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9.欺罔

コルソンとレヴィアタンは驚愕した。

表向きの部隊、所謂広報担当の様な立場であり、

その実地位などあってない様なものである自分達とは違い、

才能も実力も経験も段違いの実務部隊。

そんな雲の上の存在達を実力で統括するアブラヘル。

雲上人をして雲の上と言わしめる彼女が、弾劾裁判に掛けられるというのだ。


「ハロウィンにはまだ早いぞ?」


彼等における「とぼけるな」の慣用句である。


「いやなに、どうやら本当らしいぞ。」


そこに活動を終えて戻って来たアマイモンが話しに加わった。


「アブラヘル様の話だろ?

どうやら本当らしいぞ。

亡命するんじゃないかって噂もあるくらいだ。」


「は?」「は?」


2人はぽかんとした。

自分達に亡命先など1つしか無い。

それは有り得ざる事だ。


「さぁアブラヘル、言い訳を聞こうか。」


「ふん、その気が無い事をわざわざ口にしないでくれる?

うっとおしいわ。」


「では甘んじて裁きを受ける。

そう言うのだな?」


「はぁ……。ドルギス。つくづく失望したわよ。

帰って来るなり嫉妬心丸出しで、何処の馬の骨がどうとか、何とか。」


「………なんだと?」


ドルギスはアブラヘルの安い挑発に簡単に乗った。

それは未だ彼自身は気付いていかなかった。


「それが最高統括者の態度か? と聞いているの。」


「キサマ………」


「ハッ! ほら見なさい。こんな安い挑発に簡単に乗る。

貴方に比べれば、思い上がって勘違いしてお前に歯向かって消された、

何時ぞやの蛇の坊やの方が、まだ巧くやるんじゃないの?」


ドルギスは内心ギクリとして冷静になる。

軽口とはいえ、客観的に見て的を得た意見だからだ。

矮小な小物と比較された事で、むしろ熱が下がったのだ。


「…………確かに表向きは、お前は契約を執行しただけだ。」


「でしょ?」


「しかし……」


そこまで言い掛けて、続く言葉を飲み込んだ。

魔力の気質がこの世界とは正反対であるから、

誰かに契約者を殺させて元に戻させるぞなど、

今の彼女には言えよう筈がなかった。

既に自分達に特攻を持つ彼女は、自分達にとって猛毒であり、

そんな事を言えばどうなるかは、自明の理である。

その事実は何としても伏せなければならない。


「しかし……? 何よ?」


肩をすくめて不思議そうな表情を魅せるアブラヘルに、ドルギスは取り繕う。


「しかし、お前の功績と実力を考慮して今回は不問とする。

だが、この様な事が続くと考えを改めなければならなくなる。

分かるな?」


「あぁ。」


「アーカンソーも良いな?」


「あぁ。異論はない。」


「あら、私は異論があるわ。」


アブラヘルはいけしゃあしゃあと言い放った。


「今度は何だ?!」


ドルギスは怒気を込めて言い放つ。


「今回の事で、結果として規定量を超えた筈よ。」


ドルギスは内心頭を抱えた。

そう来たか。

そう思ったのだ。

わざと聞こえるように、深く大きな溜息をついてから問い掛けた。


「………何が望みだ。」


この女狐と長話すると碌な事に成らない。

この馬鹿と長話がしたいなんて思う阿保が居るなら拝んでみたいものだ。

ドルギスはそう考えて、これ以上彼女との舌戦を放棄した。

彼女はニンマリと笑みを2人に向けて言った。


「選択よ。」


話を聞いたドルギスは、その程度でこの鬱陶しい女狐の溜飲を下げられるならと

渋々納得して立ち入りを許可した。

アブラヘルが去った後、アーカンソーがドルギスに耳打ちした。


「選択によっては前代未聞となりますが。」


「有り得んだろう。そっちの選択でケリだ。

問題起こらんよ。」


「………だと、良いのですが。」


「なるとも。そう言うものだ。奴等は。」


アブラヘルは意気揚々とポータルへと向った。

彼の最後の覚悟、勇気ある行動。

今度は自分がそれに報いるのだ。

救うのだ。

そう考えていた。

愛しいからこそ、その人の幸せを望む。

例え隣に自分が居なくても。


面倒な上司2人は丸め込んだ。

してやった。

後は実行に移すだけだ。


しかし、そこで一抹の不安を覚えた。

選択の力の行使の為、バランスとして用意せざるを得なかったもう一つの選択肢。

もし、万が一それを選んでしまったら?

そこでピタリと足が止まる。

戻って最初から選択肢を考え直すべきか?

やはりアレだけでは甘いか?

引き返して当たり障りのない報酬に変更すべきか?

となると、あの馬鹿2人を今度はどう言い包めようか?

思考を巡らせ最良の選択を考える。


いや、有り得ない。選択肢を誤るなど。

彼ならきっとそうする筈だ。

心配要らない。

上手くいくはずだ。

きっと彼なら私の想いを汲んでくれる筈。

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