この拷問機に花束を
フジワラに別れを告げてから、2日が経った。
(何かが物足りない…)
ヒナはぼんやりと、夕暮れの空を眺めるのだった。
フジワラと触れ合えない。
ただそれだけで、毎日がこんなに色あせてしまうだなんて。
思い返せば、フジワラとであったのは二か月前のことだった。
それから、色々なことがあった。
パシリにされて、デコピンされて、踏まれて、いじめられて…。
思い出が走馬灯のように駆け巡る。
気付けばいつも、フジワラは隣にいた。
彼女と出会う前は、どうやって生きていたんだっけ。
それすら思い出せないほど、フジワラの存在は大きくなっていた。
彼女に会えない。触れられない。いじめてもらえない。
心に穴が開いたようだ。
(砂をかむような味気ない毎日だ)
ヒナは公園の砂を口に含み、じゃりりと噛んだ。
そこにフジワラの味はなかった。
「ママ!あの人砂食べてる!」
「しっ!見ちゃダメよ!」
そんな親子の会話も、ヒナの耳には届かなかった。
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「ヒナ!」
その状況を変えたのは、昭和男だった。
「フジワラさん、泣きながらうちに来たぞ!?」
どうやらフジワラは、ヒナに拒絶されたあと、昭和男の家に駆け込んだらしい。
「話は聞いた。身長が欲しいんだってな。
そんなに伸ばしてどうずる気だよ?」
「どうって…。高い方がいいに決まってるだろ。
モテるし…。」
ヒナの答えに、昭和男がピクリと反応した。
「モテるためって、誰に?」
「誰って…」
「もし、よその女にモテるために、フジワラさんを泣かせたのなら…」
昭和男は震えていた。
拳をぐっと握りしめた。
そしてヒナの胸倉をつかむと、引き寄せた。
「その脳天ぶん殴って、僕の手で、どチビにしてやる」
「昭和男…」
昭和男の目は、震えていた。
ふたりの幸せを願って身を引いた男の、覚悟の瞳だった。
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「ヒナ!」
そしてそこへフジワラもやってきた。
何やら大きな装置をガラガラと引きずって…。
「昭和男に協力してもらったの!これを!」
そう言うと、装置にかかった布を、バサッと払った。
「!!?」
現れた装置に、ヒナは驚きを隠せなかった。
なんとそれは…。
「逆さ吊り拷問機よ!!!」
「おおおおお♡♡♡」
なんということでしょう。
それは、巨大な滑車とロープを組み合わせた拷問機械。
ヒナはされるがままにロープで縛られ、足の先を括りつけられた。
そして滑車の反対側には、フジワラがぶら下がっている。
ふたりの体重でうまい具合にバランスが取れ、滑車はゆらゆらと揺れながらも停止し、ふたりの体を宙につなぎとめていた。
「これなら、縮んだ背を伸ばしながら、SMが可能でしょ?
私もひっぱられるし♡」
そう、これはふたりの成長を妨げずに済む、画期的なSMマシンだったのだ。
「1回踏んだら2回吊るす…。これからはそのサイクルでどう?」
「イイ♡すっごくイイイ♡♡♡」
半裸で亀甲縛りにされ、逆さに吊るされたまま、ヒナはハートマークをまき散らした。
「でも…。本当はヒナの身長なんて、どうでもいいんだけどね」
フジワラはそう言って、微笑んだ。
大切なのはそんな問題ではない。彼女はそう気づいたのだ。
ヒナと一緒にいられる時間の尊さを。
ヒナもフジワラの気持ちに気づき、頬を染めるのだった。
「ほんとにもう、これっきりだぜ」
「昭和男!」
ふたりの様子を見届けると、昭和男は背を向けた。
それをフジワラは呼び止める。
「ありがとう!!」
「おまえは僕達の恩人だ!」
ふたりから、全身で感謝の言葉を贈られた。
この装置を作るための材料と技術を提供したのは、他ならない、この男だ。
彼なくして、仲直りはありえなかっただろう。
「べっ別にただ…庶民との差をみせつけてやろうと…」
わかりやすく照れ隠しをするが。
「まっ、困ったらいつでも言えよな!!」
最後は笑顔で、ふたりにそう告げるのだった。
こうして昭和男という強力なスポンサーを手に入れ、ヒナとフジワラのSMは、一層過激化していくのだった。