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自滅の1(前編):いじめるたび涙目、それがフジワラ

少年の名はヒナ。高校一年生。

特に困ったことはないけれど、ワクワクする特別な何かもない。

そんな平凡な毎日。


しかしその日、変化は突然訪れた。

「転校生を紹介する」

その声に導かれて教室に入ってきたのは、まばゆいほどの美少女だった。


挿絵(By みてみん)


長い黒髪は、高い位置でふたつに結ばれ、軽やかに揺れている。

陶器のように白い肌は、緊張のためか、わずかに紅潮している。

そして何より、黄金色のその瞳は湖のように透き通り…


ヒナの姿を捉えた。




ざわついていた教室が静まり返る。少なくともヒナにはそう感じられた。

その少女――フジワラの足音だけが響く。ふたりだけの時間。


フジワラが近づいてきた。息遣いが感じられるほど近く。

そして…また目が合った。




ヒナは確信した。

何かが変わる。この平凡な日常の何かが。

そして、それは結果として間違いではなかった。

しかし…。




誰が予想できただろうか。


この美少女・フジワラが、まさか…



い じ め っ こ



だったとは。






ヽ(゜ー゜*ヽ)ヽ(*゜ー゜*)ノ(ノ*゜ー゜)ノ└(∵┌)└( ∵ )┘(┐∵)┘ヽ(゜ー゜*ヽ)ヽ(*゜ー゜*)ノ(ノ*゜ー゜)ノ ◝( ⁰▿⁰ )◜  






「にょーほほほほほ!」


運命的な出会いからわずか4時間後。

そこには特徴的な笑い声を上げながら、机の上で威張り散らしているフジワラがいた。

「聞こえなかったの、ヒナ?パン買ってきなさい!」

そう言うと、たいして高くもない位置からヒナを見下ろし、高飛車に命令をする。



なんということだ。

清楚な見た目に反し、フジワラはいじめっこだったのだ。


そしてあろうことか、そのターゲットとして、ヒナは選ばれてしまった。

「最初に目が合った」という、なんとも理不尽な理由で…。



しかも、想定外の事態はそれだけではなかった。



「なぁに?私に逆らう気?そんな生意気なヒナは…踏んじゃうから!」

そう言うと、ヒナを踏みつけようと右足を上げてくる。

「ほーら、ほんとに踏んじゃうから!ほーら、ほーら…」


そう言いながら、足を上げたり下げたりしてくる。



それに慌てるヒナ。

それもそのはず。だって…


見えているんだ…

その…足を上げるたびに、スカートの下から…




…イチゴ柄の布が。




チラチラと。

チラチラと。


フジワラは気づいてない。

もしかして、おまえ…。




その時だった。


「あっっ!!足がつった!!」



そう言うと、フジワラはもがき出した。


ヒナの予想は確信に変わった。

間違いない。こいつ…




自滅するタイプのいじめっこだ…!!!




フジワラは足を抑えて苦悶の表情を浮かべている。

罰が当たったのか。


しかし…

その姿はなんとも哀れで。



ふう、とヒナは一息ついた。




「…え?」


フジワラの目の前に、手が差し出された。

「保健室行く?」

そう言うとヒナは、フジワラをおぶった。



驚くフジワラ。

どうして?

あんなにいじわるしたのに…。

そう言わんとばかりに、大きな瞳をうるませる。


しかし、言われるがままにヒナの世話になることにした。

ヒナの背中に体重を預ける。

その途端、心臓の音が大きく響き始めた。

頬もみるみる紅潮していく。



どき…どき…どき…

フジワラは動揺を隠せない。




そんなフジワラを背負いながら、ヒナも未だ味わったことのない感覚に包まれていた。


背中越しに伝わる体温。吐息。

そして…



確かなマシュマロ。




これから、平凡だった日常が変わっていくのだ。

色づいていくのだ。

…イチゴ色に。


ふたりはこれから始まる新しい学園生活に、思いを馳せるのだった。





ヽ(゜ー゜*ヽ)ヽ(*゜ー゜*)ノ(ノ*゜ー゜)ノ└(∵┌)└( ∵ )┘(┐∵)┘ヽ(゜ー゜*ヽ)ヽ(*゜ー゜*)ノ(ノ*゜ー゜)ノ ◝( ⁰▿⁰ )◜  




それからというもの、フジワラにいじめられる毎日が始まった。



「遅い!パンひとつ買うのに、どれだけ時間かかってるの!?」

今日もフジワラの怒号が響く。

しかし、いじめられっこ・ヒナは意外にも冷静だ。

それもそのはず…。



「いい?見てなさい!こうするのよ!」



そう言ってフジワラが見せてくれた手本は、クラウチングスタート。

「これで3秒は縮まるはず!あとは西校舎の非常階段を使えばさらに20秒はカットできて…」

手を床につき、腰を高く上げ、すぐに飛び出せる体勢をとる。

でもなぁ…その体勢…



見えてるんだよなぁ…スカートの中。



そんなことに気づきもせず、得意げに講義を続けるフジワラ。

見えてる…見えてる…丸見えだぁ。



今にも走り出さんとばかりに、フジワラは腰をフリフリしている。

もう、チラリどころではない。

丸丸の丸見えである。

今年の花見はこれでいいかな、とヒナは思うなどした。





ヽ(゜ー゜*ヽ)ヽ(*゜ー゜*)ノ(ノ*゜ー゜)ノ└(∵┌)└( ∵ )┘(┐∵)┘ヽ(゜ー゜*ヽ)ヽ(*゜ー゜*)ノ(ノ*゜ー゜)ノ ◝( ⁰▿⁰ )◜  





また、あるときは…。


「私、イチゴ味って言ったわよね?」

そう言って、ブドウの柄のジュースをちらつかせるフジワラ。

「こんな簡単な注文も覚えられないなんて、頭かたいのねぇ…♪」

パシリに失敗したヒナを、相変わらず微妙な位置から見下している。


「そんなヒナには、おしおきのデコピンよね…!!」

満面の笑みを浮かべながら、フジワラはじりじりと近づいて来た。

ヒナは逃げられない。


フジワラは右手をキツネの形に構え、ヒナの顔面に近づける。

かたく目をつむるヒナ。

そしてついに…デコピンが炸裂!


あまりの痛みに、その場にうずくまった!



…のは、ヒナではなかった。




右手を押さえてうずくまったのは、フジワラの方だった。

相当痛かったらしい。肩が小刻みに震えている。


「だから頭かたいんだって…」

フジワラの華奢な指は、無残にも負けたのだ。ヒナの石頭に。

あまりにもフジワラが哀れで、ヒナは慰めずにはいられなかった。






ヽ(゜ー゜*ヽ)ヽ(*゜ー゜*)ノ(ノ*゜ー゜)ノ└(∵┌)└( ∵ )┘(┐∵)┘ヽ(゜ー゜*ヽ)ヽ(*゜ー゜*)ノ(ノ*゜ー゜)ノ ◝( ⁰▿⁰ )◜  






また、別のあるときは…。


黒板をスマホで撮影しているヒナ。そこをフジワラが横切った。

「今、私のこと撮ったでしょ?盗撮なんて最・低☆」

ヒナの言い分など聞き入れない。

手にしたノートでひらひらとあおぎながら、因縁をつけてくる。

何かにつけてヒナに絡む要素を探しているようだった。


「これは没収ね!」

そう言ってスマホを取り上げるが。

勢い余り…。



「きゃあっ!」

フジワラはバランスを崩し、仰向けに転んでしまった。

しかも運悪く、そのとき手がすべり…。



カシャッ



スマホは無情にも、転倒するフジワラの姿を撮影してしまったのだ。

フジワラの…大きくめくれたスカートの中を、真正面から。



「うわぁ…全部開いて…。中身丸見えだぁ。」

「いやああああああ!!」




撮影された画像を見ながら、淡々とつぶやくヒナ。

フジワラはもう、大パニックである。

あろうことか、いじめたい相手に、一番恥ずかしい姿を見られてしまったのだ。



いじめっことして、そして一人の少女として、耐えられる屈辱ではない。

真っ赤になって涙を浮かべたその表情はまさに、

「穴があったら入れた…」

失敬、

「穴があったら入りたい」という言葉がぴったりだった。


絶望にうちひしがれるフジワラ。

しかし、ヒナが思わずつぶやいたのは、思いがけない言葉だった。



「でも、よく見ると…やっぱきれいだよな、フジワラ。」

「…え?」



ヒナの口から思いがけない言葉が飛び出し、フジワラは涙に濡れた目をめいっぱい見開いた。



「線が細いけどしなやかで。」

「え?」

「でも適度に丸みを帯びてて。」

「え?え?」



フジワラの頬がみるみるうちに、イチゴのように赤くなっていく。

「ど、どこ見てるのよ…」



きれい…?

あんな恥ずかしい姿の私が…?


そんな…どうしてそんなこと言うの…そんな…そんな…。



先ほどとは別の意味で、パニックになってしまったフジワラ。

これはまさか、このいじめられっことの、新たな関係の始まりなのか…?

そんな淡い思いが、フジワラのふわふわの胸を駆け巡った。



…が。

察しの良い読者はお気付きかもしれない。

このふたりの関係が、こんな簡単に進むわけがないのである。



こうしてフジワラの淡くほのかな期待は、この数秒後に見事に空中分解するのであった。


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