第6話 幻想跋扈の古都《洛陽》 Act2 雷鳴轟く桃源郷
「アー、テス、テス、帝国の元最強! こちら千機 慧ちゃんです~、今日は配信告知をしたいと思います~! なんとなんと2日後の午後12時に、旧中国領の《洛陽》で疑似魔核配信《幻想生物・麒麟》とのバトルを生配信する事に決まりました~! お時間のある慧ちゃんファンの皆は是非是非、視聴お願いします~、以上、慧ちゃんからの配信告知でした~」──────ブツンッ!
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〖え? 慧様の配信て昨日あったばかりだよな?……それが2日後。旧中国領から生配信?〗
〖さっきの告知配信で外に映ってた場所たしか龍門石窟って場所だよね? ていう事は既に現地には居るって事が予測出来るから。EU圏から東アジアの中国圏まで移動?……ヤバすぎでしょう〗
〖いや、それも十分ヤバいんだけど……《幻想生物・麒麟》とのバトル? どういう事だ? 麒麟って。あの伝記や物語に出てくる麒麟って事か? 何でそんな生物が魔核領域に生息してるだよ!〗
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古都〖洛陽〗南方──龍門石窟
「うわぁ~! SNSも動画サイトもどこもかしこも、さっきの告知配信で大荒れですよ。慧様~」
「……うん。魔核考察中がそこら中に沸いてる」
「そうなんだ。それよりも今は、部隊の安全の確保を徹底するのが最優先だよ。九条大佐は隔離結界を半径3キロ以内に早く展開して。皇中佐は粒子転移装置の小型デバイスがこちらでも正確に動くか直ぐに確認を」
「は、はい! 千機大将様」
「……さっきの告知配信の千機先輩とは別人みたい」
「アホ2人が! 当たり前だ。慧は過去に旧中国領・上海と旧ロシア領 ウラジオストクでの激戦を経験しているんだぞ。人一倍、魔核領域での活動にはシビアになるのは当たり前の事だ。ましてや今回は慧直属の精鋭軍人100名をこんな汚染が進んだ中央地帯に向かわせるなど。天理新元帥はどうかしている」
「で、でも。昨日まで居た。旧イギリス領では何にも起きませんでたよ」
「……そう。任務もスムーズに終わったイメージがある」
「それはロンドン戦地だったからの話だろう? 旧イギリス領の本当にヤバい場所はウェールズだ。あそこは五大 魔核領域で一、二を争う人外魔境の世界と化していて、ドイツ機関の情報では、竜という存在がだな…」
「近江副官。お話はそこまでにしてくれるかな? 龍門石窟での野営地設置後、ここの守りは貴女に任せ。私は九条大佐と皇中佐を連れて古都 《洛陽》に向かう予定だけどそれで良い?」
「ああ、それで問題ない……しかし、慧は何とも思わないのか?」
「……何がかな?」
「何が? じゃない! 今回の任務は明らかに不当だと思わないのかと聞いているんだ! お前は可笑しいと思わないのか? 昨日まで旧イギリス領の任務にあたっていた者を、1日も休ませずに旧中国領の任務にあたらせているんだぞ」
「それが上からの任務なら従うしかないでしょう。私達…は軍人なの。上の命令には逆らえない」
「……それで苦楽を共にしたお前の部下達が死地に向かわされててもか? お前は元とはいえ、自分の部下の身の安全も心配しなくなったのか? け…」
近江は私の着ている軍服の襟を両手でおもいっきり掴んで、顔を近付けて来た。
「そんなの心配に決まってるでしょう! だから近江に皆を任せて、少数精鋭で洛陽に乗り込むって決めたの。それが皆で、千機部隊の皆が帝国に帰れる確率が一番高い選択なの……私が囚人として捕まった時もそう取り決めて今の貴女の立場があるんでしょう?」
「つっ……済まない。少し熱くなってしまった。反省する」
そう言い終えると掴んでいた軍服の襟を離し、ばつが悪るそうに液晶タバコを吸い始めた。
「もう。相変わらず。熱くなると直ぐにイライラして周りが見えなくなるよね。近江は……まあ、そんな所が素敵なんだけどね。行動がアホの子で」
「……誰がアホの子だ。天然滴し」
「ムカッ……誰が誰を天然滴し込んでいるのかな?」
「……私を含めた今回の任務に一緒に付いてきた元千機部隊全員だな。」
「ハイ! その通りです。近江副官」
「……激しく同意する」
「ちょっと言っている意味は良く分からないけど。まあ、良いや……それじゃあ。九条大佐。皇中佐。これより本任務を開始します。今回のターゲットは古都 《洛陽》に住まう幻獣・麒麟の討伐……もしくは捕獲になります。行きましょう」
「「ハッ! 了解しました。千機大将殿」」
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─────落日の古都に落雷が落ち続ける。無人の大都市を雷光纏う幻想の獣が闊歩する。
銀色の鬣、白天を貫く様な立派な鋭角、千里の道を見通す白色の眼。その姿を見た者は口を揃えてこう言うだろう。白雷の美しき獣と。
そうここは《雷霆・麒麟》が支配する雷鳴落日の古都 《洛陽》なり……