自滅の17:さよならフジワラ
誰からも愛される、ドS界の天使・フジワラ。
しかし、そんな彼女にも容姿の悩みはあった。
身長だ。
女子高校生の平均身長は約158cm。
それに対し、フジワラの身長は154cm。
平均より少しだけ小柄だ。
しかし、「偉大であること」を目指すフジワラは、それをとても気にしていた。
(知らずにいじってしまったヒナは、深く反省したのだった(自滅の16参照))
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今日は健康診断の日。
結果を見ながらため息をつく少女が一人。フジワラだ。
身長の数字は去年から変わらず。
「もう伸びないのかな…175cmほしかったのに」
可哀そうだが、彼女の夢が叶うのは難しそうだ。
しかしその背後で、より深刻な状況に陥っている少年がいた。
ヒナだ。
「156cm」
それが、彼が今年つきつけられた、残酷な数字。
女子としても小柄なフジワラと大差のない、この数字。
というか、女子の平均以下。
さらに、去年からほぼ変わっていないという…。
男子高校生としては、絶望的な現実だった。
(え、ヤバくね!?
もう高校生だぞ!?あと何センチ伸びるの!?
さすがに160cmはいくよね…?)
将来に不安を感じ、焦るヒナ。
そこへ、同じ悩みを抱えるフジワラがやってきた。
ヒナの数字を見ると、一瞬むっとする。
ヒナのくせに、自分より2センチも大きいだなんて!
「私より高いくせに、ぜいたくよ!」
「おまえは女なんだからいいだろ!」
「身長に男も女も関係ないでしょ!!」
「あると思うぞ!?」
口答えするヒナに、フジワラは怒り出した。
いつも通りの展開だ。
「ヒナのくせに生意気!踏んじゃうから!」
そう言って、片足を上げて構えるフジワラ。
「きたきた、いつものご褒美タイム♪」
待ってましたとばかりに、ヒナも四つん這いになる。
さあ、今日も痛めつけていただこう。
ドSとドMのスキンシップタイムだ。
しかし、そのとき。
ヒナは気付いてしまった。
ほぼ日課と化しているこの行為。
まさか、これが…これが…
これが、チビの原因なんじゃないか…?
ヒナの推測はこうだ。
頭上に伸びようとしている身長。
しかしフジワラに頭を踏まれることにより、抑制されてしまったのではないか?
逆も言えそうだ。
フジワラの足裏にだって、負担がかかっているはず。
本来伸びるはずだったフジワラの身長も、抑えられてしまっているのではないか。
フジワラの足がヒナの頭上向かって下ろされる。
しかしその直前で、ヒナはその足を掴み、止めてしまった。
「きゃっ!?何するの…」
「…フジワラ…僕達は、離れるべきだ」
苦しそうに、ヒナは言葉を紡ぎ出した。
「何言ってるの…」
最初は気にもしていない様子のフジワラだったが。
「このままじゃお互い、成長できないんだ(物理的に)…」
いつになく神妙な面持ちのヒナに気づき、事態の深刻さを理解した。
「ごめんなさい、調子に乗り過ぎたわ…だから…」
「違うんだ。ダメなんだよ、フジワラ…」
ヒナは、ゆっくりとその場を離れていく。
追うフジワラ。
しかし、つなぎとめられないことを悟ってしまう。
「今まで楽しかったよ…ありがとう。」
それは、別れの言葉だった。
フジワラの顔から、見る見るうちに血の気が引いていく。
何故?あんなに仲良くしていたのに。
どうしてこんな事態になってしまったのか?
もう、戻ることはできないのか…?
「さよならだ」
えぐるような言葉を放ち、ヒナは去って行った。
もう、フジワラの方を振り向かなかった。
何か言わなきゃ、そうフジワラが思っても、唇は虚しく震えるだけ。
夏は始まったばかりだというのに。
ふたりの間には、氷の壁がそびえ立ってしまった。