自滅の12:フジワラ語翻訳機
まずは前回の算数の答え合わせから。
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問:
フジワラさんの3サイズは、BWH合わせて217cmです。
HはWより23cm大きく、BはHより3cm大きいとき、
それぞれのサイズを求めなさい。
式:
一番小さいWを基準に考える。
H=W+23
B=H+3=W+26
なので
W+W+23+W+26=217
つまり
3W+49=217
3W=217-49=168
W=56
したがって
H=56+23=79
B=79+3=82
答
B:82cm W:56cm H:79cm
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これがフジワラのスリーサイズだ!!
ちなみに解けなかった人には、フジワラが教育という名のドSを施してくれるとかくれないとか…。
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今日もヒナはフジワラにいじめられそうな予感を抱えながら過ごしていた。
放課後、昭和男が話しかけてきた。
「ヒナ君、特別にこれを使わせてあげるよ。庶民の感想が知りたくてね」
今日もほんのりと嫌味がただよう。悪い奴ではない…はずだが…。
ややもすれば嫌われてしまいそうな彼ではあるが。
ここはヒナ、変態かつドMとしての立ち位置から、そんな彼とも分け隔てなく接している。
さてはともあれ、そう言ってヒナにスマホ画面を見せてきた昭和男。
そこに映っていたのは…。
「翻訳アプリ?」
「パパの会社の新商品なんだ。ほぼ全ての生き物の言葉を訳せる!」
そう言うと、昭和男は通りすがりの猫の鳴き声を録音した。
画面には「訳:メシよこせ」の文字が。
こうやって生き物の言葉をただちに翻訳してくれる、素晴らしいアプリなのだ。
しかし、ヒナは手放しにほめてはくれなかった。
「こんなのさー、当たってるか確認できないじゃん。デタラメじゃねーの?」
確かに、猫に直接訪ねない限り、訳の答え合わせはできないが…。
昭和男、ヒナの物言いに、ちょっとむっとする。
「何騒いでるの?」
そこへ通りがかったのが、天使のように可憐な空気をまとった我らがアイドル・フジワラ。
渡りに船とばかりに、フジワラにとびつく昭和男。
「フジワラさん!君ならこのアプリの素晴らしさをわかってくれる…」
しかし。まさか、忘れてはいまい。
フジワラは天下のいじめっこである。
今日もいじめのターゲットを求めて近づいて来たのだ。
彼女に助けを求めようなど、無謀にもほどがある。
「私のいないところでコソコソ盛り上がるなんて…。
どーせ人に言えないような、くだらない話してたんでしょ?最低ね!」
ほらやっぱり。
口を開けば、飛び出すのは毒ばかり…
と思いかけた、そのとき。
ピロン♪
何故か、翻訳アプリが反応した。
どうやら、フジワラの声を拾って反応したらしい。
といっても、フジワラが話すのは日本語。翻訳も何もないのだが…。
しかし、画面に表示されていたのは、予想だにしない文字列だった。
訳:楽しそう!私もまぜて!
!?
「ぶひゃひゃひゃひゃ!見ろ、日本語ですら無茶苦茶じゃねーか!」
大笑いしているのはヒナ。
アプリの精度をバカにしている。
昭和男も、頭を抱えてしまった。
こんな不具合は想定外だ。
事態に気づかないフジワラは、尚も毒を吐き続ける。
「貴方達、ほんと暇そうね。
それなら、私の荷物持ちでもしなさいよ」
ピロン♪
訳:一緒に帰ろ!
「お駄賃あげるから…。
ほら、これ。この出来損ないの処分に困ってたの。
(そう言いながら袋を取り出す)
貴方達にはお似合いのエサよね!」
ピロン♪
訳:失敗しちゃったけど…私が作ったお菓子食べて!
どうやらこのアプリ、とんでもないポンコツらしい。
フジワラがしゃべるたび、とんちんかんな訳を表示してくる。
昭和男は、この奇妙な現象に、首をひねりっぱなしだ。
一方ヒナは、フジワラが押し付けてくる謎の食べ物に恐れおののいていた。
ビニール袋に入った、丸い物体。
一見クッキーのように見えるが、その色はところどころ紫がまじり、禍々しい。
(実は、紫芋がうまく混ざらずマダラになっただけなのだが…)
見た目は完全に特級呪物。
毒を入れたとしか思えない、凶悪なオーラを発していた。
(あれを食わせる気なのか?今日のイジメは度が過ぎてる!)
「そんなの食えるか!」
そう叫ぶと、ヒナは恐怖のあまり駆け出した。
これにはフジワラ、憤慨。
「な…何よその態度!
明日会ったら、ただじゃおかないんだから!」
ピロン♪
訳:どうしよう…明日会ってくれるかな?
「ヒナのくせに、生意気なのよ!」
ピロン♪
訳:ヒナに悪いことしちゃったのかな…?
その後もアプリは、でたらめな訳をし続ける。
ピロン♪
訳:どうしてうまくいかないんだろう
ピロン♪
訳:本当は仲良くしたいのに
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これは一体、どういうことなのか。
ただのポンコツかと思われたアプリ。
しかし、昭和男は気付き始めていた。
アプリは、正確に仕事をこなしていた。
ちゃんと翻訳していたのだ。
「フジワラ語」を。
フジワラの、毒にまみれたセリフの裏の、本当の意味を…。
そしてそれがわかったとき。
昭和男の心に、かすかなさざ波が立った。
知ってしまったのだ。
フジワラの、ヒナに対する気持ちを…。
「貸せ!」
「あっ」
昭和男はフジワラの手から袋をひったくると、ヒナを追いかけて走り出した。
「ヒナ!」
そしてヒナが振り向くと…
ボグウ!
「!!?」
ヒナの口の中に、無理矢理クッキーをつっこんだのだ。
思わずクッキーを飲み込んでしまったヒナ。
毒による刺激を覚悟した。
しかし意外にも、ヒナの舌を包んだのは、やさしい甘さだった。
「ん?なんだこれ うまっ!」
思わずもれた素直な感想に、フジワラの表情がぱあああっと輝いた。
「サンキュ、昭和男」
「礼ならフジワラさんに言ってやれ」
それだけ言うと、昭和男は振り返りもせず立ち去った。
そしておもむろに電話をかけ始めた。
「もしもし、パパ?あの翻訳アプリ、全然ダメ。
ポンコツで使えなかったよ…。」
そう、父親に報告するのだった。
「あんなの、世に出しちゃダメだよ」
そう繰り返すと、昭和男は電話を切った。
わかっている。アプリは正確だった。
でも…。
だからこそ。
(あのふたりの背中を押すのは、これっきりにしたいからな…)
昭和男は、初めて味わう感情を、胸の奥で押し殺すのだった。
空には燃えるような夕焼けが広がっている。
ちょっぴり苦く、甘酸っぱい三角関係が、始まろうとしていた。