自滅の15:そしてチャペルの鐘は鳴る
「ヒナ君、我が家のパーティーに招待するよ!」
誘ってきたのは某会社社長の御曹司・昭和男。
その態度で損をしているが、根はとても良い奴なのだ。
「本当はフジワラさんだけ呼ぶつもりだったんだけど…。
『ヒナが行かないなら行かない』って言うもんだから。」
仕方なく君も誘ってやるんだと、少々恩着せがましく話す。
しかし、ヒナはそんな彼の態度も、全く気にしていない。
「え?フジワラが?それって…」
あのフジワラが、「パーティーに出るならヒナと」と言ったのか?
ヒナはほんのり胸を躍らせる。
…が。
ヒナの期待はすぐに藻屑となった。
理由は単純明快。
「立食パーティって、席ないんでしょ?疲れちゃうじゃない」
というのが、フジワラの理由だった。
「あ、僕、椅子役か!」
いかにもフジワラらしい。それなら納得。
ヒナはけらけらと笑うのだった。
ヽ(゜ー゜*ヽ)ヽ(*゜ー゜*)ノ(ノ*゜ー゜)ノ└(∵┌)└( ∵ )┘(┐∵)┘ヽ(゜ー゜*ヽ)ヽ(*゜ー゜*)ノ(ノ*゜ー゜)ノ ◝( ⁰▿⁰ )◜
昭和男は準備が良かった。
ふたりのために、パーティー用の服まで用意してくれたのだ。
「庶民の君達は、ドレスも持ってないだろう?」
というのが、彼の言い分だ。
若干鼻につく言い方だが、ふたりはまったく気にしていない。
ここは感謝すべきところだ。
「あいつ気前いいな」
喜んで包みを開けるのだった。
しかし…。
「何だこの服!?」
試着したふたりは、思わず顔を見合わせることになった。
まずはフジワラから。
「このデザインはちょっと…。」
フジワラのために用意されたのは、頭からつま先まで、過剰なまでにフリルとリボンのついたドレス。
あまりにも可愛すぎて、着るのが恥ずかしいようなデザインだ。
しかも全身真っピンク。
パステルカラーの似合わないフジワラにとっては、着こなすのが困難なドレスだ。
続いてヒナの方は。
黒と赤のタキシードに、大ぶりの金色のアクセサリーまでついている。
しかもところどころに凝った刺繍まで。
強い色の似合わないヒナは、「服に着られている」状態になってしまっている。
例えるなら、学芸会のチンピラ役のような。
お互い、似合わない姿を披露し合って、吹き出すのだった。
そもそも、服の個性が強すぎるのだ。
「こんな難しい服、着こなせる人、どこにいるのよ!」
「あいつどんな趣味してんだよw」
ふたりでひとしきり笑い合う。
…が。
しばし考える。
もしかして…。
予感は的中した。
いたのだ。この難しい服を着こなせる人間が。
ヒナの派手派手しいタキシードは…
なんと、フジワラが見事に着こなしていた。
長い黒髪は、今日はひとつに束ねて凛々しく。
細身のシルエットに、個性的な衣装が合っている。
夜景が似合う貴公子の誕生だ。
ヒナは目を丸くした。
そしてフジワラの可愛すぎるドレスは…
なんと、ヒナが見事に着こなしていた。
色素の薄い癖っ毛に、ふわふわのレースのリボン。
ふりふりしたスカートも、ヒナの柔らかい雰囲気に合っている。
花畑が似合う令嬢の誕生だ。
フジワラは開いた口がふさがらなかった。
こうして衣装を交換し、互いに満足のいく正装ができたふたりは、パーティーへ出向くのだった。
ヽ(゜ー゜*ヽ)ヽ(*゜ー゜*)ノ(ノ*゜ー゜)ノ└(∵┌)└( ∵ )┘(┐∵)┘ヽ(゜ー゜*ヽ)ヽ(*゜ー゜*)ノ(ノ*゜ー゜)ノ ◝( ⁰▿⁰ )◜
パーティー当日。
バックヤードでは、昭和男の家のメイド達が忙しくしていた。
「今日は坊ちゃまのお友達もいらしてるんですって!男の子が一人と、女の子が一人。」
「まぁ!」
どうも、昭和男にとっては珍しいことだったらしい。(あいつもしかして、友達いないのか…?)
メイド達は目を輝かせている。
「しかも!その子って、以前坊ちゃまがこう言ってた子らしくて…」
―――――回想―――――
「将来僕のパートナーになるかもしれない人だから」
――――回想終了――――
「まあぁ!!」
メイド達、目がランランである。
どうやら昭和男は、フジワラへの恋心をこじらせ、勝手に将来の妄想にまで発展させていたらしい。
(その後、椅子にされたことにより、彼の妄想は一度打ち砕かれるのだが… ※自滅の9参照)
何はともあれ、昭和男の「意中の人」が来ているというのだ。
気にならないはずがない。
メイド達は物陰からこっそり覗き見ることにした。
「どんな子かしら」
「ほら、あの子じゃない?坊ちゃまがラブコールを送りまくっている…」
そこには、フジワラの正装姿に大興奮し、鳥の求婚ダンスのように舞っている昭和男がいた。
だがしかし、このときのフジワラの服装は、ヒナが着るはずだったタキシード。
一方、その傍らではひらひらのドレスのヒナが、ケーキをほおばっている。
これでは…どう見ても。
ラブコールを受けているフジワラの方が「男の子」である。
(坊ちゃまが好きなのは 男の子!!)
メイド達がそう勘違いし、心の中で叫んだのにも無理はなかった。
(これがのちに大きな誤解を生むことを、このときは誰も知らなかった)
ヽ(゜ー゜*ヽ)ヽ(*゜ー゜*)ノ(ノ*゜ー゜)ノ└(∵┌)└( ∵ )┘(┐∵)┘ヽ(゜ー゜*ヽ)ヽ(*゜ー゜*)ノ(ノ*゜ー゜)ノ ◝( ⁰▿⁰ )◜
翌日。
「昨日は楽しんでくれたかな?」
との昭和男の問いに、ヒナとフジワラに満面の笑みで答えた。
「お料理おいしかった!」
「服もありがとー!」
すっかり楽しめたようで、何より。
実は今回、大きな収穫があった。
初めてドレスを着たヒナが、すっかり気に入ってしまったのだ。
「実はあのあと、通販でかわいいワンピ買っちゃった♡」
すっかり乙女心に目覚めたヒナ。
「マジかよ!?ぜってー写真見せろよな!」
昭和男も話題に乗ってくる。
「このノリでウエディングドレスも着てみたいなーなんて!」
「あはは…」
軽い調子で夢を語るヒナ。
しかし、そこへ…。
「じゃあ私がタキシードね?」
フジワラが会話に参加した。
こちらもまた、男装に関心を持ち始めたフジワラ。
「かわいい服が似合わない」という悩みから解放され、昨日は楽しそうだった。
「そのときはデザイナーに特注したい!」
「参列者たくさん呼んでお披露目して…」
「お色直しは2回ね!」
ふたりできゃっきゃとはしゃいでいる。
その横には、白目をむいている昭和男の姿があった。
(もしかして君たちは今…結婚式の打ち合わせをしているのかい…?)
無邪気に盛り上がるヒナとフジワラに、どれほどの他意があったのかはわからない。
しかし、その微笑ましい様子は、昭和男に確実にダメージを与えていた。
「強く生きるよ、パパ…」
そう、膝を抱えて、部屋の隅で丸くなるのだった。
頑張れ昭和男。