自滅の10:復讐の夜明け~いじめられっこ達の全面戦争~
ドMのヒナとドSのフジワラ。
今日もヒナはフジワラにいじめられている。
しかし、最近フジワラにはちょっとした悩みが。
ヒナをイジメても、反応がイマイチなのである。
あのドM相手には、そろそろイジメのレベルを上げねばならないようだ…。
こうしてフジワラはある作戦を実行することにした。
「最近ヒナが調子にのってるから、教育してあげなくちゃね♪
…ということで…」
フジワラがそう言うと、後ろからたくさんのクラスメイトが現れた。
「今日からパシリの仕事量を増やします。
この全員のパン買ってきなさい!」
こうして哀れなパシリ・ヒナは、フジワラだけでなく、大量のクラスメイトのパンまで買わされることになった。
両手の袋いっぱいにパンを抱え、よたよたと教室へ戻るヒナ。
これは地味にキツイぞ…。
しかし。
ヒナはひらめいてしまった。
逆に考えるんだ。
これは…革命のチャンスではないか…?
こうしてヒナVSフジワラの全面戦争が幕を開けたのである。
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まずは兵隊が必要だ。
ヒナは校内の各教室を回って声をかける。
「各クラスのパシリ集合!」
全校のいじめられっこ、大集合。
そしてヒナは呼びかけた。
「今から僕達は、パシリ革命を起こす!!」
「パシリ革命…だと…?」
ざわつく一同。
パシリ革命…それは、いじめっこへの復讐。
奴らの悪意を逆手に取り、ぎゃふんと言わせてやる、画期的な計画なのだ。
ヒナは作戦の詳細を説明し始めた。
「実は近所に、売れなくて困ってるパン屋があるんだ。
まずそこで、期限ギリギリのパンを買う。
これだけの大量注文なら、大幅に割り引いてくれるはずだ。
そしてそれを、いじめっこに、正規料金で転売すれば…」
ごくりと、パシリ達のがつばを飲み込んだ。
「そんな作戦が…!?
確かに、1個30円の差だとしても、10個買えば300円…」
「それが5日なら1500円!」
「つまり、一ヶ月なら…6000円のもうけが!!」
「すげえ!俺の小遣いより多いぞ!」
うおおおおお!
パシリ達から歓声が上がった。
「パシリ」といういじめ行為を受けているように見せ、その裏でいじめっこ相手から金を稼ぐのだ。
いじめを行い、悦に入っている奴らは気付かない。
自分が搾取される側だということを…!
「さらに!作戦はそれだけじゃない!
ここにいる全員、買い物の内容も、買い物する時間も同じだよな?
だったら…
一人一人個別に買う必要はない!
バケツリレーで届けられるぞ!!」
「なっ…!?」
「た、確かに…!」
「一括で買って、必要な分だけ取ったら、隣のクラスに回す、
これを繰り返せば…」
「そう!
もはや走る必要もない!
つまり…
君たちはもう、「パシリ」じゃなくなるんだ!!!」
「すげええええ!!!」
うおおおおおーーー!!
パシリ達から大歓声が上がった。
大革命だ。
明日から権力者は搾取され、いじめられっこが裏でほくそ笑む時代が来るのだ。
パシリ達の夜明けである。
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朝が来た。パシリ新制度の開始だ。
何も知らないいじめっこ・フジワラは、今日も笑いながら、ヒナをいじめてくる。
「ここに書いたもの、ぜーんぶ買ってきなさい!
10分以上かかったらデコピンだから!」
血も涙もない、冷酷な宣告。
しかし…。
「おまたせ」
「早っ!?」
想定外の早さで、ヒナは帰還したのだった。
疲れているそぶりも見せず、買い物もちゃんとできている…。
こんなはずではなかった。
ヘロヘロになって帰ってきてくれないと、いじめの意味がないではないか!
「おかしいわ…注文量、まだ足りなかったのかしら…。
明日はもっと注文してやる!」
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そして翌日、昨日以上に大量の注文を押し付けた。
といっても、協力してくれるクラスメイトには限度があるので、フジワラが自腹を切るのである。
いじめっことしてのプライドだ。
わが身を削ってでも、ヒナをいじめなくてはならない。
たとえ、どんなにボロボロになろうとも…。
ところがこの日も、ヒナはたやすくミッションをクリアしてしまった。
「おかしい!明日こそ…」
焦るフジワラ。
さらに注文量を増やす。
財布が痛い。心も痛い。腹もちょっと痛い。
(当然、注文したパンは全ておいしく頂いている。)
それでも、フジワラは誇り高きいじめっこなのだ。
屈することはできない。
しかし、ヒナは楽々クリアしてしまう。
フジワラ、もう泣きそう。
「明日はこそは…」
しかし、フジワラが報われる日は来なかった。
毎日ヒナは、過酷な注文量をこなしてしまう。
「増やさなきゃ、もっと、もっと…。」
その翌日は。
「もっと、もっと、もっと…。」
想像するのは容易だろう。
フジワラの金は尽き、反比例するように、体重計の数値は跳ね上がっていった。
フジワラ、完膚なきまでに自滅!!
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こうして、日に日にボロボロになっていくフジワラ。
もう財布を開く指さえ震えている。
それでも、フジワラは偉大なるいじめっこなのだ。
ヒナの情けない顔を見るまでは、イジメ続けなくてはならないのだ。
どんなにその身が辛くとも…。
…哀れだ。
哀れすぎる。
ヒナは見ていられなかった。
「…もう、やめよっか」
「…え?」
ヒナはフジワラの注文書を手ではらうと、隣に座り込んだ。
「確かに革命は成功した。
パシリの効率化には成功し、いじめられっ子たちはみんな笑顔になった。
だけど…気づいたんだ。
…大切なものを失っていたことに。」
大切なもの…?
「僕、本当は…
失敗して、フジワラに罵られるのが楽しかったんだ」
ヒナは思い出す。
パシリに失敗しては、フジワラにデコピンのお仕置きをされた、あの楽しかった日々を…。
「僕はフジワラのドSがないと、毎日味気なくて仕方ないんだ」
そう言って、ヒナは笑った。
それにつられて、フジワラもふっと微笑んだ。
「何それ…変態。」
しかし、その表情は穏やかである。
ほっと一息ついたかのような笑みを浮かべて、ヒナの横に腰を下ろした。
そしてふたりで、空を眺めた。
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こうして革命は終わった。
いじめっこへの復讐は終わったのだ。
明日からはまた、いじめられる日々が待っている。
しかし、これでよかったのだ。
肩を並べて屋上に腰掛けるふたりに、言葉はいらなかった。
なんとも良い雰囲気だった。
「そうだ、パン1個残ってたんだ。」
おもむろにヒナがそう尋ねた。
「半分こする?」
パシリの仕事として買ってきたパンだ。
その申し出に、フジワラはこくりと頷いた。
それは、クマの顔の形のパンだった。
毎日注文させるのに必死で、種類などろくに見てもいなかった。
こんな愛らしい商品もあったのか。
(かわいい…)
思わずフジワラは目を細める。
やっと訪れた平穏は、彼女をこんなにまで穏やかな表情にしたのだ。
…しかし、思い出してほしい。
残酷な現実を。
ヒナはフジワラに、「半分こする?」と尋ねたのだ。
次の瞬間。
ブチブチブチブチブチブチ!!!
フジワラの目の前で、無残にもクマの顔は、まっぷたつに引き裂かれた。
フジワラの顔から、見る見るうちに血の気が引いていく。
「ほら、半分こ」
そう言って、クマ「だったもの」を差し出すヒナ。
そこには慈悲の欠片もなかった…。
やっとフジワラに訪れた平和は、ヒナの手によって粉々に打ち砕かれてしまった。
「大っっ嫌い!!」
フジワラはそう叫ぶと、走り去ってしまった。
取り残されたヒナ。首をかしげるばかりだ。
ヒナはまたひとつ、このいじめっこのことがわからなくなった。