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11.エピローグ

「諸君。かの者達を“水”とするなら、

我々は“油”だ。

それは、本来決して混じり合わぬ存在。

互いに異なる役割を持つ存在だ。

だが。

油は汚れではない。水が清らかさを象徴するなら、

油は熱と力を象徴する。

水には水の役割があり、

油には油の使命があるのだ。

しかし。

乳化という方法を用いれば、これらは1つになる。

互いに交わり、新たな可能性を生み出す。

確かに我々は“異なる”。

だが、決して“敵”ではない。

異なるからこそ、1つとなる意味がある。

異なるからこそ、共に新たな力を築けるのだ。

さあ、共に生きようではないか。」

ーサンクタリア大聖堂合同集会での魔神ベルカンゾの演説の1節ー




「あれから40年か。感慨深いね。」


思い出のリバーサイド・グリーンで、すっかり様変わりした景色を眺めながら、

アブラヘルに言った。


「そうね。

でも私は、その前に30年最奥で待たされたわ。」


「これでも、大急ぎで向ったんだけどね。」


「ウフフ。冗談よ。分かるでしょう?

私達にとっては……」


「3週間待った程度の感覚だよね。」


「ええ、そうよ。」


「わ、見て! スタイスだ! まだ生きてたのか!」


「あぁ、いつか言っていた貴方の部下だった人ね。」


「あぁ。でも……近いね。」


「そうね。」


マークはキロルミロルバーガーでチーズバーガーセットを2人分購入して、

席へと運んで来た。


「ありがとう、マーク。」


「あのフードトラックのチーズバーガーも、

今やチェーン展開する程とはね。」


「そうね、オドロキだわ。

味が変わっていない事が特に。」


「全くその通りだね。」


2人が支配する世界のツートップが、

公園のバーガー店でチーズバーガーにかぶりついている。

談笑ののち、住宅街へと向った。


「見て、まだあったわ。

随分と古ぼけているけど。」


「あぁ、本当だね。

懐かしいな。」


2人は半ば廃墟となったマンションへと入っていく。


「この部屋ね。」


「そうだね。ここだ。僕達が結ばれたのは。」


「マークがあんなにエッチだったなんてね。」


アブラヘルは、はにかみながらマークに顔を近付けて、下から見上げる。


「そう言ってくれると寧ろ嬉しいね。

初めてだったから必死だったんだ。」


「えぇ! 嘘でしょう?!」


「本当さ。」


アブラヘルは瞳を淡く光らせてマークをジッと見つめる。


「本当だ……。」


「愛しい人、そんな事に運命の間へ同期をしないでくれ。」


「ねぇ、マーク。

この思い出の場所でもう一度燃えない?」


「勿論だ、愛しい人。愛してるよ。」


「ウフフ、私もよ。童貞さん。」


翌朝、2人はデイリー・ブリューで朝食をしてから帰ろうという事にした。


「貴方が勤めていた会社は近くよね?」


「そうだね。

今は別の会社に吸収合併されたみたいだけど。」


そこに、青白い顔をしたやせっぽちな男が近寄って来た。


「せっかくの休暇中に申し訳ございません、ベルカンゾ様。」


「どうした? ナルギギトー。」


「かの方がお会いになられると。」


「ほう………? 用向きは?」


「ベルカンゾ様が再三要求していた終戦協定についてだそうです。」


「分かった。直ぐ行く。レオドリスを待機させろ。」


「………暗」


「念の為だ。この感じ。気付かんか?」


ナルギギトーは、瞳を閉じて気を探る。


「………ガブリエル。」


「然り。あの告げ口女は信用ならん。

おかしな素振りを見せれば、判断は任せるから女を殺れと伝えろ。

責任は私が取る。」


「御意。」


こうして緊張の中、かの方とベルカンゾとの対談が行われた。


「父よ。私は反対です。

この者達は即刻始末すべきです。」


「どうして、そう思う?」


「悪魔だからです。」


「娘よ。お前は」


そこでベルカンゾが口を挟む。


「失礼、主よ。

ガブリエル殿。

私怨で物を言うのはこの場に相応しくない。」


「なっ……私怨などと……」


「おや? 違うのかね?

その事は告げ口していないのかな?

私は無き愛人の敵だと。」


「………な、何の事でしょう。」


「おや失敬。

今し方この方と話した感じでは、

終戦協定の事といい、今初めて聞いた感じとお見受けしたので、

私はてっきり貴女が謀………」


「貴様………! 黙れ! 黙れ! 黙れ!」


そこでかの方が口を挟む。


「娘よ。どういう事ですか?」


ガブリエルは、みるみる青褪めていく。


「話を有利に進める為のブラフでしょう。

気にしてはいけません、父よ。」


「そうですか………。」


途端にガブリエルは、かの方を視認出来なくなる。

他の者同様に、人形の白い光の靄とだけ視認する。

その必要も資格も無い者には、かの方は視認すら出来ないのだ。

かの方を正しく視認出来て、声が聞こえ、

自身の声を届ける事が出来ているのは、

この場ではアブラヘルとベルカンゾだけになった。


「告白しなかった事だけは、読みきれなかった様ですな。」


ベルカンゾが、かの方の予想外を指摘した。


「その様ですね。全くお恥ずかしい限りです。」


ベルカンゾは静かに頷ずく。

それを合図にレオドリスが一気にガブリエルの首を跳ねた。


こうして永きに渡り繰り広げられて来た戦争は終結された。

その世界の住人達は自分達の見知った世界、

ましてや最も神聖なるサンクタリア大聖堂へ、

錚々たる者達が居並ぶ光景には、

流石に驚きを隠せないでいた。

そこを、そんな者達すら子供に見えてくる程に、

圧倒的な魔力を持つ2人が、

かの方と共に祭壇へと進み出た。


その後、このふたつの世界は交流を深め、

やがてひとつへとなって行った。


ベルカンゾは数年前に処刑したドルギスと、

隣へ新たに埋葬したガブリエルの墓を訪れていた。


「選択を誤った君達へ。」


ベルカンゾはドルギスの墓へそっと、

いつか購入したマリーゴールドのハンカチを手向けた。

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