自滅の14:そして全てがフジワラになる
ここはどこかの倉庫。
薄暗い部屋の隅に、両腕を縛られたフジワラがいた。
「げへへへへ…」
下衆な笑みを浮かべた男達に囲まれ、その目に恐怖の色を滲ませる。
持ち前の気丈さで、最後の抵抗として男達をにらみつけるものの…。
無力な彼女に危機が迫っている事実は、覆しようのないものだった。
ひとつ、またひとつとシャツのボタンは外され、白い胸元が露わになる。
青ざめた唇が、誰かの名を呼ぶかのように、かすかに震える。
フジワラ、大ピンチ!
このまま男達の手に落ちてしまうのか――!?
…と。
こんな事態になるといけないので。
ヒナと昭和男は救出を急ぐのだった。
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「フジワラがいるのはここだ!」
ヒナの驚異的な味覚によって、フジワラの居場所が特定された。
町外れの廃ビル。この中にフジワラは幽閉されているのだ。
無事を祈り、ふたりと一匹は突入する。
「フジワラさん、無事か!?」
「ヤロォ!ボコボコに…
…されてる――!!?」
そこにいたのは誘拐されたフジワラ。と…
彼女によってボコボコにされた、不良たちの屍累々。
…フジワラ、おまえ、誘拐された側だっただろ…?
また披露しちまったのかよ、ドSを…。
だんっ だんっ
床の不良たちを踏みにじる、フジワラの跳ねる音だけが響いていた。
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ひとしきり踏み終わると、男達はゆっくりと立ち上がった。
そしてふたたびフジワラを捕らえると、ヒナたちにこう言い放った。
「こいつを助けに来たのか?良い度胸だ…だが残念。
こいつにはまだ用があるんでな…。」
不気味な笑みを浮かべている。
「何が目的だ!金か!?」
「金?そんなものはいらない。
俺達が欲しいのは…」
いたいけな女子高生をさらい、こんなところに閉じ込める…
そんな卑劣な彼らの目的とは…?
「…若さだよ。」
…若さ。
「聞いたことあるだろ?暴走族の高齢化」
そういえば、ニュースか何かで。
「レジェンド達は腰痛でバイクに乗れねぇ。」
それは…ご愁傷様で。
「だからこの優秀なマッサージ師を」
ああ、だからフジワラを。
…納得。
「いい踏みっぷりなんだぜ♡」
うん、知ってる。
タダ働きさせられたフジワラは、ご立腹のようだったが…。
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そんなわけで、フジワラは誘拐されたのだった。
思ったより凶悪な状況じゃなくてよかった。
しかし、フジワラ本人が嫌がっているのだ。
こいつらの好きにさせるわけにはいかない。
ヒナは改めて、男達に要求する。
「とにかく、フジワラを返せ!でないと、こっちも返さないぞ?」
男達に交換条件を示した。しかし…。
「返さないって、何をだよ?」
男達は余裕の表情で笑っている。
それもそのはず。
男たちがヒナに取られたものなど…
…あ、あった。
男達の命とも呼べる大切なものが。
表に置きっぱなしだった。
「表のバイク、フリマアプリに出品したら、飛ぶように売れたぞ」
「!!?」
なんとヒナは、男達のバイクを勝手に、フリマに出品していたのだ。
「動かせない」と言う「訳あり商品」なので、格安だ。
そのせいもあり、あっという間に買い手がついた。
ブロロロロ…
窓から音が聞こえる。
車が去って行く音だ。バイクを乗せて…。
ピロン♪
「あ、また売れた♪」
「あ、今車に積んでった」
窓の向こうからドナドナの唄が聞こえる。
「お前ら悪魔か!?」
想像だにしなかった方法で、復讐されてしまった男達。
こいつ、悪だ。
俺達より、はるかに悪だ…!
そう呟かずにはいられなかった。
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こうして大きな痛手を負った不良たち。
ヒナへの怒りは頂点へ達していた。
「許さねぇ!」
痛い目にあわさなければ、気が済まない。
拳を大きく振りかざすと、ヒナに向かって突進してきた。
「ヒナ!」
フジワラが青くなって叫ぶ。
男の拳が、まさに触れんとした、そのとき。
ヒナはにやりと笑った。
そんな攻撃など効かない。
何故なら、ヒナには「あれ」があるのだから。
しかし、ヒナは余裕の表情だ。
そう…。
「AR眼鏡!!」
そう叫ぶと、ヒナはあの眼鏡を装着した。
その途端、不良の姿は見慣れた少女の姿に変わったのだ。
ヒナはどっしりと前を見据える。
良い景色だ。怯えるものなど何もない。
ただいつもの通り、フジワラが殴りかかってきている、それだけだ。
「さあ、殴れ!!」
余裕の表情で、ヒナは叫んだ。
ゴッ…
鈍い音がし、拳が振り下ろされた。
ヒナの体は弾き飛ばされる。
しかし、その表情は恍惚としていた。
はあはあ
「もっと…もっと…」
フジワラの拳など、ヒナにとってはただのご褒美。
一発だけでは飽き足らず、なおも拳を求めて、男の足元にすがりついてくる。
「なんだコイツ!?」
男は理解が追い付かない。
そして追い打ちをかけるように、タロも吠え始めた。
「警察犬!?」
「ってことは、サツが来たのか!?」
やはり警察は苦手らしい。慌て始める男達。
「撤収だ!!」
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こうして男達は逃げていった。
フジワラは傷つけられることなく、無事に帰ってきた。
めでたしめでたし。
…と言いたいところだったが…。
「いつっ…」
ヒナが肩を押さえてうずくまった。
やはり見た目はフジワラでも、実際はいかつい男の一撃。
いつものイジメとはわけが違う。
ヒナの体には、確実にダメージが刻まれていた。
見れば、左腕はだらんと力なく垂れ下がっている。
それに気づき、青ざめるフジワラ。
「怪我したの!?私のために…どうして…!」
責任を感じたのか、泣きそうな顔で叫んでいる。
ヒナはふっと力なく笑った。
「どうして、か…。当然だろ?
だってフジワラには…いじめっこが似合ってるんだから。」
「…え?」
「だから、フジワラがいじめられるのは、見たくなかったんだ。」
フジワラの大きな瞳に、みるみるうちに涙がたまっていった。
「…ヒナ…」
そう言うと細い肩を震わせ、ヒナにすがりついてきた。
「だからって…ダメよこんなの…」
「フジワラ…」
フジワラの腕がヒナに絡みつく。
まるで愛しいものを抱き寄せるかのように。
「ダメ…ダメ…ヒナを…」
「…?」
そして、絡みついたその腕を…
「…ヒナをいじめていいのは…」
くいっとひねり…
「私だけなんだからぁ!!」
ゴキィン!!
「ぎゃあああ!!」
ねじり上げた!
派手な破壊音と、ヒナの絶叫。
しかし…
「!?治った!!」
ぐるぐると肩を回すと、ヒナは腕の復活を確認した。
どうやら、肩が外れていただけだったようだ。
今の一撃でうまくはまってくれた。フジワラもホッと胸をなでおろした。
こうして、再び平和が訪れた。
ヒナとフジワラのすれ違いが生んだ事件だったが、大事にならずに済んだ。
そして二人の仲は、また少し近づいたように見えた。
(昭和男は気付かなかったようだが)
これにて一件落着。
昭和男は安堵の表情を浮かべ、タロも青空に向かって元気よく吠えた。
空はよく晴れていた。