チ●イス
博物館の天窓から中をのぞく、巡回してる見回りのライトが下を通り過ぎる。
フラロウス『ルーサー早く!』心で言った言葉はお面を通してルーサーに伝わる。コレなら。声で気づかれることはない。
ルーサー『ちょっと、待ってて。』ルーサーは天窓から素早くロープを垂らして、それを伝って中に侵入する。
サンジュ「その調子だ。うまくやれ。」
お目当てのブローチは壁にあった。フラロウスはそれを素早くルーサーの袋に詰める。
ルーサー『やったね。』
すると、ブローチのかかっていたところから警報が鳴る。
サンジュ「しまった!重圧感知型だ!」
オセ「まずい!窓はだめだ!玄関は!」
フラロウスは焦った。自分ひとりなら切り抜けられるが今はルーサーがいる。とりあえず、玄関に走る。
運良く、内側から開けられて外に飛び出した。
博物館の窓に次々に明かりがつく、後からは、警備の集まる足音が迫る。
オセ「閃光弾!」
フラロウスは持っていた閃光弾を博物館に投げ込んだ。
カッ!
警備員「ぐわぁ!?」
その隙に、フラロウス達は逃げた。
サンジュ「見られたか?」
フラロウス「お面つけてるから大丈夫じゃない?」
2人は物陰に隠れながら、息を整えた。追っ手はない。巻いたようだ。
オセ「初回からこれかよ!」
ルーサー『ごめんよ、僕のせいだ。』
落ち込む新人に猿は言葉をかけた。
サンジュ「不可抗力だ。君のせいじゃない。」
オセが後でサンジュに何やら嫌味を言っている。小さくて聞き取れない。
サンジュ「……とりあえず、Cルートでアジトに帰ってこい。後に気をつけろよ。」
シエルが現着したのは明け方だった。
シエル「ローラ、状況は?」
ローラ「盗まれたのは沼の魔女のブローチです。」
シエルは釘だけの壁を見た。ブローチの日焼け跡だけが残っている。相当古くからここにあったようだ。
シエル「侵入経路は?」
ローラ「コチラです。」
天窓から伸びるロープ。
シエル「犯人は人間か?」
魔女関連の事件だからケースリーの犯行かと思ったが……
シエル「うーん、アソコからか……」
天窓をあらかじめ開けておくにも、どうやって?
はしご?現場にハシゴはなかった。鈎のついたコレを再利用?それもあり得る。
シエル「魔法で空を飛ぶのがないか魔導資料館で調べといてくれ。ろ」ローラはシエルの長い尻尾を見ていた。
自分でも、気づかなかったが、考え事をしてる時はシッポを左右にゆっくり振っていたらしい。長いフサフサのシッポが揺れる。それを見ているローラも心なしか左右に揺れている。
シエル『……自分でやろう。』
今日はレストランでランチ。
シエルの昼時間に合わせて、警察署の近くの店で待ち合わせ。
フラウ「モー、ヤになっちゃう!」
フラウは仕事の失敗を上司に怒られ憤慨してるらしい。
スパゲッティソースがほおについたまんまだ。チャトラの毛皮でもかなり目立つ。
シエル「ソレはさすがに理不尽だね。」
彼女の知らぬところで起きたミスを彼女のせいにされているのだ、怒るのも当然だ。
シエルは黙ってフラウの頰を拭った。
フラウ「あ、ありがと。」フラウは恥ずかしかったのか、赤くなった。
アジトに集まった四人。
その中でもオセは興奮した様子だった。
フラロウス「オセ、まだ怒ってるの?サンジュが不可抗力って言ってるじゃない。」
オセ「ソレはもういいんだ。俺が言ってるのは天窓の件だ。やっぱりロープはダメだぜ?!」
サンジュは低い唸り声を上げた。
ルーサーは縮こまって周りの大人達の様子をうかがっている。
隣でソレを見ていたフラロウスがそっとルーサーの手を握った。
サンジュ「俺のせいだ。焦っていたのかもな。今度から、ルーサー君には浮遊魔法を習得してもらう。」
オセ「何にしても、痕跡が残るぜ。サンジュ、やっぱり、フラロウスだけにしとこう?」
ルーサーの目に光るものを見つけてフラロウスが声を上げた。
フラロウス「この子は連れて行く。私の仕事には必要だもの。」
オセも寄り添う二人に何か感じるものがあったのだろう。ため息交じりに後ろ足で首のノミを掻きハラッた。
オセ「……分かった、わかったよ。浮遊の専門家の魔女の紹介をしてやるよ。」
遥か昔、魔女は幽世に身を隠した。現し世から魔女達にアクセスできる方法は限られている。
オセ「現行の魔法使い共は、ほとんど首輪付きだからな。足がついちまう。」
後日、オセに連れられてフラロウスとルーサーがやってきたのは郊外の静かな池とほとりだった。
そこに魔女が倒れた木に腰掛けて待っていた。
木漏れ日の中、コチラに気づいて笑いかける。
魔女「こんにちわ。ミリシャ(猫型亜人の古い俗称)。こんにちわ、小さい子。」
フラロウス「私が7代目、黒のサクラ猫でこっちは助手のルーサー。」
ルーサー「こんにちわ。」
魔女「まあ、そしたらあなた達が依頼を引き受けてくれたのですね!?」
魔女はルーサーの手を取った。
魔女「お師匠様のブローチを取り返せました。ホントに、ありがとう。胸の凝りが取れました。」
浮遊魔法を教えに来た魔女はリサに仕事を依頼した本人だった。その胸にはあのブローチが光っている。
魔女「あなたたちのおかげです、感謝しかありません。あら?」
ルーサーはその場に泣き崩れた。生まれてこの方、人に感謝されたことがあっただろうか?
自分の存在が初めて肯定された。
自分の働きが誰かのためになった。
フラロウスもしんみりする。貧民街でシエルと出会った時のことを思い出した。
オセ「まだまだ、これから働いてもらわにゃなんねぇ。ルーサー、しっかり勉強しな。」
ルーサー「はい。」
ルーサーは握りこぶしを作って立ち上がった。




