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3.ランチ

マークは出社すると、部下の報告メールに一通り目を通して返信した。

時間になり、チームミーティングで他のチームリーダーとの業務連携を調整し、

担当者へ伝える。

部下がやらかしたミスをリカバリーした他のチームに感謝を伝え、

打ち上げの請求書は自分に回す様に言って関係修復を図る。

上司への報告を済ませると、どっと疲れが出た。

デスクにコーヒーメーカーから汲んだコーヒーと、

引き出しからビスケットを取り出し、コーヒーで流し込む。


通常業務に取り掛かりキリが良いと思ったら丁度ランチの時間になっていた。


「さてと。」


デイリー・ブリューに入り、いつもの席に向かう途中、

例の不気味なクラウン人形が他のボックス席に居たのを確認した。


「ハァイ。ここよ。」


「やぁ。お待たせ。来てくれて嬉しいよ。」


マークは近寄って来たウェイトレスに

クラブサンドイッチとパニーニ、コーヒーを2つ注文した。


「どうだろう?」


「うん! 凄く美味しいわ!

ドンドン食べれそう!」


「気に入ってくれた様で良かったよ。」


「パニーニは如何かしら?」


「うん、ハムとチーズがこんがりトーストと良くマッチしているよ。

おかわり出来そうなくらいだね。」


「ウフフ、貴方の体型ならもっと食べれそうね。」


「そうだね。でも以前はもう一回りぽっちゃりとしていたんだ。」


「うっそ?! 信じられない!」


「本当だよ。

それでジムでボクササイズを始めたんだ。」


「貴方は素晴らしい人ね。」


「そんな事は無いよ。

今日の午前中も、周りへのおべんちゃらでおしまいさ。」


「それだからよ。

中々出来る事じゃ無いわ。

でも、それをボクササイズで発散しているのね。」


「そうだね、それで発散しているよ。

慣れれば、中々楽しいんだ。

キミはどうなのかな?

この仕事をしていて、何か溜まるものはないのかい?」


「うぅ~ん……そうねぇ。

たまに、自分の立場分かってないお馬鹿さんがいるの。

その力を寄越せとか。

中には力ずくで奪おうとかね。」


「へぇ。そんな無駄な事を?」


「そう、無駄なのよ。流石物分かりが良いわね。」


「少し考えれば分かるよ。

突然翼を貰っても、飛び方が分からないから無用の長物だと思うんだ。

まぁ、最悪飛び方ならトライアンドエラーで何とかなっても、

そんな超常の力なんて、恐ろしくてトライアンドエラーをする気が起きない。」


クラウン人形は狂笑の仮面の表情を、更に笑顔を掛け合わせた表情をして答えた。


「全くその通りよ。

貴方は欲しいとは思わないの?」


「思わないね。

持ち慣れないモノは持ちたくないんだ。

大なり小なりトラブルの元になるからね。」


「それは良い心掛けね。」


「ところでキミのストレス発散について聞かせてよ。

まぁ何となく分かるけど。」


「そうね、多分貴方が想像した通りだと思うわ。」


「なるほどね…。」


マークは「今迄で一番スカッとしたエピソードは?」と言い掛けたが、ゴクリと飲み込んだ。

少し踏み込み過ぎだと思ったからだ。

代わりにこう問い掛けた。


「キミには、何か趣味は無いのかい?」


「趣味?」


「あぁ。何か仕事以外で打ち込めるものがあった方が良いと思うんだ。

仕事と趣味が一致している人は、少し危険だと思うんだ。」


「そうなのね……。何かあるかしら?

貴方はボクササイズ以外に何かあるの?」


「僕は、ビデオゲームと映画かなぁ。」


「あぁ、映画ね。

昔、今作っている映画が作り終えるまで延命を願った映画監督が居たわ。」


「へぇ。それは興味深いね。

ご病気か何かだったのかい?」


「えぇ。何度も聞き返したわ。

本当に後悔しないのねと。」


「そうか、それは残念だね。」


マークは、その監督の行き着く末路が容易に想像出来て、やはりやたらめったらに願うものだはないと再認識した。

そして、図らずとも聞いて確認出来た事に内心安堵した。


「ウフフ。貴方本当に賢いわね。

この手の話をふっても、努めて浅瀬で引き返すわ。」


「言ったろう?」


「そうね。聴いたわ。

本当にそうなのね。驚いた。」


「小説を読んでみるのはどうだろう?」


「小説ね。読んだ事無いわね。

何かお勧めはある?」


「ジョークやコメディ要素がある話が取っ掛かり易いと思うんだ。

SF小説だけど、スラスラ読めると思う。

明日にでも持ってくるよ。

同じ時間にここで良いかな?」


「えぇ、そうね。

ありがとう、楽しみにしてるわ。」


マークは支払いを済ませて共に店を出ると、クラウン人形と別れた。

その後ろ姿から望む腰付きに色気を感じた。

思い返せば、当初より不気味なクラウン顔も気になっていない事に気付き、

心の変化で見え方も違うものかと感じ、

あのクラウン人形と性交渉を望んだ者達との

差異は何かと考えながら会社へと戻って行った。

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