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2.日常への一石

マークは驚いた。

そこには見知って住み慣れた街が、変わらずあったからだ。

では何に驚いたか。

あの不気味なクラウン人形は、さも当然であるかの様に颯爽と街を歩いている。

しかし、誰も不気味なクラウン人形の事など気にしない。

周りは、ごく普通の人間であるかの様に振る舞っていたのだ。


「さぁ、取り敢えず今日のところは帰りなさい。

レクチャーは明日からね。」


そう言うと、クラウン人形は住宅街の方面へと去って行った。


(何だか……良くわからないな。

変わった事と言えば、夜が朝になっている事くらいか。)


そう考えると、慌ててスマホを取り出して日時を確認する。


『2026年4月19日(日)6:24』


マークは安堵した。

あれから6時間程しか経過していなかった。


(眠くないな。疲れても無い。

………帰って続きやろ。)


マークは近所のコーヒーショップでコーヒーを買うと、アパートの部屋へと戻った。


合間合間で洗濯をし、数時間が経過してジムが開く頃になると、

着替えてバスに乗り込み向かう。


汗を流し、シャワーを浴び、帰宅してテイクアウトしたコーヒーに、

作っておいたサンドイッチを流し込む。

午後になると洗濯物をたたみ、掃除機をかけて部屋を片付けて、

再びビデオゲームに興じた。

キリの良い所でセーブして電源を落とし、

着替えて近所のダイナーへと向った。


「おう、マーク。来たか。」


「こんばんわ、トム。」


「スーザン、コーヒーにチリビーンズをお願いするよ。」


「はいよ。」


いつものボックス席に座り、ポケットからメモ帳とペンを取り出して、

昨日からの出来事を書き始めた。

やがて料理に手を付けようとしたその時だった。


「こんばんわ。」


人の気配がするなと思っていたら、その人物は前に座ったのだ。

見ると、例のクラウン人形だった。

コーヒーとワッフルを注文した様子で、スーザンがニヤニヤとした表情をマークに向けながら置いた。


「………悪い夢を見たのかと思ったよ。」


「色々と私の環境整備があったからね。

さて、先ずは基本的な事のおさらいから。」


「オッケー。宜しく。」


「相手の目を見て話すこと。

誘う場合はランチから。

夜間は警戒心や不安感を与えるわ。

相手と話す時は、姿勢を崩して。

飲み物があるなら持った方が良い。

リラックスして話しやすい雰囲気を演出するの。

ここまでは良いわね?」


「あぁ。」


「じゃあ、はい。ほら。」


クラウン人形は両手を胸の高さまで上げてクイクイと指で手招きをした。


「明日、会社近くのカフェで、ランチをごちそうさせてくれないかな?」


「うん、いいわよ。誘ってくれてありがとう。」


「ところで……いや、何でもない。」


マークはクラウン人形の名前を尋ねようとしたが、

知らないほうが良いのかもしれないと思い留まった。

小説や映画では、好奇心が強いサブキャラは殆ど身を滅ぼしている。

それに、クラウン人形は単なるトレーナーであり、

それ以上では無い。

そう再認識したのだ。


クラウン人形はマークという男の思考と観察力、

自分を律する様な警戒心に感心した。

自分が接してきた人間達の中でも一番人間離れしている。

自分を抱いた者は必ず名前を尋ね、

巨万の富の富を得た者は高い確率で関係を求めた。

そして必ずその質問を投げ掛けた事を後悔し、

泣き崩れて質問の取り消しを懇願して来た。


(さて、彼はどんな結果に落ち着くかしら?)


クラウン人形はマークに数多の契約者の中で唯一、

興味を持ち始めていた。


マークは感心した。

その頬まで裂けた大きな口で、よくもまぁ小器用にコーヒーとワッフルを平らげた物だと思ったのだ。


「そうだ、キミは僕の会社へは近いのかい?

遠ければ、日にちと場所を改めた方が良い。」


「うん、大丈夫よ。

私も近くに居るから。

デイリー・ブリューでしょう?」


「うん、そうさ。知っているのかい?」


「えぇ。」


「そりゃいいや!

僕はあそこのクラブサンドイッチが大好きなんだ。」


「そうなのね。

私はいつもパニーニを頼むの。

明日はそれを試してみようかしら?」


「うん、是非試してくれ。

じゃあ、僕はパニーニを試してみるよ。」


「ウフフ、明日は試食会ね。

楽しみだわ。」


「あぁ、そうだね。」


1時間程経過して帰宅する時間となった。

マークは伝票を持って席を立つ。

2人分の支払いとチップを渡すと、

スーザンがニヤニヤとしていた。

マークは困った苦笑いをスーザンに投げ掛けて帰路に着き、

クラウン人形は感謝の言葉と別れの挨拶をして住宅街へと去って行った。


「マークのヤツも隅に置けないな。」


「そうね、凄くスタイルの良い女性だったわ。

まるで女優さんみたい。」


「女優さんね、顔は……」


2人は不思議とその話題をそこで止めて、

他の常連客の対応に移った。

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